~1万人の生活者アンケートから見えた「気候変動適応」などの新たな付加価値~
株式会社日本総合研究所(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 内川淳、以下「日本総研」)は、昨年度(注1)に引き続き、全国の18~69歳の男女1万人を対象に、「社会課題に配慮した食」に関する調査(以下「本調査」)を実施し、報告書として取りまとめました。
この報告書は、以下からご覧になれます。
『社会課題に配慮した食に関する生活者意識調査2026』(以下「本報告書」)
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/pdf/company/release/2026/0217.pdf
■本調査の背景と目的
食料安全保障は、農作物の栽培から食品の製造や流通・販売、消費に至る一連のプロセスから成る食料システムの能力を指すものであり、環境や資源、労働といった「社会課題」にも対応しながら安定的な維持を図っていくことが必要です。
「社会課題に配慮した食」とは、社会課題に対応する役割を持たせた新しいカテゴリーの食品です。ただし、商品としてはそのためのコストの上乗せが見込まれるため、普及には事業者のほか、それらを購入する生活者側のリテラシーも欠かせません。そこで日本総研では、「社会課題に配慮した食」に対する生活者のコスト負担意向を把握することを目的に、「日本の食料自給率向上」「食品ロスの削減」「環境への配慮」「労働・人権への配慮」「アニマルウェルフェア」の社会課題5項目をテーマとした本調査を昨年度に続き実施しました。
また、25年ぶりに改正された食料・農業・農村基本法(2024年6月施行)において、「環境と調和のとれた食料システム」の確立が新たな基本理念として位置付けられたことを契機に食品システムに関わる事業者の間で関心が高まっている「気候変動適応」について、本年度新たな社会課題として調査しました。
なお、「社会課題に配慮した食」への消費性向を把握するため、本年度も、食生活に関する価値観から生活者を6つのセグメントに分類し、それぞれ分析を行っています。
■本調査の概要
調査方法: インターネット調査
調査期間: 2025年12月19日~25日
調査対象: 全国の18~69歳の男女(食品・外食サービス等の購入・利用をしないことが多い人、または食に関心がない人を除く)
回答数: 10,000名
主な調査項目:普段の食に対する関心や食の選択基準
社会課題に配慮した食への置換意向
置換時の追加での支払い意向
※本調査では社会課題を「日本の食料自給率向上」「食品ロスの削減」「環境への配慮」「労働・人権への配慮」「アニマルウェルフェア」「気候変動対策」の6項目とし、回答者には回答前にそれぞれの課題についての説明を行った。
■「社会課題に配慮した食」の付加価値の試算
食品や外食先を選択する際に、社会課題への取り組み状況を考慮すべきかどうかについては、5つの社会課題いずれにおいても「考慮すべきだと思う」とする回答が80%を超えました(図表1は平均値。社会課題ごとの値は本報告書に記載)。
(図表1)食の選択時における社会課題への考慮の有無
Q. 普段の食品・飲料や外食(宅配サービスを含む)を選ぶにあたって、次の社会課題に取り組んでいるかどうかを考慮すべきだと思いますか、思いませんか。選ぶ対象のものの味・値段といった他の条件は同一という前提で、お答えください。(単回答)

また、社会課題に配慮した食に置き換える場合、どの程度の値上げまでであれば支払えるかについても、社会課題別に意向を調査しました。その結果、いずれの社会課題においても、値上げを許容できる範囲を「5%程度」「10%程度」「20%程度」とする回答の合計が半数を超えました(図表2は平均値。社会課題ごとの値は本報告書に記載)。
(図表2)社会課題に配慮した食への価格許容度
Q. 普段の食品・飲料や外食(宅配サービスを含む)を選ぶにあたって、次の社会課題について“取り組んでいる”ものと分かった場合、どの様に思いますか。価格以外の他の条件は同一という前提で、お答えください。(単回答)

これらの結果を踏まえて、社会課題に配慮した食に対する需要を試算したところ、「日本の食料自給率向上」による付加価値への需要が最も大きく、約8,426億円となりました。その他の社会課題については、支払い意向の低下により昨年度試算から縮小する結果となりましたが、社会課題に配慮した食の市場全体では、昨年度同様、約1兆円規模となることが分かりました(図表3)。
(図表3)「社会課題に配慮した食」による付加価値の試算

■「気候変動適応」について企業が行う対策と生活者の置換意向
気候変動に関する取り組みには、前出の社会課題としても取り上げた「環境への配慮」のほか、気候変動が生じた場合でも食料システムを維持するための「気候変動適応」があります。この気候変動適応について企業が行える対策は、主に農産物の品質低下に対しての対応策であり、例えば気候変動に強い作物の開発や気候に影響されない新たな農法の開発などが挙げられます。
こうした気候変動適応に対応した食について生活者に置き換え意向を尋ねたところ、「わからない」との回答が40%ほどに上り、認知度が他の社会課題と比べて低い状況にありました(図表4)。
(図表4)各課題に取り組んでいる食への置換意向
Q.普段の食品・飲料や外食(宅配サービスを含む)について、次の社会課題について“取り組んでいる”ものがあった場合、どう思いますか。選ぶ対象のものの味・値段といった他の条件は同一という前提で、お答えください。(単回答)

