「記憶はAIに、時間はお客様へ」--育成とコンサルタントのあり方をアップデートする

写真左より、株式会社青山財産ネットワークス 経営企画本部 経営企画部 ソリューショングループ 兼 DX推進室 課長 高橋郁弥氏、執行役員 経営企画本部 DX推進室 室長 三浦雅範氏、AICE株式会社 代表取締役COO 高橋将生、プロジェクトマネージャー 東原弘樹
相続・税務・法務・財務といった高度な専門性が絡み合う事業承継・財産承継のコンサルティングの現場では、調査・整理・比較・記録といった「記憶する仕事」が膨大だ。
株式会社青山財産ネットワークスは、この構造が生む育成課題と属人化に向き合うため、2024年にDX推進室を立ち上げた。AICEとともに進めるのが、「300体のAIエージェント」構想である。目指すのは、単なる社内効率化ではなく、育成と価値提供のあり方そのものを更新していくことだ。
その根底にあるのは、『記憶はAIに、時間はお客様へ』という発想である。
調査や整理に奪われがちな時間を減らし、対話と提案の質を高める。そして「一人前になるまでに5年かかる」とされる育成の構造を、AI前提の働き方へどう組み替えていくのか。
「300体のAIエージェント」という大きな構想は、現場の業務と育成、そしてコンサルタント像をどこまで変えられるのか。
本記事では、同社のDX推進を牽引する三浦雅範氏(執行役員 経営企画本部 DX推進室 室長)、高橋郁弥氏(経営企画本部 経営企画部 ソリューショングループ 兼 DX推進室 課長)、細井悠貴氏(経営企画本部 DX推進室)、葛西夏美氏(経営企画本部 DX推進室)に話を伺った。
一人前になるまで5年──総合財産コンサルティングの構造的な壁
--DXを検討する以前から、どのような課題が組織の中に存在していたのでしょうか。
高橋氏: 最も大きかったのは、「一人前になるまでに時間がかかりすぎる」という課題です。当社には現在240名ほどのコンサルタントがいますが、実際に主担当(※基本は副担当との2名体制)としてフロントに立てるのは、体感で6割ほどです。
総合財産コンサルティングは、相続・税務・法務・財務に加え、企業文化や家族関係など複数の領域が絡み合います。そのため学ぶべき知識が広く深い。さらに、必要な情報を集めて整理し、比較・判断し、提案に落とし込むまでの「記憶する仕事」も膨大です。一方で、自身の予算を担いながら若手の育成も担うベテランコンサルタントほど多忙を極め、教育はOJTに依存しがちでした。
教える側も学ぶ側もその場を回すことに追われ、育成を急ぎたいのに育成ができない。ナレッジを共有したいのに、共有の仕組みが整わない。こうした背景から、一人前になるまでに5年かかってしまう構造がありました。
三浦氏: 総合財産コンサルティングの現場は、案件ごとに状況が異なります。だからこそ、過去の判断や提案の背景が資産化されていないと、同じ調査や検討が繰り返されやすい。育成の遅さは、個人の努力だけでは解けない「学びと業務が同じ人に集まりやすい構造」から生まれている--私たちはそう捉えていました。
バックオフィスではなく「人の能力」をDXする
--2024年にDX推進室を立ち上げた背景には、どのような判断があったのでしょうか。
三浦氏: 多くの企業がDXの入口にするのはバックオフィスだと思いますが、私たちが向き合っていた課題は、単なる効率化ではありませんでした。どれだけ事務効率が改善されても、「人が育つまでに時間がかかる構造」そのものは変わらないからです。
総合財産コンサルティングの価値は、お客様の背景や思いを汲み取り、相続・税務・法務・財務といった複数領域の知識を統合しながら、お客様の未来を言語化していく力にあります。であれば、DXの焦点は事務作業の効率化ではなく、コンサルタントの能力そのものを底上げすることだと考えました。
--具体的に、どのような方向性を描いたのでしょうか。
