発達障害を手がかりとしたユニバーサルデザインの普及を図る橋口亜希子個人事務所は、社会人と学生が一緒に学ぶ東京藝術大学のDiversity on the Arts Project(DOOR)の受講生によって制作された動画「ハルの世界 〜感覚過敏のぼくが電車に乗るまで〜」を、12月23日(金)より公式HPにて公開している。
発達障害者など“見えにくい障害”の理解を促進
橋口亜希子個人事務所は、事業者や社会が知らない・わからない発達障害のある人たちの困りごとを集め整理して社会に伝える「キュレーター」と、様々な視点や考え方を取り入れた高度な専門性が求められる「翻訳者」の役割を担って、社会モデルに基づく環境調整のコツを伝える活動を行っている。「発達障害という言葉と自身の活動が必要でなくなる社会」を目指し、「あきらめを希望に変えるのが大人の役割、あきらめを希望に変えるユニバーサルデザインを確かなものにしていく」を信念としている。
今回、東京藝術大学DOOR、交通エコロジー・モビリティ財団とともに、感覚過敏の特徴がある発達障害者など見えにくい障害の理解促進を目的として、共同プロジェクトを実施した。
発達障害の現状と課題
文部科学省が2022年に行った調査によると、通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合は、小学校・中学校で8.8%であることが判明。2012年に行った前回調査の6.5%から2.3ポイント増えていて、発達障害の認知と理解が進んだと考えられるが、個々のニーズに応じた支援をさらに充実させていくことが今後の課題だ。
また、音や光、匂いや人混みなどに過敏に反応する感覚過敏のある人たちの困りごとがここ最近特に注目されているが、その困りごとについて社会にどのように理解を深めてもらうのかという課題もある。
感覚過敏のある発達障害者の困りごとを擬似体験
そこで、企画・監修を橋口亜希子個人事務所、映像制作を東京藝術大学DOOR、編集の支援を交通エコロジー・モビリティ財団が担当し、民学連携を図って、2021年からプロジェクトを始動。感覚過敏の疑似体験動画を制作した。
同プロジェクトは、音や光、人混みや周囲の視線などが苦手な感覚過敏の特徴がある発達障害者が、交通機関利用の連続性の中にどんな困りごとがあり、どんなふうに感じているのか、擬似体験できる機会を提供することを目的としている。交通機関関係者はもちろん、共生社会実現のための心のバリアフリー研修の研修材料として活用し、見えにくい障害の理解を促進する。こんな時こうしてもらったら助かるといった「合理的配慮シーン」も入れて、今すぐ役立つ具体的な対応方法を提示している。
動画は、実際の交通機関を舞台に、改札からホームまで移動の連続性の中で想定されるシーンで、ストーリー性を持たせながら、映像を介して実体験として見る人の深い理解や実感を得られるよう作られている。同大学の授業「ドキュメンタリー映像演習」の一環で制作し、リサーチから脚本、撮影録音、キャスト、編集まで、全てを受講生自らが行った。学生と社会人受講生らが作り上げた「アート×福祉」ならではの世界観が、見えにくい困りごとのある世界をグッと社会に近づけている。
「ハルの世界」を鑑賞して、感覚過敏のある発達障害者の困りごとを擬似体験してみては。
橋口亜希子個人事務所公式HP:https://hashiguchi-akiko.com/
DOOR HP:https://door.geidai.ac.jp/
(山本えり)