国立民族学博物館(みんぱく)の共同研究会に結集した多分野からの新鮮な研究成果! 徹底的なフィールドワークを行った新進気鋭の18名が解き明かす「人間社会の原型・原理」とは?
株式会社河出書房新社(本社:東京都新宿区 代表取締役:小野寺優)は、山極壽一氏序文、福井勝義氏著者代表による『集団とは何か:人間が「集まる」意味を人類学から解き明かす』を、2025年12月23日に発売します。
本書は、「なぜ人間は集団を作るのか」などをテーマに、人間の「集合と集団」の原理を探りながら、個と社会とその関係に迫る論考と議論の貴重な記録であり、現代の人間社会に斬新な問いと答えを投げかける比類なき研究をまとめた大著です。
当時共同研究に参加し、このたび序文を執筆された山極壽一氏による「『集団とは何か』発刊へ向けて」を本プレスリリースにて特別掲載します(本プレスリリース後段をご覧ください)。

『集団とは何か』書影/新たに序文を執筆した山極壽一氏
本書『集団とは何か:人間が「集まる」意味を人類学から解き明かす』は、1983~1988年に国立民族学博物館(みんぱく)の共同研究会で、「集団の編成と統合」をテーマとしてまとめられた研究成果を、初めて書籍として公刊するものです。
共同研究は、福井勝義氏(当時:京都大学大学院人間・環境学研究科教授)を座長に、さまざまな分野から集まった新進気鋭の学者18名によって進められ、「人間とその他の生物を通観する社会の進化」を考え直す取り組みが行われました。参加研究者は以下の通りです(敬称略・執筆順)。
(著者代表)福井勝義(1943-2008)文化人類学
京都大学農学研究科卒。国立民族学博物館助教授を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。京都大学名誉教授。
日高敏隆(1930-2009)動物行動学
東京大学理学部動物学科卒。京都大学名誉教授。滋賀県立大学初代学長。総合地球環境学研究所初代学長、同名誉教授。日本昆虫学会会長。日本動物行動学会会長。
北村光二(1949-)文化人類学
京都大学理学部卒。岡山大学社会文化科学研究科特命教授。
関本照夫(1947-)社会学
東京大学教養学部卒。東洋文化研究所助教授。
大塚和夫(1949-2009)社会人類学
東京都立大学社会科卒。国立民族学博物館、東京都立大学を経て東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授、同所長。日本民族学会会長。
菅原和孝(1949-)文化人類学
京都大学理学部卒。北海道大学を経て京都大学大学院人間・環境学研究科教授。京都大学名誉教授。
谷 泰(1934-)文化人類学
京都大学文学部史学科卒。京都大学人文科学研究所教授を経て京都大学人文科学研究所所長。京都大学名誉教授。
山極壽一(1952-)霊長類学
京都大学理学部卒、京都大学霊長類研究所を経て京都大学理学研究科教授、京都大学総長。国際霊長類学会会長、日本学術会議会長などを経て、総合地球環境学研究所所長。
田中二郎(1941-)文化人類学
京都大学理学部動物学科卒。京都大学霊長類研究所、弘前大学を経て、京都大学アフリカ地域研究センター教授。京都大学名誉教授。
丹野 正(1946-2014)文化人類学
京都大学理学部卒。弘前大学教授、弘前大学名誉教授。
内堀基光(1948-)文化人類学
東京大学教養学部卒。岐阜大学、一橋大学を経て東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授、所長。放送大学教授。一橋大学名誉教授、放送大学名誉教授。
大澤秀行(1942-)霊長類学
京都大学理学部卒。京都大学霊長類研究所助教授。
鹿野一厚(1953-)文化人類学
島根女子短期大学助教授、島根県立大学短期大学部名誉教授。
栗本英世(1957-)社会人類学
京都大学文学部卒。東京外国語大学、国立民族学博物館を経て大阪大学大学院人間科学研究科教授。大阪大学名誉教授。
佐藤 俊(1946-)生態人類学
京都大学理学部卒。東京大学、立教大学を経て、筑波大学名誉教授。
中山和芳(1946-)文化人類学
東京教育大学文学部卒。国立民族学博物館を経て東京外国語大学教授。東京外国語大学名誉教授。
松園万亀雄(1939-)文化人類学
東京外国語大学卒。東京都立大学教授を経て国立民族学博物館館長。東京都立大学、国立民族学博物館名誉教授。
伊藤嘉昭(1930-2015)昆虫学、生態学。
東京農林専門学校(現・東京農工大学)卒。農林省を経て名古屋大学、沖縄大学教授、名古屋大学名誉教授。
当初、共同研究座長の福井勝義氏が、共同研究の総論を書いたのちに本書を弊社で刊行予定でしたが、それが果たせないまま2008年に亡くなってしまったことで、40年近い年月の間、未刊となっておりました。しかし今年2025年、ここで発表された共同研究の論考と議論が、なんら古びることのない内容であるどころか、「集団の編成と統合」の問題は人類の重要課題となっていること、そして今後のさらなる研究による究明と成果が期待されることから、今般刊行することとしました。
本書は、昆虫から霊長類まで、そして狩猟採集民、遊牧民、農耕牧畜民などの「人間社会の原型・原理」を求め、今もって未解決な人間の「集団」について「問い」と「答え」を投げかける、画期的にして貴重な記録です。
