- 光電協調設計技術と異種材料集積技術を活用し、10テラビット/秒級・低消費電力光トランシーバ実現を加速 -
今回、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は、10テラビット/秒級・低消費電力光トランシーバの実現に向けて、光電協調設計技術を活用し、光領域でデジタルアナログ変換を行うことで、低消費電力化を実現する光DAC変換器、この光DACと、シリコン光回路上にInP系能動領域を接合集積する異種材料集積技術を用いることで、小型・高変調効率動作が可能なマッハツェンダ変調器を組み合わせた変調器モジュールを実現しました。また、異種材料集積技術を利用することで、小型化に有利なシリコン光回路上に、高速・高受光感度に有利なInP系フォトダイオードを接合集積し、これらの特長を活かした受光器と、それを搭載したモジュールを実現しました。
PETRAではこれまで、10テラビット/秒級・低消費電力光トランシーバの実現に向けて、シリコンフォトニクスプラットフォーム上にIII-V族半導体(InP)素子を多機能集積するため、InP小片/シリコン基板接合を用いた異種材料集積技術の検討を行ってきました。また、光電協調設計の考え方を利用し、光回路と電子回路の役割分担を見直すことで、大容量・低消費電力化を実現する新しい光トランシーバアーキテクチャの提案を進めてきました。
PETRAは、東京科学大学、東京大学と共同で、3月15日から3月19日に米国カルフォルニア州・ロサンゼルスで開催される世界最大級の光通信技術の展示会「OFC(Optical Fiber Communication and Exposition)2026にて、これらの成果に関する3件の口頭発表を行います。
・High Speed and Low Power Consumption Optical DAC Transmitter Using Fully Integrated CMOS and Silicon Segmented Modulator (Invited)
・IQ Modulators with Two Segments using InP/SOI Chip-on-Wafer Bonding Process for Optical DAC
・High L-band Responsivity of Compact InP-on-Si Coherent-Receiver PICs via Chip-on-Wafer Bonding
1. 背景
モバイル通信技術や人口知能(AI)技術の急速な発展に伴い、通信量が増大しており、 2030年代には一つの光トランシーバに要求されるデータレートが10 テラビット/秒※1を超えると予想されています。また、電力効率を示す指標であるpJ/bit(ピコジュール毎ビット)についても、分散コンピューティングへの適用を考慮すると、一桁台への大幅な改善が不可欠となっています。一方、 光通信システムを支えてきたInPやシリコンフォトニクス※2を用いた単一材料光デバイスにおいては、10 テラビット/秒のデータ伝送に向けた高速動作化と低消費電力化の両立に限界が見え始めており、技術的なブレークスルーが求められています。その中で、InPとシリコンフォトニクスのそれぞれの利点を組み合わせた異種材料集積光デバイスは、その有望なアプローチの一つとして期待されています。また、光トランシーバにおいては、10テラビット/秒クラスのデータ伝送と10 pJ/bit未満の電力効率を実現するには、容量あたりの消費電力を現行の1/5に低減する必要があります。この電力要件を達成するためには、デバイスの性能向上だけではなく、デジタル信号処理回路(DSP)を含む電子回路の消費電力を抜本的に低減可能な新しいアーキテクチャ技術が求められています。
2. 今回の成果
1. 光DAC変換器
デジタルコヒーレント伝送※3向けの光トランシーバでは、DSP出力をアナログ信号に変換する電気DACおよび線形増幅器の消費電力増加が、大容量化に伴う課題となっていました。これを解決するため、シリコンフォトニクスと光電協調設計技術※4を活用し、光回路上で変調とDAC処理を同時に実行する光DAC変換器を開発しました(図1(a))。これにより、電気DACと線形増幅器を省略でき、現行送信器比で約50%の消費電力削減を実証しました。本技術は光トランシーバの小型化・省電力化に寄与します。更に、新たに時間インターリーブ※5アーキテクチャを導入し、100 Gbaud※6級の高速動作をシミュレーションで確認しました(図1(b))。10テラビット/秒に向けて、100 Gbaud以上の高速動作への対応は基盤技術として重要になります。

図1 (a)光DAC変換器 (b)時間インターリーブ検証用シミュレーションアイ波形
2. 異種材料集積多値変調器※7
デジタルコヒーレント伝送向け多値変調器は、素子サイズを低減するために、高効率変調と光回路の小型化が求められています。図2(a)に示す異種材料集積多値変調器は、マッハツェンダ(MZ)変調器※8の高周波変調部にInP系材料を利用することで、高変調効率(VπL)0.42 Vπcmを示すとともに、変調部以外の主要な光回路はシリコン導波路を適用して、素子サイズを従来MZシリコン変調器比で半分以下にすることが可能です。
今回、原理検証として初めて、光DACに異種材料集積変調器を適用し、電気信号を増幅するドライバを集積して(図2(b))、高品質な64 Gbaud 16QAM※9動作を実証しました(図2(c))。今後、設計最適化を行うことで、10テラビット/秒に向けた100 Gbaud以上の高速動作・低消費電力化の技術として期待されます。

