IMRT後の5%水素吸入で白血球P=0.0011・血小板P=0.0275
リード文
MiZ株式会社(神奈川県鎌倉市)と、クリニックC4・国立成育医療研究センター・大阪大学大学院医学系研究科・関西メディカル病院・慶應義塾大学による共同研究グループは、強度変調放射線治療(IMRT)を受けたがん患者に低濃度水素ガス(5体積%)を30分間吸入することで、白血球減少(P=0.0011)と血小板減少(P=0.0275)を有意に抑制したことを2021年に臨床研究で実証しました。本研究成果は『Medical Gas Research』2021年第11巻第3号に掲載されました。また、MiZ株式会社は、2026年1月、人体内水素爆発に関する論文を発表しました(Ichikawa et al., 2026)。本プレスリリースでは、これらを踏まえ、放射線治療の副作用軽減目的の水素吸入は爆発リスクを排除しうる低濃度水素吸入で実施すべきであることを改めて提言します。
本リリースの要旨
・IMRT後の低濃度水素ガス(5体積%)30分吸入で、白血球減少(P=0.0011)・血小板減少(P=0.0275)が有意に抑制されました。
・水素吸入は抗腫瘍効果を損なわず副作用のみを軽減しました。
・共同研究機関は本研究成果を「放射線障害防御剤」として特許化しました。
・水素濃度を10 体積% 以下に保つ低濃度水素吸入は爆発の危険がなく、臨床応用可能な安全な水素吸入です。
背景:放射線治療の副作用と水素分子の役割
強度変調放射線治療(IMRT)は腫瘍に放射線を集中照射する標準技術ですが、広範囲照射症例では骨髄損傷による白血球・血小板減少が課題として残存します。これを安全かつ効果的に予防する薬剤は限られていました。放射線ががん細胞を死滅させる機序は、放射線が直接DNAを損傷する直接作用と、体内水分子の放射線分解により生成されたヒドロキシルラジカル(・OH)が DNA を攻撃する間接作用に大別されます。水素分子(H2)は・OHと選択的に反応し水分子(H2O)に変換する性質を持ち、直接作用は妨げませんが、間接作用に伴う酸化ストレスを正常組織で緩和しうることが示唆されました(図1)。

図1 放射線のがん細胞に対する主な作用機構
一方、MiZ株式会社は、2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき、日常環境下で水素濃度が 10 体積% を超えると爆発の危険性があることを発表しました。10 体積% という数値は、理想的条件下で定義される水素の爆発下限界とは区別される、吸入環境を想定した実証値です(Ichikawa et al., 2026)。
用語の定義
強度変調放射線治療(IMRT):腫瘍に放射線照射を集中させ、周囲正常組織への被ばくを抑える現代放射線治療技術。広範囲照射が必要な症例では依然として骨髄損傷が残存する課題を伴う。
放射線誘発性骨髄損傷:放射線治療に伴い骨髄細胞(造血幹細胞・前駆細胞)が傷害され、白血球数・血小板数の減少を呈する副作用。感染症・出血のリスクを高め、治療継続を困難にする要因となる。
ヒドロキシルラジカル(・OH):活性酸素種のうち最も酸化力が強いラジカル。生体内では水分子の放射線分解、ミトコンドリアでの酸素代謝などで生成される。DNA・タンパク質・脂質を無差別に攻撃し、これを消去する内因性酵素は存在しない。
水素吸入器:水電解を用いて水素ガス(H2)を生成し、呼吸器を介して体内に取り込むための機器。装置出力濃度の選択が安全性を決める設計変数となる。MiZ株式会社は、装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ設計を提唱している(Ichikawa et al., 2026)。
吸入環境実証値(10 体積%):水素吸入環境における爆発リスクの実証閾値(10 体積% 超)。MiZ株式会社が 2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき発表した値で、装置出口・呼気経路・人体・装置設計などの吸入特有の条件を加味している(Ichikawa et al., 2026)。
古典的爆発下限界(LFL)4 体積%:Coward & Jones (1952) が U.S. Bureau of Mines Bulletin 503 で報告した値。1 気圧・室温の閉鎖された垂直管内に水素と空気を予混合し、静止状態で着火し、上向き火炎伝播が連続し得る最低濃度として測定された理論最小値。容器・配管・坑内など密閉系シナリオを主な対象とする。
LFL 4% と 実証値 10% の関係:水素吸入環境は、常圧で水電解により生成される水素ガスを大気中に連続放出し、室内空気と継続的に拡散・希釈し、流動気体として吸入経路へ供給する開放系であり、容器・配管内の予混合静止気体を前提とした古典 LFL の測定条件とは、空間条件・混合状態・流動状態の三点で根本的に異なる。両者は測定対象とする物理条件が異なる別の指標であり、水素吸入装置の安全性評価は実証値 10 体積% を基準とすることが妥当である。