■本書の趣旨と意義
- 家族、共同体、都市、国家、国際組織まで、集団なくして存在し得ない社会的な動物である人類。集団原理、コミュニケーションなど、未だ明らかになっていない生物としての謎を徹底的に科学する。
- 動物としてのフィールドワークと調査実証研究から、人類の集団の原型に迫る。
- 世界最先端であった京大人文研からうまれた国立民族学博物館の、驚異的な錚々たる歴史的系統。
- 図版多数、詳細なフィールドワークと、現在においても貴重な学説と検証。
- その後さらに細分化した分野に巨視的な一石を投じる。
■目次より
序文(山極壽一)
はじめに(福井勝義)
1 集団とは何か
なぜ群れたがるのか(日高敏隆)
霊長類の社会における「集団」(北村光二)
集団以前──対面集合と遊戯形式(関本照夫)
2 個から個体関係へ
役割としての個・主体としての個──社会人類学における「個人」の問題(大塚和夫)
接触という経験──霊長類と人間の対他的身体論に向けて(菅原和孝)
社会過程としてのコートシップ──ルーマニアのケースより(谷 泰)
3 集団維持の基本原理
ゴリラの集団における世代とコミュニティの構造(山極壽一)
サンにおける性的関係を媒体とする集団の統合(田中二郎)
居住集団を再考する──ムブティピグミーのバンド構成から(丹野 正)
小家族の編成と機略的行為──サラワク・イバン社会の事例から(内堀基光)
4 集団の分節と統合
哺乳類社会の集団間関係と重層社会(大澤秀行)
家畜ヤギ群の成立機構(鹿野一厚)
分節化と集成化──分節社会の二種類(栗本英世)
戦いと集団内・集団間構造(福井勝義)
5 集団の合理性
年齢体系の構造──レンディーレ族の事例(佐藤 俊)
集団と性別原理──ニューギニア高地社会の事例(中山和芳)
子孫確保の方法と集団の編成──グシイ社会と沖縄社会の比較(松園万亀雄)
動物の集団──血縁淘汰説から考える(伊藤嘉昭)
序説討論──集団への志向と課題
第一部 集団とは何か
第二部 集団はどのように続くか
第三部 集団の中で個はどう生きるか
第四部 集団は何のためにあるのか
補充討論──集団研究への展望
第一部 動物から見た集団の特性
第二部 家族の析出、継承、そして相克
第三部 個が関係を志向するとき
第四部 集団の構造をひもとく
索引
■特別掲載 山極壽一氏による「『集団とは何か』発刊に向けて」
1980年代は「人間以外の動物はなぜ集団をつくるのか?」について世界中で白熱した議論が交わされた時代であった。それは、今西錦司率いる日本の霊長類学が1950年代に動物社会学を創始して、ニホンザルにも見事な社会構造があることを証明したことに端を発する。それまで欧米では「言葉を持たない動物は社会も文化も持たない」ことが常識とされていた。しかし、今西の弟子である伊谷純一郎や河合雅雄らによってニホンザルに社会や文化があることがわかると、欧米でも一斉に動物の社会に関する研究が始まった。1970年代はエドワード・ウィルソンによる社会生物学が台頭し、すべての生物に「社会」を認め、個体ではなく遺伝子が社会を動かしているとする説が登場した。一方で、文化相対主義によって長らく社会や文化の比較することを避けてきた文化人類学者たちが、1960年代から狩猟採集民や牧畜民を対象に社会の根本をなす原理や考え方について活発な議論を始めた。そのきっかけとなったのが『Man the Hunter』や『Woman the Gatherer』である。それらの議論を受けて国立民族学博物館の共同研究会に結集したのが、動物社会学や狩猟採集民、牧畜民の研究をしている文化人類学者たちであった。これらのフィードワーカーたちはすでに各地で動物や先住民の社会に入り込み、先端的な研究成果を挙げていた。そこには、人間の社会が動物の社会からどのように進化してきたのかを、「集団の編成と統合」という視点から捉えようという意気込みが息づいていた。本書の編者となった福井勝義はエチオピアのボディ族の研究者で集団間の暴力や戦争について研究してきた。彼が早くに亡くなってしまったことで、本書が未完になっていたことが惜しまれてならない。
なぜ、人間は集団を作るのか? 集団にはどのような統合原理があるのか? なぜ集団間は敵対するのか? それを緩和する方法はあるのか? などのいくつもの問いは未解決のままである。昨年東洋経済から『組織と人数の絶対法則』 という本が上梓された。これはイギリスの経済学者と霊長類学者が、人間の集団編成は動物界と共通するルールによって規則づけられていることを証明する本であった。さらに、オランダの歴史学者ルトガー・ブレグマンの『Humankinds 希望の歴史』やアメリカの政治学者ジェームス・スコットの『反穀物の人類史』など、人類の歴史を再考し、集団の作り方や暴力の原因について人間性を直視して解き明かそうとする書籍が相次いでいる。
本書の議論は決して古びていない。むしろ現代に斬新な問いと答えを投げかける。ここで本書の内容を世に出し、動物から人類につながる集団の在り方を世に問うことで、社会や暴力について新しい議論を展開する必要があると痛感する。
現代は気候変動による災害が頻発し、地球環境が破壊されてこれまでのような解決策では豊かな未来を構想することができない時代である。本書による人間性の根本に立ち返って集団と何かを探り、問題提起をする好機だろうと思う。

