
「人口減少時代の青写真をつくる」をミッションに、暮らしの充実を損なわない縮充社会を探究・実装するむじょうは、母の日にあわせて開催する「死んだ母の日展 2026」の関連作品として、5月8日(金)~10日(日)の3日間、渋谷区の上空にパブリックアート作品「晴れでもあり、雨でもある。」を掲揚する。
これは、東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻 修士1年・中澤希公(なかざわ きく)さんによる新作アドバルーン作品だ。
母の日は「同じ景色ではない一日」と気づく作品

「死んだ母の日展」は、亡き母へ宛てた手紙を匿名で投稿・公開できるオンライン展示である。2021年の開始以来、累計で2,000通を超える手紙が寄せられている。同展は、母を亡くした人にとって母の日を過ごすための新たな選択肢を提案する。

今回の新作アドバルーン作品「晴れでもあり、雨でもある。」は、その思想をオンライン上にとどめず、街の公共空間へと接続する試みとなる。母の日が街にあふれるなかで、その日を祝う人だけでなく、母を亡くした人、母の日を複雑な気持ちで迎える人の感情もまた社会の中に確実に存在している。同作品は、そうした見えにくい感情を都市の空にそっと掲げることで、同じ母の日でも、ある人には感謝を伝える明るい日として映り、ある人には不在や喪失を強く感じる日であるという見え方の違いを、誰かを傷つけるかたちではなく静かに可視化する。
祝祭の象徴として街に現れてきたアドバルーンというメディアを用いながら、にぎやかな広告表現とは異なるかたちで、祝福の陰にある感情や不在の気配を社会に伝え、母の日という一日に複数の景色が存在していることに気づいてもらうきっかけをつくる。なお、アドバルーンは雨や強風の場合は掲揚されない。
作品に込めたアーティストと主催者の思い

「晴れでもあり、雨でもある。」を手がけたアーティスト・中澤さんは、14歳の時に母親を亡くした経験から、死別による喪失体験をコンセプトとした作品やプロジェクトを発表している。これまでに200人以上の死別経験者にインタビューを実施し、その経験をもとに企画した「死んだ母の日展」や「葬想式」で、2022年および2023年の「GOOD DESIGN NEW HOPE AWARD」で優秀賞を受賞している。
中澤さんは、今回の新作発表に際して以下のようにコメントを寄せている。
「足取りが重い日も軽い日も、急ぎ足の日も、同じ道を歩んできた。渋谷で育ってきた私にとってこの街は、違いを許すような顔をしながら、ズドンとこちらを待ち構え、扉のない四角い広告たちが、通せんぼをしてくる場所だった。そんな街に、大きなバルーンをひとつ浮かばせる。(中略)あっち側から見ている人は、どんなふうにこの景色を見ているのだろうと考える。同じ場所に立っていても、視線の高さや、その日の空気によって、風景の切り取り方はさまざまだ。私の風景と、あなたの風景。そのあいだに漂うまだ名前のない風景をそっと重ね合わせたとき、この見慣れた街に、少しだけ優しい道がひらけないだろうか」

また、主催・企画を行うむじょうの代表取締役・前田陽汰(まえだ ひなた)さんも、同作発表に先立ち、以下のように述べている。
「母の日に掲げられるこのアドバルーンは、街に晴れやかな出来事を告知し、高揚を喚起してきた広告的フォーマットを、意味の安定から逸脱させる。そこに浮かぶ像は、涙でも雨でも雲でもありうるが、決して一義的には確定されない。それは見る主体によって志向されつつも、なお過剰な残余を保ちつづけ、見る者の経験を宙吊りにする。(中略)渋谷の上空という公共圏に置かれることで、ここに生じた感情の揺らぎは私的な内奥にとどまらず、弱い紐帯の水準で他者へと波及する。そこに立ち上がるのは、何かを同じく所有する共同性ではなく、互いの傷つきやすさにさらされあうことでかろうじて生まれる、ひらかれた共在の感覚である。見知らぬ誰かの痛みや不在の感覚が、都市の空を媒介にして、ひとつの社会的気配として共有される。そのとき、バルーンは説明しきれず、しかし無視することもできない他者の現れとして、空に浮かぶのである」
渋谷の上空に浮かぶひとつのバルーンを見上げ、そこに映る「これまでとは違う景色」に、そっと想いを馳せてみてはいかがだろうか。
■開催概要
作品名:「晴れでもあり、雨でもある。」
開催日時:5月8日(金)~10日(日) 各日9:00~17:00 ※強い風や雨が降った場合は掲揚しない。
開催場所:渋谷区の上空
「死んだ母の日展」公式HP:https://mmmm.sososhiki.jp
(山崎正和)