高畑トラストが、長期滞在促進による高単価化やオーバーツーリズム対策として、奈良市の歴史的建造物に宿泊し、東洋絵画の修復と金継ぎを学ぶ、外国人向けの「アーティストインレジデンス(滞在制作)プログラム」をスタートする。
プログラムは海外からの参加者が対象
「アーティストインレジデンスプログラム」は、奈良市の文化財建築「藤間家住宅」を拠点に、海外からの参加者を対象としたプログラム。
藤間家住宅は、江戸時代の終わり頃、奈良市高畑町で春日神官の住居として建てられた、奈良市の登録有形文化財建築だ。
同プログラムは、海外の参加者が伝統的な日本文化に触れ、東洋絵画の修復や金継ぎの専門知識を学び、異文化交流を通じてその技術を深く理解することを目的としている。中長期滞在を通じて、日本独自の修復技術を学ぶプログラムは、観光都市のオーバーツーリズム対策としても有効な高単価コンテンツとして、歴史建築の維持管理費に還元されるという。
滞在期間中、参加者は文化財修復工房を訪れ、地元の職人から技術を学びながら、伝統的な修復技法の実践的なスキルを習得。帰国後はそれを活かして、各国で文化財の持続可能な保存と継承に取り組んでもらうことを目指している。
「装潢修理技術」を学ぶプログラム
国の選定保存技術である「装潢(そうこう)修理技術」を海外に発信する、修復レジデンスプログラムでは、参加者が藤間家住宅に2週間~1カ月の期間滞在し、日本独自の文化財である「装潢文化財」の修理理念と技法を学ぶ。
装潢文化財とは、掛軸や屏風、折本などに仕立てられた美術品を指し、これらの修復技術は日本固有のもの。古来より日本の美術品や文化財は海外に多く流出しており、世界中の美術館に所蔵されているが、それを扱える人材が不足していることが課題だという。
修復レジデンスプログラムを通じ、日本の伝統的な技術の国際的普及に貢献するとともに、海外からのニーズの増加など、伝統技術の継承を促進する。
「金継ぎ」の理論と技法を学ぶプログラム
日本独自の修復技術として海外でも注目を集める、「金継ぎ」の理論と技法を学ぶレジデンスプログラムでは、最大1カ月の滞在プログラムや、外国人観光客が1日のみでも参加できるワークショップを通じて、参加者に金継ぎの奥深さを伝える。
金継ぎは、欠けた陶器の修復箇所を装飾的に仕上げることで新たな美を生み出す技法で、世界的にも「KINTSUGI」として知られており、欠けた部分を美の一部とする日本独自の美意識に基づき、現代のサステナビリティやアップサイクルの概念とも共通している。
インストラクターが各プログラムを担当
「アーティストインレジデンスプログラム」では、それぞれの分野の専門知識を備えたインストラクターが各プログラムを担当し、期間中、参加者を指導。参加者は藤間家住宅内または近隣のゲストハウス等に滞在し、プログラムを受講する。
プログラム期間中、参加者は近隣エリアの和紙工房、表具材料店、道具店等の見学も行う。
定期的に滞在プログラムを実施
11月24日(日)10:00~16:00には、トライアルとして、「金継ぎワークショップ in 藤間家住宅」を開催。参加定員は4名で、参加費は無料だ。講師は、金継ぎの魅力を広く発信するための活動を続けている、クレメンタイン ナトル氏。現在、ウェブサイトにて参加応募を受け付けている。
藤間家住宅では、2025年10月以降、4週間及び2週間の滞在プログラムを定期的に実施。今年12月以降、ウェブサイトで募集が開始される予定だ。
金継ぎのみの、単日ワークショップも行われる。
文化庁による事業に採択された高畑トラスト
高畑トラストが採択された文化庁による令和6年度「文化資源活用事業費補助金(全国各地の魅力的な文化財活用推進事業)」は、文化財の保存と活用に向けた再投資を目的としている。インバウンド観光客の旺盛な知的好奇心を満たし、文化財の高付加価値化を図ることを目指しており、奈良県からは高畑トラストと華厳宗元興寺の2団体を選出。
事業の伴走支援を担当する大阪成蹊大学の辰巳清准教授は「伝統技能の維持に必要な道具や材料に対する海外からの新たなニーズの形成と、関係人口の増加など、事業がもたらす効果に期待できる」とコメントしている。
日本の伝統や技術を海外に広める、「アーティストインレジデンスプログラム」のこれからに注目だ。
■藤間家住宅
住所:奈良県奈良市高畑町1325-1
滞在プログラム:https://tomaunrestored.com/artistresidency/
金継ぎワークショップ:https://tomaunrestored.com/artistresidency/kintsugi-2024/
(佐藤ゆり)