山極壽一氏
■本文サンプル

「3 集団維持の基本原理」章、「ゴリラの集団における世代とコミュニティの構造」(山極壽一)より。

「3 集団維持の基本原理」章、「小家族の編成と機略的行為──サラワク・イバン社会の事例から」(内堀基光)より。

「5 集団の合理性」章、「年齢体系の構造──レンディーレ族の事例」(佐藤俊)より。

「序説討論──集団への志向と課題」章、「第一部 集団とは何か」より冒頭。
■著者紹介
序文:山極壽一(やまぎわ・じゅいち)
1952年生まれ。人類学者(人類学・生態環境生物学)、霊長類学者。京都大学元総長。京都大学名誉教授。現在、総合地球環境学研究所所長。特にゴリラの生態と人類の社会性の起源が専門。『共感革命』、『森の巨人』など、著書多数。
著者代表:福井勝義(ふくい・かつよし)
1943-2008年。文化人類学者。京都大学名誉教授。京都大学大学院農学研究科で博士号取
得。国立民族博物館助教授を経て京都大学大学院人間・環境学研究科教授。『焼畑のむ
ら』、『認識と文化』など。
■書誌情報

書名:集団とは何か
副題:人間が「集まる」意味を人類学から解き明かす
序文:山極壽一
著者代表:福井勝義
仕様:A5判/上製/本文512ページ
初版発売日:2025年12月23日
定価:14,080円(本体12,800円)
ISBN:978-4-309-22985-0
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309229850/
出版社:河出書房新社