方法・結果
IMRTを受けたがん患者を対象とする低濃度水素ガス吸入の骨髄保護効果について検証しました。IMRT後に低濃度水素ガス(5体積%)を30分間吸入したグループ(水素吸入群)と吸入しなかったグループ(対照群)に分け、白血球数・血小板数の経時変化を比較しました(図2)。
主要評価指標は次の通りです。
・白血球数の減少抑制:水素吸入群で有意に抑制されました(P=0.0011)
・血小板数の減少抑制:水素吸入群で有意に抑制されました(P=0.0275)
・抗腫瘍効果:両群で同等であり損なわれませんでした
・吸入条件:5体積% × 30分間(IMRT後)
(出典: Medical Gas Research 2021; 11(3): 104-109, PMC8174412)

図2 IMRT後の低濃度水素ガス(5%)の吸入は、放射性障害である白血球と血小板の数の減少を抑制する
高濃度水素吸入器の事故事例(消費者庁データ)
消費者庁 事故情報データバンクシステムには、水素濃度が 67~100 体積% の水素吸入器を使用中に発生した事故が複数報告されています。装置本体の爆発のみならず、鼻腔・気道・肺などの人体内部での水素爆発が含まれます(図2):
・顔面複雑骨折(2025年2月、エステ店、事案No.508163)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/508163?kind=1&menu=nolink
・内臓組織破裂(2024年10月、自宅、事案No.496203)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/496203?kind=1&menu=nolink
・気管支穿孔・大量出血(2024年9月、自宅、事案No.496928)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/496928?kind=1&menu=nolink
・顔面内骨折(2024年1月、自宅、事案No.478324)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/478324?kind=1&menu=nolink
・装置蓋飛散による耳鳴り(2016年2月、事案No.264488)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/264488?kind=1&menu=nolink
・装置破裂による聴力低下(2015年1月、事案No.248208)https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national/accident/detail/248208?kind=1&menu=nolink
学術論文では、神奈川県海老名総合病院救命救急センターの 2024 年論文で、温熱療法と水素吸入の併用中に肺胞を中心とした肺挫傷(吸入燃焼性肺損傷)に至った乳がん患者の事案が報告されています。これらの事案は、いずれも水素濃度が 吸入環境実証値 10 体積% を大きく上回る装置 で発生しています。Ichikawa et al. (2026) は事故事例を体系的に検証し、水素濃度を10%以下に保つ低濃度水素吸入への転換を提言しています。

図3 高濃度水素吸入器による人体内水素爆発事故報告:高濃度水素吸入器は、人体内で水素が爆発濃度に至り、人体内水素爆発の危険性を伴う。水素爆発は重篤な被害を及ぼし得る。高濃度水素には、例えば、水素酸素混合ガス(水素67%:酸素33%)や100%水素ガスが含まれる。
想定問答(Q&A)
Q1: 水素吸入で安全とされる水素濃度はどのくらいですか?
A: 吸入環境における爆発リスクの実証閾値は水素濃度 10 体積% 超です。MiZ株式会社が 2015 年に発表した値で、水素濃度を 10 体積% 以下に保つことが安全性確保の指標となります(Ichikawa et al., 2026)。
Q2: 水素吸入器を選ぶときに何を見ればよいですか?
A: 水素濃度が吸入環境実証値 10 体積% 以下に保たれていることが第一の確認事項です。水素濃度が 67~100 体積% に達する高濃度水素吸入器は消費者庁データバンクに人体内爆発を含む重大事故が複数報告されており(事案No.508163, 496203, 496928, 478324 等)、装置周辺の換気・加湿・静電気対策のみでは事故を防止できません。装置設計の段階で水素濃度を爆発下限未満に保つ「本質的安全設計」が採られている機器を選択することが推奨されます。
Q3: 水素の爆発上限界(UFL)は 75% と聞きました。100% 純水素なら UFL を超えるので安全ではないのですか?