一方、価格許容度では特徴的な結果が見られました。気候変動適応に対応した食への置換意向のある回答者(39.5%/図表4)においては、価格が上昇しても選ぶと回答した割合が70%を超え、さらに「20%程度」以上の価格上昇でも選ぶと回答した割合も30%を超えるなど、他の社会課題よりも高い水準となっています(図表5)。
このことから、気候変動適応に対応した食については、生活者への理解獲得によって価格転嫁が比較的スムーズに進みやすくなるものと考えられます。
(図表5)各課題に取り組んでいる食への置き換えにおける価格許容度
Q. 普段の食品・飲料や外食(宅配サービスを含む)を選ぶにあたって、次の社会課題について“取り組んでいる”ものと分かった場合、どの様に思いますか。価格以外の他の条件は同一という前提で、お答えください。(単回答)

■「社会課題に配慮した食」として認められる付加価値
本調査では、生活者を「食は生活の要層」「食でも自己表現層」「食に時間をかけられない層」「できる範囲で食を大切に層」「食は手段層」「食に低関心層」の6つのセグメントに分け、それぞれどの社会課題に配慮した食に関心を示し、付加価値を認めるのかを考察しました。
なお、ここでは特に生活者の置換意向が高い結果となった「気候変動適応」を対象に考察を進めます。
※「気候変動適応」以外の社会課題に関する調査結果および各生活者セグメントの属性については、本報告書に詳細を記載しています。
1.「社会課題に配慮した食」への置換意向
置換意向は「食は生活の要層」(生活にやや余裕がある50代・60代の主婦を中心とした層)「食でも自己表現層」(SNSに影響を受ける、やや年収が高めの18~29歳の若者を中心とした層)で高く、特に「食は生活の要層」では60%強が食事を社会課題に配慮した食に置き換えたいと回答しており、本市場が置換意向の高い生活者層に支えられていることが分かります。
なお、いずれのセグメントにおいても、「生鮮食品」および「嗜好品を除く加工食品」に充てる食費の割合が最も高い傾向が見られますが、なかでも「食は生活の要層」では、この傾向が他セグメントと比べて顕著でした。また、「食でも自己表現層」では、他セグメントと比較して「菓子類や清涼飲料」「外食」に充てる食費の割合が高いという特徴が見られました。これらの結果から、「社会課題に配慮した食」への置換は特定のカテゴリーに偏ることなく、比較的広範に進んでいくことが推測できます。
(図表6)生活者セグメント別の「社会課題に配慮した食」への置換意向
Q.普段の食品・飲料や外食(宅配サービスを含む)について、次の社会課題について“取り組んでいる”ものがあった場合、どう思いますか。選ぶ対象のものの味・値段といった他の条件は同一という前提で、お答えください。(単回答)
※本設問の「次の社会課題」は「気候変動適応」を指す。また、以下は「変えたいと思う」と回答した人の割合

2.「社会課題に配慮した食」への支払い意向
社会課題に配慮した食に対して、「食は生活の要層」「食でも自己表現層」では、値上げを許容できる範囲が、他のセグメントと比べて全体的に高い傾向にあります。加えて、この2セグメントでは、値上げ許容範囲が「20%程度以上」と回答した割合が4割を超えました。
(図表7)生活者セグメント別の価格許容度
Q. 普段の食品・飲料や外食(宅配サービスを含む)を選ぶにあたって、次の社会課題について“取り組んでいる”ものと分かった場合、どの様に思いますか。価格以外の他の条件は同一という前提で、お答えください。(単回答)
※本設問の「次の社会課題」は「気候変動適応」を指す。

■まとめ
農業・食品産業を取り巻く多様な社会課題の中で、本調査では、昨年度に引き続き特に注目の高い5つの課題を対象に分析を行いました。その結果、これらの社会課題に配慮した食は、前回調査と同様に、約1兆円の付加価値を食市場にもたらすと試算されました。これは、事業者が本領域への投資を進めるうえで、十分な市場規模であると言えるでしょう。
また、今回新たに調査対象とした「気候変動適応」については、他の社会課題と比べて現時点では認知度はまだ低いものの、置換意向のある生活者の価格許容度は想定的に高いことが明らかになりました。今後、認知度の向上が進めば市場が拡大する可能性が高いと考えられます。
食は生活の根幹を支える重要な産業であり、社会課題の発生を防ぐ取り組みとともに、課題が生じた場合でも供給を維持するための「適応」の取り組みが不可欠です。新たな品種の開発や産地の開拓といった「適応」の取り組みには時間的・経済的なコストを要するため、将来的な市場拡大の可能性が示された意義は大きいと言えます。本調査の結果が、こうした両輪の取り組みを通じた、持続可能な食料システムの構築を後押しするものとなれば幸いです。
(注1)「社会課題に配慮した食」の市場規模を1万人の生活者アンケートから試算(日本総研ニュースリリース/2025年2月20日)
https://www.jri.co.jp/company/release/2025/0220/
◆日本総合研究所
日本総合研究所は、生活者、民間企業、行政を含む多様なステークホルダーとの対話を深めながら、社会的価値の共創を目指しています。シンクタンク・コンサルティング事業では、パーパス「次世代起点でありたい未来をつくる。傾聴と対話で、多様な個をつなぎ、共にあらたな価値をつむいでいく。」を掲げ、次世代経済・政策を研究・提言する「リサーチ」、次世代経営・公共を構想・支援する「コンサルティング」、次世代社会・市場を創発・実装する「インキュベーション」を、個人間や組織間で掛け合わせることで、次世代へ向けた価値創造を強力に推進しています。
以上
■本件に関するお問い合わせ先
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