図2(a)異種材料集積MZ変調器の高周波変調部模式図 (b)ドライバ集積形態 (c)16QAMコンスタレーション
3. デジタルコヒーレント伝送向け受光器
大容量かつ低消費電力なデジタルコヒーレント伝送向け光トランシーバを実現するには、幅広い波長域で高受光感度を有する小型な受光器が不可欠です。従来のシリコンフォトニクス技術で作製した小型受光器は、Cバンド(波長: 1530 nm - 1565 nm)では、高受光感度を示す一方、Lバンド(波長: 1565 nm - 1612 nm)では、受光感度が低い点が課題でした。そこでPETRAでは、小型なシリコン光回路上に高受光感度に有利なInP系フォトダイオードを接合集積する技術を開発しました。
本技術を用いて作製した小型コヒーレント受光器 (図3(a)) は、Lバンド端で従来対比2倍以上の高受光感度を示すと共に、本素子を搭載した試作モジュールにおいて、高品質な100 Gbaud 16QAM信号の受信に成功しました(図3(b))。本受光器は、Lバンドを利用する大容量デジタルコヒーレント伝送において、光トランシーバの消費電力低減に寄与します。

図3 (a) 異種材料集積コヒーレント伝送向け受光素子 (b) 16QAMコンスタレーション
3. 今後の予定
今回開発した光トランシーバアーキテクチャ技術、異種材料集積変調器・受光器の製品適用に向けて、デバイス製造技術やトランシーバ実装技術の開発を進め、2030年以降に大容量・低消費電力光トランシーバの製品化を目指します。また、その過程で得られた要素技術は順次製品へ適用し、分散コンピューティングのみならず、IOWNを含め、様々な通信アプリケーションに展開していきます。
謝辞:今回の成果は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(JPNP16007)の結果得られたものです。
[注釈]
※1 テラビット/秒
通信回線などのデータ伝送速度の単位で、1秒間に1テラ(1e12)ビットのデータを伝送する速度。
※2 シリコンフォトニクス
シリコン基板上に光素子を形成する技術。シリコンを用いることにより光回路を小型化でき、大規模集積が可能になる。また、光回路と電子回路の一体形成や製造コストの低減が可能になるなどの特長を持つ。
※3 デジタルコヒーレント伝送
光の電磁波としての性質を利用し、信号光の強度と位相両方にデータを重畳する光通信方式。光信号が送信器、受信器、伝送媒体(光ファイバなど)で受ける信号品質劣化をデジタル信号処理回路で補償し、誤りのないデータを復号することを特徴とする。従来の直接変調・直接検波方式と比較してより大容量のデータを長距離で伝送できることがメリット。
※4 光電協調設計技術
従来個別に回路設計していた電気回路と光回路について、電気信号・光信号を一括で回路モデルとシミュレーション手法を活用することで、全体性能が最大化するように協調設計する技術。
※5 時間インターリーブ
複数の回路や処理系を時間的にずらして交互に動作させ、全体として高速化や処理能力の向上を実現する技術。
※6 Gbaud
データ伝送において1秒間でやりとりする符号(シンボル)の数を示す単位。1秒間に1ギガ(1e9)のシンボルを送受信することに対応する。これに1シンボル当たりが持つ情報量を掛け合わせることでデータ伝送速度になる。
※7多値変調器
1つの信号要素(シンボル)に複数のビット(情報)を割り当てて伝送するデジタル変調方式向け変調器。光の電磁波としての性質を利用し、信号光の強度と位相の両方にデータを重畳させる。同相(In-phase)と90度位相がシフトした(Quadrature-phase)2つの成分に分解し、各相で強度変調と0度/180度の位相変調を行い、これらを合成することで振幅と位相を同時に制御する。
※8 マッハツェンダ変調器
入射した光を2本の導波路(アーム)に分岐させ、各アームに印加する電圧で屈折率を変化させて光の位相を独立に制御し、出口で再合成することで出力光パワーを調整する光変変調器。
※9 16QAM (Quadrature Amplitude Modulation)
コヒーレント伝送でやり取りするシンボルのフォーマット。強度と位相の変調を組み合わせて16通り(4ビット)の情報をやり取りする。
4. 問い合わせ先
(本ニュースリリース内容についての問い合わせ先)
技術研究組合光電子融合基盤技術研究所 TEL:03-5225-2362
E-Mail:petros@petra-jp.org
URL:https://www.petra-jp.org/