広島市現代美術館では、9月21日(土)~2025年1月5日(日)の期間、特別展「ティンティン・ウリア:共通するものごと」を開催する。
ティンティン・ウリア氏について
ティンティン・ウリア氏は、1972年インドネシア・デンパサール生まれ。オーストラリア、イギリス、スウェーデンを拠点に、国際的に活躍する学際的なアーティストだ。
テキスト、映像、サウンド、絵画、ドローイング、ダンス、インスタレーション、パフォーマンス、公共介入などを通して、社会的、地政学的な国境を越えた複雑なパワー・ダイナミクス(権力の力学)をインターフェイスとして探求し、実践的かつ概念的にこれらのテーマに取り組んでいる。
ウリア氏の作品の根底にあるもの
ウリア氏の芸術的実践と研究に大きな影響を及ぼしてきたのは、民族的なマイノリティである中国系バリ人である自身の出自、さらには、1965~66年に起こったインドネシア大虐殺のときに行方不明となった祖父の存在。幼少期から差別を受けてきた経験をもつウリア氏は、人々が作り出した境界と、その境界を維持するために人々が繰り広げる戦争に関心を抱き、多領域にわたるインスタレーションや映像作品を通して、こうした問題を伝えてきた。
同氏の個人的な体験に立脚した芸術的実践を通して、私たちの身の回りにあるものごとが、美的要素を獲得することで、人々をつなぐ「共通するものごと」になり得ることに次第に気づくようになる。現在、こうした美的オブジェクトがいかに社会的・政治的変革に結びつくかを調査するプロジェクトを進めている。
ウリア氏の芸術的試みの変遷を体験できる個展
日本での初個展となる「ティンティン・ウリア:共通するものごと」では、比較的初期から現在に至る作品を紹介する。個々の記憶を含む個人的背景が、いかに集団的な行動や、他者との社会的繋がりへと変容し得るのか、という点に着目するウリア氏の芸術的試みの変遷を、作品を通して体験する機会となる。
『(Re) Collection of Togetherness[一体感の「再」集結]』は、2007年以降、段階的に形を変えながら発表されてきた、手作りのパスポートを使用した作品。同作で使用される、地球上のあらゆる国の複製パスポートは、ウリア氏のコレクションとして増え続ける。世界の国境は絶えず変化し続けるため、集める行為に終わりはない。また、パスポートの一部のページには、押しつぶされた蚊と血痕が表されている。所有さえできれば、国際移動を可能にするパスポートは同時に、自らが選ぶことのできない帰属の問題、種類(国籍)次第では、国境を越えられない可能性を孕むことを示唆している。
『Memory is Frail (and Truth Brittle)[記憶は脆弱(そして真実は脆い)]』は、100枚以上のドローイングからなるインスタレーション。空間(地理における)と時間(歴史における)の表現が、ループする物語として仕立てられる。ここではウリア氏の個人的な記憶と、さまざまな視覚芸術(映画等)から引用された、他者による記録とが交差し、世界に対する私たちの理解がいかに視覚的に構築され、記憶を通して記録されるかを問う。また、往々にして断片化される記憶を通して、現実がどのように形成されるのかを検証する試みでもある。
『Liminal Death[境界上の死]』は、ウリア氏が「移動」のシンボルのひとつとして取り上げ、しばしば作品に登場する「蚊」の変態に注目した作品。彼女が「境界上の死」と呼ぶのは、蚊の幼虫が水面で、蛹殻から羽化する瞬間に起こる死のこと。羽化中の状態でエタノールの中で保存されたこの蚊は、1965年にインドネシアで消息を絶ち、帰らぬ人となった、ウリア氏の祖父の存在と重ね合わされる。誰もが確信することのできない祖父の死は進行中であり、未完、つまり境界上の死を意味している。
特別展関連プログラムも実施
9月22日(日)には、ウリア氏が歴史や記憶をテーマにレクチャー・パフォーマンスを行う。
また10月5日(土)・12月8日(日)には、学芸員によるギャラリートークを開催。毎週土・日・祝休日には、アートナビゲーターによるツアー形式の展示解説「アートナビ・ツアー」を実施する。
さらに、オープン・プログラム「ミーティングポイント:出会う、知る、交換する」も、9月21日(土)~11月4日(月)に開催。インドネシアに関する書籍を閲覧できるほか、ウリア氏が関与するプロジェクトを紹介する。また、記憶の継承を考察する契機としてヒロシマ関連の映像も上映される。
特別展・関連イベントの詳細は、下記URLより確認を。
■ティンティン・ウリア:共通するものごと詳細:https://www.hiroshima-moca.jp/exhibition/tintin_wulia
■広島市現代美術館
住所:広島県広島市南区比治山公園1-1
(鈴木 京)