練馬区立美術館では、7月28日(日)~9月23日(月・休)の期間、建築家・平田晃久(ひらた あきひさ)氏の建築世界を紹介する展覧会「平田晃久―人間の波打ちぎわ」を開催する。
生まれ変わる練馬区立美術館
練馬区立美術館は、「まちと一体になった」「本物のアートに出会える」「図書館と融合する」という新しい発想により、誰もが楽しめる美術館にリニューアルするため、平田晃久氏と共に設計を進めている。来年度に着工し、令和10年度に開館する予定だ。
平田氏によると、図書館と一体化し、融合する新生美術館の建築コンセプトは、「21世紀の富士塚/アートの雲/本の山」。練馬に古くから存在する「富士塚」をテーマに、「美術と本」を街や人々とつなぐ場として構想している。
平田氏による公共建築としては、2022年に日本建築学会賞を受賞した「太田市美術館・図書館」(2017年)などが代表的だが、これらの建築作品群に、練馬区立美術館も新しく加わることになろう。同館は、約40年にわたる歩みを継承しつつも、新たなコンセプトのもと生まれ変わる。
平田氏の建築
平田氏の建築には、「建築とは“からまりしろ”をつくることである」という一貫したコンセプトがある。
「からまりしろ」とは、平田氏自身によって作られた言葉で、はっきりと形作られる空間領域とは異なり、「ふわふわとした隙間の錯綜」、つまりはあらゆる物質の傍らともいえる領域の重なりを指す。それは人間世界に限ったことではなく、植物、動物、異なる時空の文化なども含んだ広義での生命体との共有可能性を探る試みでもあり、人間が狭い意味での「人間」から自由になる未来に向けた試みでもある。
「からまりしろ」の具体的なイメージを思い浮かべてみよう。例えば、樹木の枝にとまる小鳥の群れやアルプスに雲がかかる様子など。これらの自然界から連想できる情景は一場面だが、偶然によって生み出された無数の表面積、思いもよらない空間が作られている。このような自然の情景が、平田氏の建築的思想の手助けとなっているそうだ。
かっちりと人間によって作り上げられた建築空間ではなく、自然の偶然性に建築的空間を見いだすという考え方は、平田建築の大切な要素のひとつといえるだろう。
先述の「太田市美術館・図書館」も、平田氏のコンセプトを具現化した建築作品。区切られた空間や内と外が絡まりあう「からまりしろ」を実現した地域のランドマークとして市民に愛されている。
3章立ての展覧会、見どころチェック!
このたびの展覧会「平田晃久―人間の波打ちぎわ」は、「波打ちぎわ」という新しい言葉を軸にした3章立てとなっている。
1章目は、平田建築の核をなす「からまりしろ」。「からまりしろ」の建築は、人間と動物の波打ちぎわ(境界やあいだ)に現れるものといえる。
2章目と3章目は、「響き」がテーマ。これは共鳴というような感覚に近いかもしれない。無数の人々の思いの共鳴、はたまた過ぎ去った時間と現在との共鳴、あるいは今こことどこか遠くの場所との共鳴…。そういった「響き」を持った建築は、私たちがかつて知っていた「人間」の意識を広げていくような、からまりしろとも違う「人間の波打ちぎわ」を予感させるだろう。
同展では、スケッチや模型、インスタレーションを中心に、この「波打ちぎわ」を体験的に理解できる空間を作り上げる。2017年に台湾に建設された「Taipei Roofs」など、建築のプロセスを垣間見る貴重なスケッチと模型の展示、20件以上におよぶ平田建築にテーマごとにアプローチする展示が見どころだ。
また、建築を体験し、学ぶイベントも開催予定とのこと。
この機会に、建築家・平田晃久氏の世界観を感じてみては。
■平田晃久―人間の波打ちぎわ
会期:7月28日(日)~9月23日(月・休)
会場:練馬区立美術館
住所:東京都練馬区貫井1丁目36−16
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日 ※8月12日(月・休)・9月16日(月・祝)は開館、8月13日(火)・9月17日(火)は休館
観覧料:一般1,000円、高校・大学生および65~74歳800円、中学生以下および75歳以上無料(その他各種割引制度あり)
URL:https://www.city.nerima.tokyo.jp/kankomoyoshi/bunka/museum/tenrankai/hirata_060728_0923.html
(Higuchi)