物理モデルを活用したAI技術により、生産現場の生産性向上に貢献

三菱電機株式会社
国立研究開発法人産業技術総合研究所

FA向けサーボシステムのパラメーター調整回数を削減するAI技術
三菱電機株式会社(以下、三菱電機)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)は、ファクトリーオートメーション(FA)業界で初めて(※1)、物理モデル(※2)をベイズ最適化(※3)に活用することで、サーボシステムのパラメーター調整にかかる動作回数を大幅に削減するAI技術を開発しました。本技術は、三菱電機のAI技術「Maisart(R)(マイサート)(※4)」のうち、物理空間での信頼性・安全性を重視した「Neuro-Physical AI(R)(※5)」の開発成果で、本技術により、生産現場における生産性向上に貢献します。なお、今回の開発は、三菱電機と産総研が2017年度から連携して進めているAI開発の一環として実施しました。
近年、市場ニーズの多様化や製品の高性能化が進んでおり、これに対応するため製造業では生産工程が多様化・複雑化しています。その結果、生産現場では産業機械を制御するFA機器の調整・プログラミングなど、生産準備にかかる作業工数が増加していますが、少子高齢化に伴う労働人口の減少などにより、これらの作業に不可欠となる高度なノウハウを持つ熟練技術者の不足が深刻化しています。特に、電子部品実装機や半導体製造装置などの産業機械を駆動制御するサーボシステムは、高速かつ高精度な動作を実現するために、多数の制御パラメーターの膨大な組み合わせを調整する必要があるため、熟練技術者でもその調整(最適化)には多くの時間を要していました。
両者は今回、産業機械の物理モデルを活用し、高精度かつ物理的整合性のある予測・制御を実現した三菱電機独自のAI技術を、FA向けサーボシステムのパラメーター調整に適用することで、膨大な組み合わせの中から最適なパラメーターを効率的に絞り込む技術を開発しました。これにより、パラメーターの調整回数を従来から90%削減(※6)しました。さらに、パラメーターの最適化によって産業機械の性能を最大限に引き出すことができるため、モーター等の動作開始から目標位置到達までにかかる時間(位置決め時間)を平均で20%短縮(※7)しました。本技術により、生産準備の時間と一つの製品を作るのにかかる時間(タクトタイム)を短縮することで、生産現場における生産性向上に貢献します。
■開発の特長
サーボシステムから取得した産業機械の物理モデルをベイズ最適化に活用することで、パラメーターの調整回数を大幅に削減
・サーボシステムのパラメーターを調整するベイズ最適化において、機械学習モデル(※8)を用いたパラメーターの評価値(※9)予測に、産業機械の物理モデルを活用することで、パラメーター調整を効率化。実機で動作させた際に高い性能を示したパラメーターと物理モデルの予測結果を組み合わせることで、さらに位置決め動作の改善が期待できるパラメーターへの絞り込みを実現。これにより、サーボシステムのパラメーター調整に要する産業機械の動作回数を90%削減
・パラメーターの最適化により、産業機械の性能を最大限に引き出し、産業機械の位置決め時間を平均20%短縮することが可能となるため、タクトタイムの短縮を実現
・生産準備の時間とタクトタイムの短縮により、生産現場における生産性を大幅に向上
■開発体制
[表: https://prtimes.jp/data/corp/120285/table/376_1_f1c6d3ee71450e8c15841286a5256dcf.jpg?v=202603240345 ]
■特長の詳細
サーボシステムから取得した産業機械の物理モデルをベイズ最適化に活用することで、パラメーターの調整回数を大幅に削減
ベイズ最適化はブラックボックス関数(※10)を効率的に最適化するアルゴリズムです。評価値を推定する機械学習モデルを学習し、このモデルを活用して良好なパラメーターを予測します。この学習と予測を交互に繰り返すことで、パラメーターを絞り込んでいきます。サーボシステムに適用する場合は、設定したパラメーターで実際に産業機械を動かして得られた評価値から、そのパラメーターの良否を判定し、この評価値が良くなるようにパラメーターを探索します。今回開発した技術では、機械学習モデルによるパラメーターの予測において、サーボシステムから取得した産業機械の物理モデルから得られる応答を活用することで、良好なパラメーターの高精度な予測を可能としました。
これまでの機械学習モデルだけのベイズ最適化では、実機動作から多数の評価値を取得する必要があり、さらにはパラメーターの値とその良否の関係が複雑で、切り分けが困難でした。今回、物理モデルから予測される評価値を特徴量(※11)としてベイズ最適化に活用することで、パラメーターの良否を比較的容易に分離することに成功しました。これにより、実機動作で良好な評価値を示したパラメーターと近い特性を持つパラメーターに絞り込むことが可能となります。機械学習モデルは、この特徴量の相対的な良否のみを活用するため、物理モデルの予測誤差があっても、パラメーター良否を示す特性には影響がなく、信頼性の高い手法を実現しています。

