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国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター AMR臨床リファレンスセンター

急増する百日咳感染 耐性菌の出現でターニングポイントを迎える治療選択

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 AMR臨床リファレンスセンターでは、政府で策定された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023ー2027」に基づき、AMR対策を進めています。AMR対策の基本は抗微生物薬の適正使用と感染対策です。抗微生物薬の適正使用とは、抗微生物薬が必要な疾患に対して、適切な抗微生物薬を、適切な使い方で治療することです。
 昨年来、百日咳の大規模な流行がみられています。さらに、薬剤耐性菌が全国的に広がりを見せており、治療を難しくしています。今回は急増する百日咳とその耐性株について、東京都立小児総合医療センターの堀越裕歩先生に実地臨床でのお話を伺いました。

堀越 裕歩
(Yuho Horikoshi)東京都立小児総合医療センター 感染症科 部長
小児総合医療センター 感染症科、免疫科 診療科責任者
昭和大学 医学部卒
専門分野:小児感染症/免疫不全感染症/感染対策/抗菌薬適正使用プログラム/国際保健
日本小児感染症学会 指導医(専門医)・理事
日本小児科学会 小児科専門医・指導医・代議員
ICD(Infection Control Doctor)

本ニュースレターのサマリー

- 百日咳は過去最大規模で流行しており、 特に10代を中心に患者数が急増している
- 乳幼児では重症化リスクが高い感染症
- マクロライド耐性株が増加しており、治療選択の転換期を迎えている
- 百日咳対策においても、適切な診断と適正な抗菌薬使用、そして基本的な感染対策が重要

全例報告開始以来最大の百日咳流行が始まっている

 百日咳は新型コロナウイルス感染症やインフルエンザと比べると患者数は多くないこともあり、医療者の経験が少ない感染症と言えるかもしれません。
 2018~19年における百日咳の年間届出数は1万件台で推移していましたが、他の感染症と同じように、新型コロナ流行期であった2020~23年にかけては減少し、2024年から増加傾向に転じています※1 (図1)。2025年は前年から顕著に増え、8万9,000件を超えています※2。これは全数報告が義務付けられた2018年以降で最大の流行です。
「百日咳の場合、成人は医療機関を受診するほど症状が悪化しないため、潜在患者を含めると、100万人を超えているのではないか」と堀越先生は言います。
 年齢別に見ると、10代が全体の約6割、次いで1~9歳が2割、20歳以上は1割強でした (図2) 。
 また、感染拡大に加え、後述するマクロライド耐性株の全国的な広がりが治療に影響を及ぼしています。

※1 https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/020/2504_pertussis_RA.html JIHS百日咳の発生状況について
※2 https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/jp/rapid/2025/50/index.html JIHS 速報データ2025年第50週

麻疹に匹敵する感染力、乳幼児で重症化のリスク

 百日咳感染症の原因はグラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)です。菌が気道上皮に感染することで、乾性咳嗽や発作性の咳を引き起こします。感染経路は主に患者の上気道分泌物の飛沫や接触感染です。感染力は非常に強く、麻疹に匹敵するとされ、免疫のない家族内接触者における2次発病率は80%以上との報告があります※3。
 2018年、百日咳は診断したすべての医師が届出を行う5類全数把握対象疾患に指定されました。学校保健安全法令では第2種感染症に定められており、特有の症状が消えるまで、または5日間の適切な抗菌薬治療が終わるまでは出席停止とされています。
 7~10日間程度の潜伏期を経て、感冒様症状を2週間程度認めた後(カタル期)、発作性けいれん性の咳を起こす状態(痙咳期)が持続します。その後2~3週間経過すると激しい発作性の咳は認められなくなり(回復期)、全経過2~3カ月で回復します。菌の排出は、咳の出現から3週間程度持続するとされます。コンコンコンと短い咳が連続的に起こり、息を吸う時にヒューと笛のような音が出る(スタッカートレプリーゼ)のが特徴です※4。しかしワクチン接種者では典型的な咳嗽発作が出にくく、成人患者の症状も多くは非典型的であるため、診断が難しいケースがあります。また乳児期早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、時に呼吸停止へと進展します※4。特にワクチン未接種の乳幼児は重症化しやすく、0歳で発症すると半数以上が入院加療となると報告されています※3。
※3 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001139445.pdf 国立感染症研究所 百日せきワクチン ファクトシート 2017年2月10日
※4 https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/detail/index.html JIHS百日咳(詳細版)

効果的なワクチン接種、さらに有効性を高める工夫

 百日咳に対してはワクチンによる予防が効果的です。ワクチン導入前、わが国の百日咳患者数は10万例以上にのぼり、そのうち10%が死亡していました。百日咳は予防接種法に基づくワクチン接種に位置づけられています。ワクチンの普及とともに患者数は減少し、日本は世界でも百日咳罹患率の低い国となっています※4。
 現在、日本では、小児の定期接種として5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib:ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ・ヘモフィルスインフルエンザ菌b型)を生後2ヵ月以降の0歳代に3回、1歳代に1回追加する計4回接種しています。
 近年は、免疫の持続性を踏まえた追加接種の在り方について学会等から提言が示されるなど、より効果的な予防戦略の検討が続けられています。こうした科学的知見を踏まえつつ、ワクチンの安定供給は感染症対策の基盤であるとの認識のもと、関係機関が連携しながら供給体制の強化と安定化に向けた取り組みを進めています。
※4 https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/detail/index.html JIHS百日咳(詳細版)

