ホログラム素材が生む光の乱反射によって華やかさを演出した

●今は、“和”のアイデンティティを主張する時代ではない

――“日本の伝統との融合”というテーマと聞くと、どうしても古風でコンサバティブなイメージの商品を思い浮かべてしまうが、ナカザト氏の解釈によって生まれたのは非常に先進的でポップなデザインの商品。ここにはどのような思いがあるのか。

ナカザト氏：この企画には「日本から世界へと発信していく」というテーマがあるのですが、日本ならではの“和”を世界に発信していく際には、それを世界に理解される“言語”に置き換えてあげる必要があるのではないかと感じています。“和”を全面に押し出しすぎてしまうと、世界中の人の中には少し抵抗を感じてしまう方もいる。国や歴史、伝統を感じさせることなく日本ならではの文化や技術に触れてもらう機会を作りたいという思いは、以前から強く持っていたのです。

ヨーロッパの学校（アントワープ王立アカデミー：ベルギー）でファッションを学んでいたときには、世界中から学生たちが集まっていて、当然ながら彼らには自国のアイデンティティがあるわけです。そこでは、“和”だから特別だということはなく、全ての文化が平等でありそれぞれの文化がアイデンティティを持っている。そうした中で、自分たちのアイデンティティを全面に押し出してしまうと、逆に周囲の文化との壁を生み出してしまうのです。なので、今回のデザインでは“和”のアイデンティティや日本の伝統的な部分をあえて直接的主張したくはなかったのです。

歴史的にみて、これまで日本のファッションデザイナーが“和”をモチーフとした作品を海外で発表して受け入れられた時代もあると思います。しかし、より世の中がグローバルで繋がりフラットになってきている今の時代において、こうしたアイデンティティの主張は実は時代に合っていないのではないでしょうか。“和”を強く主張するのではなく、手に取ってみたくなるようなファッションとしての高い品質や心を動かされるような斬新なデザイン表現といった、グローバルで通じる共通の“言語”で伝えていくというのが重要だと感じています。

●ファッションを通じて消費者の中に溶け込むことで、伝統文化は生き続ける

――今回の作品作りを経て、今後どのような創作活動をしていきたいか。

ナカザト氏：日本には、まだまだ良い伝統的な技術や素材がたくさん眠っていると思っています。これまでにあまりフォーカスされていないものや、跡継ぎ不足で衰退の危機を迎えている良い文化がたくさんあるのです。そういったものを現地で体感すると色々と感じるものがあり、そこで生まれたインスピレーションを現代のファッションに置き換えてどのように世の中に再度発信していくことができるのかというテーマは、これからも持ち続けたいと思っています。そのような中で、今回コラボレーションで伝統的な技術をデザインの中に取り入れることができたというのは、私にとって非常に意義があることだと感じています。この取り組みを1度のコラボで終わらせることなく、今後も継続していけたらいいですね。

加えて、「伝統」と言われると、そこに親しみにくさや難しさを感じてしまう方も、実は少なくないのではないかと思います。そのような方に対して、ファッションという親しみやすさから商品に触れていただき、そこから日本の伝統的な技術や素材を知るきっかけが生まれるというアプローチはとても良いのではないかと思います。「伝統」を全面に押し出してしまうことで、若い方や抵抗を感じた方が日本の伝統文化から遠ざかってしまうことは、非常にもったいない。ファッションというツールを通じて日本の伝統と多くの方々がカジュアルに繋がっていくという考え方は、非常に面白いのではないかと思います。

「ファッションという親しみやすさから伝統文化と繋がってくれたら」とナカザト氏

“日本の伝統との融合”というテーマでユイマナカザト氏が生み出したのは、今まで見たことのないような斬新さ、新鮮さを持ち、見ることに強いインパクトを与えるような先進的なデザインの商品だった。そこには、衰退の危機に直面している日本の伝統が、これからの時代を生き続けるためには何が求められるのかというユイマナカザト氏の強い思いが込められていた。日本の伝統を感じさせず、ファッション性に優れ、しかしその中に日本の伝統が生き続けている商品。ぜひ一度手に取って、そのインパクトを体験してみてはいかがだろうか。

「アート&クリエイション」は、8月17日から22日まで伊勢丹新宿本店で開催される。