左:パラメーターと実評価値の関係、右:物理モデルの予測結果と実予測値の関係
また、サーボシステムの位置決め制御では、許容される誤差の範囲内に短時間で位置決めすることが求められます。サーボシステムの制御対象となる産業機械は、機械的な構造や設置状況によって振動の特性が変わるため、パラメーターを実際の機械に合わせて調整する必要があります。さらに同一の産業機械であっても、目標の位置や移動する距離により特性が異なります。そのため、従来は8種類720個のパラメーターをベイズ最適化により調整し、きめ細やかな制御を可能にしていました。
本技術では、ベイズ最適化に物理モデルを活用することでパラメーターの探索範囲を限定しました。その結果、調整のために実機を動作させる回数を約90%削減し、調整時間も大幅に短縮しました。調整により産業機械の特性に合わせて、性能を最大限に引き出せるパラメーターが選択されるため、位置決め後の振動を許容範囲に抑えつつ、位置決め時間を平均20%短縮した動作を実現します。これにより生産現場の生産性を大幅に向上します。

本技術による実機動作回数の削減
技術による位置決め時間の短縮
■今後の予定・将来展望
三菱電機のAI技術「Maisart(R)」の1つとして、電子部品実装機など高速高精度な位置決めが求められるハイエンド向けサーボシステムへの適用を進め、2028年の製品化を目指します。
■商標関連

■三菱電機グループについて
私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。社会・環境を豊かにしながら事業を発展させる「トレード・オン」の活動を加速させ、サステナビリティを実現します。また、デジタル基盤「Serendie(R)」を活用し、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり知恵を出し合うことで、新たな価値を生み出し社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング」を推進しています。1921年の創業以来、100年を超える歴史を有し、社会システム、エネルギーシステム、防衛・宇宙システム、FAシステム、自動車機器、ビルシステム、空調・家電、デジタルイノベーション、半導体・デバイスといった事業を展開しています。世界に200以上のグループ会社と約15万人の従業員を擁し、2024年度の連結売上高は5 兆5,217 億円でした。詳細は、www.MitsubishiElectric.co.jpをご覧ください。
■産総研について
産総研は日本最大級の公的研究機関です。ミッションは「社会課題解決」と「日本の産業競争力強化」。全国12拠点での幅広い研究と、傘下の株式会社AIST Solutionsと一体で進める社会実装が強みです。「ともに挑む。つぎを創る。」をビジョンに、研究開発の総合力で経済・社会の発展を支えます。
※1 2026年3月24日現在、三菱電機調べ
※2 機械の挙動や特性を物理法則や数式を使って再現した理論上の仕組み
※3 全体の形が未知の関数や微分ができない関数の最大値または最小値を、関数の形を推定しながら探索的に求める手法
※4 Mitsubishi Electric’s AI creates the State-of-the-ART in technologyの略。
全ての機器をより賢くすることを目指した三菱電機のAI技術ブランド
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/maisart/index.html

※5 三菱電機が長年培ってきた事業領域や現場での知見・ノウハウと物理法則を融合し、機器やシステム全体をより賢くする、安全で信頼性の高い三菱電機独自のフィジカルAI
※6 2019年2月5日三菱電機広報発表内に記載した「ベイズ最適化応用技術」を従来技術とした場合の比較
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/ja/pr/pdf/2019/0205-a.pdf
※7 三菱電機内の技術者による手動調整結果と比較
※8 機械学習における統計的手法の 1 つである「ガウス過程回帰」手法を使用
※9 本調整では、評価値は位置決め時間および位置決め後の振動振幅に基づいて計算し、小さいほど良好な位置決め動作となるよう定義
※10 全体の形が未知の関数や微分ができない関数
※11 機械学習モデルが予測や分類を行うための入力データの要素
<お客様からのお問い合わせ先>
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
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FAX:06-6497-7285
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/inquiry/index_at.html