111年の歴史を誇る写真ラボ施設「東條會舘写真研究所」にて、9月2日(土)~10月9日(月)の期間、𠮷田多麻希氏による写真展「Brave New World」を開催中だ。
失敗から、強く生きる生き物の姿を発見
ある日、フィルム現像に失敗し、落胆と共に大きな衝撃を受けたという𠮷田多麻希氏。
ネガフィルムに大きくできた現像ムラが、そのネガに写る野生の鹿を侵食する脅威に見えたからだ。
それはまさしく、人々が自然に対して行なっている行為そのもので、日々意識せずに排出される化学薬品が自然界に与える影響を想像した吉田氏は、野生生物を撮影したネガフィルムを、自身が日常使用する洗剤、化粧品、歯磨き粉などを混ぜて現像。
結果、崩れながらも鮮やかに発色する世界と、強く生きる生き物の姿を見つけた。
写真のプロセス×被写体として捉えられた獣
今回、野生の獣たちを被写体として、人と自然・生物の関係を問い続けてきた𠮷田氏と、創業から100余年、人のあり姿をポートレートに納めてきた「東條會舘」が出会い、「東條會舘」が主催するはじめての展覧会「Brave New World」を開催。
外界と遮断された研究所の暗室から始まる体験は、人が思う理想の自然像を閉じ込めようとした「写真のプロセス」と、「被写体として捉えられた獣たち」とが織りなす共演の世界。そして続く、かつて銀塩写真の制作に不可欠な水を調整していた「東條會舘」の地下室では、反転して獣たちが、理想の画から抜け出し、ありのままの混沌とした姿で、華やかに描き出される。
儚くも勇ましい獣たちの姿
人が自然を脅かすように、獣たちを映し出すフィルムは、生活排水により侵食されながらも、獣たちの内側に眠る勇ましさ、狡猾さ、さらに𠮷田氏が生き物に向ける愛おしさをより一層浮き彫りにしており、高度な文明を築いたはずの人類が粗野の自然に目を向ける時、そこには何も持たずとも、種として生き続ける獣たちの姿を見ることができる。
今現在もラボとしてフィルムから写真を作り出している「東條會舘写真研究所」を舞台に、吉田氏の作品を通して、儚くも勇ましい獣たちが、その姿を露にし語りかけてくるような体験をしてみては。
■東條會舘写真研究所
住所:東京都千代田区麹町1-6-12 5階/地下1階
開館日:土・日・祝日
営業時間:13:00~19:00
※入場無料
※水・木・金曜日は予約制
Instagram:https://www.instagram.com/tojo_kaikan_photo_lab/
(佐藤ゆり)