A: 装置出力が 100% 純水素であっても安全とは言えません。装置出口で 100% 水素は外気と接触し、出口の境界面では 100% から 0% への濃度勾配が形成されるため、必ず爆発範囲(10 ~ 75%)を通過する層が存在します。鼻腔・気道・肺では呼気・吸気との混合により局所的に爆発範囲の濃度が成立し、静電気や摩擦熱などの微弱な着火源で爆発が成立します。UFL 75% は閉鎖空間の予混合静止気体に対する測定値であり、装置出力 → 大気拡散 → 吸入経路という動的混合下の吸入環境には直接適用されません(Kurokawa et al., 2015; Kurokawa et al., 2019; Ichikawa et al., 2023, 2026)。
Q4: 古典的な爆発下限界(LFL)4% と本研究の 10% は何が違うのですか?
A: 古典的 LFL 4 体積%(Coward & Jones, 1952)は閉鎖された垂直管内・予混合・静止気体・上向き火炎伝播条件下の理論最小値で、容器・配管・坑内など密閉系シナリオが主対象です。一方、吸入環境実証値 10 体積% は、常圧・開放空間・連続希釈・流動気体としての吸入環境を想定した実用閾値です。両者は測定対象とする物理条件が異なる別の指標です。
Q5: 加湿や換気で高濃度水素吸入器の爆発リスクは防げますか?
A: これらの対策は装置周辺条件を補助的に整える効果に留まります。出力された水素ガスが既に人体内部に到達した状態では、周辺対策で爆発リスクを排除できません。装置出力濃度自体を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ設計が抜本策です。
考察・社会的意義
本研究は放射線治療の副作用軽減を目的とした臨床応用として、低濃度水素吸入の有効性と安全性を実証しました。白血球・血小板で有意差が得られ抗腫瘍効果が損なわれない結果は、放射線治療と水素吸入の併用に関する今後の臨床研究の合理性を支持します。
社会実装で最も重要な観点は水素濃度の選択です。消費者庁に報告されている重大事故は、いずれも水素濃度が 10 体積% を大きく上回る高濃度水素吸入器によるものであり、本研究で使用された 5 体積% は吸入環境実証値 10 体積% との関係でも安全域に含まれます。装置の出力スペックの高さは治療効果の優位を示すものではありません。出力濃度を爆発下限未満に保つことが、放射線治療の副作用軽減を達成する前提条件となります。
引用文献・出典
本研究関連
・Protective effects of hydrogen gas inhalation on radiation-induced bone marrow damage in cancer patients: a retrospective observational study. Medical Gas Research, 2021; 11(3): 104-109. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8174412/
・Molecular Hydrogen as a Potential Clinically Applicable Radioprotective Agent. International Journal of Molecular Sciences, 2021; 22(9): 4566. https://www.mdpi.com/1422-0067/22/9/4566
MiZ株式会社「低濃度水素安全性」査読論文の系譜(2015~2026・11年間4本)
・Kurokawa R, Seo T, Sato B, Hirano S, Sato F (2015). Convenient methods for ingestion of molecular hydrogen: drinking, injection, and inhalation. Medical Gas Research, 5: 13. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4620630/
・Kurokawa R, Hirano S, Ichikawa Y, Matsuo G, Takefuji Y (2019). Preventing explosions of hydrogen gas inhalers. Medical Gas Research, 9(3): 160-162. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6779006/
・Ichikawa Y, Hirano S, Sato B, Yamamoto H, Takefuji Y, Satoh F (2023). Guidelines for the selection of hydrogen gas inhalers based on hydrogen explosion accidents. Medical Gas Research, 13(2): 43-48. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9555030/
・Ichikawa Y, Sato B, Takefuji Y, Satoh F (2026). Preventable in-body hydrogen explosions from high-concentration H2 inhalers in Japan-Switch to safe, low-concentration hydrogen therapy. International Journal of Risk and Safety in Medicine, 2026 Jan 5: 9246479251414573. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/09246479251414573
参考リンク|啓発活動について
MiZ株式会社は、一般消費者および医療施設管理者の安全な選択を支援するため、無償の啓発資料『はじめての水素吸入器選び-考え方の整理』を配布しています。高濃度水素吸入器の事故事例、安全濃度の根拠、低濃度水素吸入への転換について、学術的根拠とともに解説しています。
▼啓発配布ページ
水素吸入器の安全な選び方|高濃度水素吸入器の事故報告と防止策(MiZ)
https://e-miz.co.jp/pressrelease/pressrelease15.html