日本中では目まぐるしく、日々いろんなイベントがひらかれている。「そんな日本には、どのような土地があるのだろう」と、写真家として活動している私(仁科勝介)は、“平成の大合併”時に残っていた、旧市町村をすべて巡る旅に出た。その数は2000を超える。
今回、地域や自治体、企業の取り組み、新商品などの情報を発信するニュースサイト「ストレートプレス」で、それらを紹介する機会をいただいたので、写真を添えて連載をスタートした。
「ストレートプレス」内に登場するローカルな市町村と、関係があるかもしれない。
今回は、宮城県旧鳴子町(大崎市)を写真とともに紹介する。
Vol.291/宮城県旧鳴子町(大崎市)
加美町の旧宮崎町から1時間ほど走って、大崎市の旧鳴子町に移動した。旧鳴子町には2月にも一度訪れたことがあり、2回目の訪問だ。前回訪れた際は雪が残っていて、東北らしい風情を感じたものだが、このときは電車の旅で、カブに乗って訪れるのは初めてだった。道中も電車とは違う景色が見えた。急な山道を進むわけでもなかったので、思いのほか電車よりも近く感じられた。
そして、鳴子温泉の中でも「中山平温泉 しんとろの湯」というさらに県境側の温泉を訪れた。あと数分走ったら、山形県に入る立地にある。「しんとろの湯」は自分でも気になっていたし、先輩からもお薦めしてもらった温泉だった。
……ガラガラガラ。浴場の扉を開けると、湯船とシャワーにおじいちゃんが4人ほどいた。地元のおじいちゃんかどうかまではわからない。しっかりと入口の扉を最後まで閉める。うん、別の温泉で地元のおじいちゃんに叱られたことがあるからだ。静かに閉めて、ひっそりおじゃまします、と小さく宣言する。
ここは源泉掛け流しの温泉だ。でも、源泉は93度ある。えっ、どういうこと? と一瞬思ったけれど、湯船の壁に説明が書いてあった。
「源泉から木の樋で流すことで、温度を適温に下げて浴室に注いでいます」
なるほど、ちょうど窓の外を見ると、長細い木の桶がずらりと順に並んでいて、そこを源泉がリレーしながら流れている。そうやって温度を調整し、加水せずに源泉のまま流しているのだ。湯船もぼくにとってすごく適温であった。
そして、ぼくはたとえば温泉で肌がすべすべになるって、今までちょっとした幻想だと思っていた。肌がすべすべになるということが、事実なのか実感なのか思い込みなのかよくわからなかった。
しかし、湯船から上がって、鏡を見たときに、肌がすべすべのツヤツヤでたまげた。幻想じゃないんだ、と感じたのは人生で初めてかもしれない。それぐらい、鏡で自分の肌を見て思った。いやあ、なんだか、うさんくさくなってしまう。でも、これはほかのWeb記事や、Googleのレビューを一切見ずに、自分の感想だけで書いている。
これからすぐに服を着て、カブの防具をつけて、また汗をかくかもしれないと思うと、とても切なくなった。ああ、恋しくなるいい湯だった。
(仁科勝介)
仁科勝介(Katsusuke Nishina にしなかつすけ)/かつお
写真家として活動。1996年、岡山県倉敷市生まれ。広島大学在学中に、日本の全1741の市町村を巡る。
『ふるさとの手帖』(KADOKAWA)、『環遊日本摩托車日記(翻訳|邱香凝氏)』(日出出版)をはじめ、2022年には『どこで暮らしても』(自費出版)を刊行。
旧市町村一周の旅『ふるさとの手帖』:https://katsuo247.jp
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