― 創造性と協同性を育む、新しい音楽教育の可能性を探る ―
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(以下、CEDEP)は、こどもの音楽教育と発達に関する共同研究プロジェクトを、2026年1月より開始いたします。本研究に、子ども向け音楽教室を運営する合同会社レディーバードミュージックラボ(所在地:東京都港区、代表:鈴木友海)が参画し、実践現場の知見を生かした研究を共同で進めてまいります。
本プロジェクトには、CEDEPに加え、民間のこども向け教育分野で豊富な実践経験と知見を有する教育関係者も参画します。音楽を通じて育まれる創造性、協同性、コミュニケーション力について、学術的視点と教育現場の双方から多角的に検討を行うことを目的としています。
プロジェクトの背景
人は古代から音楽とともに生き、声の抑揚やリズムを通じて他者と感情を共有し、関係性を築いてきました。近年の研究においても、音楽体験がこどもの共感性や社会性、創造的思考の発達に寄与する可能性が示されています。
一方で、日本の音楽教育は、技術習得や成果の可視化に重きが置かれやすく、音楽を通じた自由な表現や協同的な学びが十分に評価・活用されていないという課題も指摘されています。本プロジェクトでは、こうした現状を踏まえ、こどもの発達を多面的に支える音楽教育の新たな可能性を探ります。
プロジェクト概要
研究テーマ
こどもの音楽教育と発達に関する理論的・実践的研究
参画メンバー
主幹:東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(CEDEP)
協力・サポート:
合同会社レディーバードミュージックラボ 代表 鈴木友海
花まる学習会 代表 高濱正伸
合同会社いもいも 代表 井本陽久
目標
創造性・協同性を育む新しい音楽教育のあり方を展望する研究および実践の知見を整理した書籍の出版
研究期間
2026年1月より約2年間(予定)
コメント
野澤祥子
(東京大学大学院 教育学研究科 特任教授)
人間は、古代から音楽とともに生きてきました。人と人とが、身振りや声の抑揚、リズムや間を通して同期し、響き合うことは、人間の営みにおいてきわめて根源的な現象であると考えられています。近年、心理学や教育学の分野においても、こうした観点から、子どもの発達における「音楽」の重要性が改めて注目されています。
たとえば、人間の赤ちゃんは、言葉を習得するはるか前から、養育者の声のリズムや抑揚、テンポ、やりとりのタイミングに敏感に反応します。心理学では、このような人間のコミュニケーションの発達の基盤にある音楽的な側面を「絆の音楽性(communicative musicality)」と呼び、研究を積み重ねてきました。また、音楽的な経験が、幼児期以降の子どもの創造性や社会性などの発達を支え促すことも、さまざまな研究によって示されています。
一方で、日本の音楽教室や園における音楽活動を振り返ると、音やリズムそのものを楽しみ、他者と響き合う経験よりも、発表会や技能の習得といった「成果に向けた音楽活動」が優先される場面も少なくないように感じられます。その結果、本来、音楽がもっている即興性や相互性、身体的な共鳴といった側面が、十分に大切にされにくくなっている可能性もあります。
本プロジェクトでは、こうした問題意識を出発点として、音楽と子どもの発達・教育に関する国内外の先行研究の知見を整理するとともに、レディーバードミュージックラボをフィールドとして、実際の音楽教育の実践についても検討を行います。これらの取り組みを通して、音楽を通して関係性を育み、創造性を発揮することのできる、新たな音楽教育の可能性を探っていきたいと考えています。
鈴木友海
(合同会社レディーバードミュージックラボ代表 兼 大阪芸術大学非常勤講師)
近年、子ども向け音楽教育の現場では、従来主流であったクラシックピアノの個人レッスンや学校教育とは異なり、POPSやアニメソングなどの身近な音楽ジャンルを取り入れ、歌や弦楽器、さらには音楽ソフトのようなデジタルツールも活用しながら、より自由なフォーマットで音楽の楽しさを伝える取り組みが広がりつつあります。海外では、未就学児を対象とした「セッション」的な活動や、デジタル技術を活用した楽曲制作を取り入れる事例も珍しくありません。
また、「何ができるようになったか」という成果だけでなく、音楽体験を通じてこどもたちがどのように想像力や前向きさ、他者と関わる力を育んでいくのかといった、プロセスや成長そのものに目を向ける考え方も広がっています。
そのようなプログラムを提供する音楽講師たちは、こうした多様で自由度の高い音楽体験が、こどもたちの表現力や対人関係力の醸成に確かに寄与していることを、日々のレッスンを通じて実感しています。また、保護者の方々からも、その点を評価する声を数多くいただいてきました。本研究を通じて、こうした実感が個々の経験にとどまることなく、学術的な視点から裏づけられることで、教育現場にとっての確かな指針となり、新しい音楽教育の発展につながることを期待しています。

野澤祥子教授(左)と鈴木友海代表(右)
今後の展望
本プロジェクトを通じて、音楽を単なる技術習得の手段としてではなく、こども一人ひとりの感性や主体性、人とのつながりを育む基盤として再定義し、その成果を教育・保育・家庭・地域へと広く還元していくことを目指します。
CEDEP(The Center for Early Childhood Development, Education, and Policy Research)について
名称:東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター
所在地:東京都文京区本郷7-3-1
URL:https://www.cedep.p.u-tokyo.ac.jp