遺伝子検査による診断とマクロライド系抗菌薬による治療が基本

 百日咳感染の検査としてはPCR法が世界的に主流です。わが国ではPCRよりも迅速に結果が判明する遺伝子検査であるLAMP法も承認されました。また、百日咳を含む複数の呼吸器感染症を同時に検査できる多項目(マルチプレックス)PCR検査や、15分程度で検査可能な迅速抗原検査キットも登場しています。血清を用いた抗百日咳毒素抗体検査は痙咳期の後半で菌が検出できなくなった時期に活用できます※5。
 一方、培養検査は菌の証明や、薬剤感受性検査のためにも重要ですが、百日咳では特殊な培地が必要で感度も低いという問題があります。ただ、「耐性菌が出ている現在、可能な施設では培養検査もぜひ行ってほしい」と堀越先生は訴えます。
 治療は第1選択薬がマクロライド系抗菌薬、第2選択薬はST合剤※6です。抗菌薬が最も効果を発揮するのは症状出現初期、感冒様症状を呈するカタル期とされます。この時期に治療を始めれば、咳の進行を抑えることができ、かつ感染の拡大も防ぐことが可能です。痙咳期に入ってからでは抗菌薬の効果は限定的で、症状は自然経過をたどることになります。
※5 https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/7081-444r06.html JIHS百日咳の検査診断
※6 スルファメトキサゾールとトリメトプリムの2つの抗菌成分を配合した抗菌薬。細菌のDNA複製に必要な葉酸の合成を阻害して増殖を抑える

8割が耐性?広がるマクロライド耐性百日咳菌、東京都立小児総合医療センターでの報告※7

マクロライド耐性百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis:MRBP)は2011年に中国で報告※8されて以降、世界各国への拡散が危惧されています (図3)。

※7 https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol46/543/543p01.html IASR.2025;46:108-110.
※8 https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/10457-496r04.html IASR.2021;42:115-116.

 日本でも2024年からMRBPの報告がみられるようになりました※8,9。2025年に地方衛生研究所で実施された検査では、マクロライドに耐性となる変異株が約8割を占めていました※10。
 堀越先生らは東京都立小児総合医療センターで発生した5例のMRBPの詳細を報告しました※7。報告症例にみられる特徴として、ワクチン未接種、兄弟姉妹間の感染、有効な治療開始の遅れによる遷延化といった問題が認められます。また、ST合剤による治療が症状改善に有効でした。「重症化しやすいワクチン未接種の乳幼児では、抗菌薬を外すと命に関わる。そのため、耐性菌を考慮して最初からST合剤+マクロライドの治療が必要ではないか」と堀越先生は述べます。日本小児科学会もST合剤の低出生体重児、新生児、妊婦に対する安全性に注意しつつ、生後2ヶ月未満でもST合剤の併用を検討するよう声明を出しています※11。
※9  https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/46/540/article/140/index.html 谷口公啓ほか, IASR.2025;46:42-43.
※10 https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol47/551/551r06.html
    国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト マクロライド耐性百日咳の検査 up to date
※11 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250623_jyushouhyakunitizeki.pdf 
日本小児科学会 生後 2 か月未満の乳児における重症百日咳の発症に関する注意喚起と治療薬選択について

現在の百日咳感染の状況に際し医療者が意識しておくべきこと 

 とはいえ、臨床現場において持続的な咳を認める疾患は気管支喘息、マイコプラズマ感染症、結核、感染後咳嗽、咳喘息など、百日咳以外にも様々なものがあります。重症化リスクの高い乳幼児を守るためには、どのような場合に百日咳を念頭に置くべきかが重要です。堀越先生は、「感染が疑われる本人だけでなく、家族に長引く咳をしている人がいないか、また小学校から高校世代の家族がいる場合には学校での流行状況を確認することが診断のヒントになる」と指摘しています。乳幼児のいる家庭では学童期の子どもが同居していることも多く、年長児や成人では典型的な症状を示さない場合もあります。そのため、周囲に持続する咳がみられる場合には百日咳の可能性を念頭に置き、早期に適切な診断・対応につなげることが重要です。特に乳幼児や妊婦と接触する機会の多い方では、咳症状が続く場合には早めに医療機関を受診することが勧められます。ワクチン未接種の乳幼児で百日咳が否定できない場合は、診断できる施設への紹介、 LAMP法などの外注検査や多項目PCRや迅速検査キットによる自院検査などを活用し、速やかに対応すべきでしょう。堀越先生によれば「PCRやLAMP法は比較的長く高い検出感度を示すので、外注する余裕があれば勧められる。一方、PCRやLAMP法の感度が低下する4週間以降は血液検査が適している」とのことです。
 薬剤耐性菌対策としてできることは、百日咳も他の耐性菌と変わりません。手洗い・マスクの活用などの生活習慣と確実なワクチン接種による感染予防、そして適切な抗菌薬治療です。安易な抗菌薬投与は治療対象以外の細菌にも薬剤耐性を誘導します。そのため、抗菌薬治療は、きちんと診断を付けて行うことが重要です。堀越先生も「ST合剤耐性の百日咳菌を作らないためにも抗菌薬治療はしっかりした診断の上で行うべき」と警鐘を鳴らします。
 百日咳対策は特別なものではなく、適切な診断と適正な抗菌薬使用、そして基本的な感染対策が重要です。流行期においても冷静に対応し、科学的知見に基づいた診療を行うことが求められます。

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