三浦氏: 育成を担える人材を、人の力だけで十分に増やすのは現実的に難しい。そこで浮かんだのが、「AIが新人たちの先生役として機能する」という考え方です。24時間365日、相続・税務・法務・財務といった知識にアクセスでき、過去事例の整理や調査の補助も担える存在が社内に複数いたらどうか。人の先生を増やすのは簡単ではありませんが、AIであれば会社全体に何体も配置できる。
そうすればコンサルタントは「お客様と向き合う仕事」により多くの時間を使えるようになり、結果として育成のスピードと質を高められるはずだ、と考えました。
高橋氏: ポイントは、AIを便利ツールとして置くのではなく、育成と業務の双方に効く形で設計することです。誰か一人の経験に頼らず、必要な知識にいつでも辿り着ける。迷ったときに過去事例の比較や根拠の整理まで手伝ってくれる。そういう環境があれば、学び方そのものを変えられると考えました。
業務を分解して見えた「300体のAIエージェント」構想の定義と狙い
--「300体のAIエージェント」という構想に至った背景を教えてください。
三浦氏:300という数字を最初から目標に掲げていたわけではありません。私たちは、自社のコンサルタントが日々どのような判断をし、どんな調査や整理をしているのかを、業務単位にまで分解するところから始めました。事業承継・財産承継は、相続を見据えた資産運用のプランニング、税務や法務の確認、法人の財務分析、事業や家業の後継者の選定など、複数分野の仕事が並列に進みます。
これらを丁寧に棚卸ししていくと、複数の大きな業務クラスターに整理でき、さらに細分化すると、約300の独立した業務の単位として切り出せることが分かりました。
つまり300という数字は、構想として考えた数ではなく、業務構造を「見える化」したときに自然に導かれた数だったのです。この構造化が進むにつれ、AIが担うべき領域と、人が担うべき領域の役割分担も、より明確に見えてきました。
--AIエージェントは、どのような存在として設計しているのでしょうか。
高橋氏: 私たちが想定しているAIエージェントは、何でも答えるチャットではありません。業務分解で切り出したタスクごとに、調査・整理・比較・要点化といった下準備を専門に担う、タスク特化の存在として設計しています。たとえば、必要な資料や過去事例を探す、比較の観点を整理する、検討に必要な論点の抜け漏れを洗い出す--これまで人の頭と手に依存しがちだった工程を、タスク単位で支えるイメージです。
「300体のAIエージェント」は、バラバラな便利機能として置くのではなく、案件ごとに発生する下準備のボトルネックを、業務の構造に沿って確実に埋めていくための設計です。そうすることで、コンサルタントが本来向き合うべき判断や対話に集中できる土台を整えたいと考えています。

株式会社青山財産ネットワークス 経営企画本部 経営企画部 ソリューショングループ 兼 DX推進室 課長 高橋郁弥氏
「300体のAIエージェント」が変える未来と、理想のコンサルタント像
--「300体のAIエージェント」構想によって、どのような未来を実現したいと考えていますか。
三浦氏: 私たちが実現したいのは、単に作業が楽になることではなく、総合財産コンサルティングの現場が「人が本来向き合うべき仕事に時間を使えるようになる世界」です。若手は早い段階から実践を重ねられるようになり、ベテランは属人的な対応に追われるのではなく、判断の観点や考え方を言語化して伝える時間を確保できる。結果として、個人の経験に依存したOJTから、再現性のある育成へと移行していきます。
こうした学び方の転換が積み重なることで、育成期間を「5年から3年へ」近づけ、お客様の未来に寄り添うコンサルタントを早期に育成できるようになること--それこそが、「300体のAIエージェント」構想に込めた最大の期待です。
--「300体のAIエージェント」構想が進んだ先で、「理想のコンサルタント像」はどう変わるのでしょうか。
三浦氏: これまでの教育は「とにかく覚える」に依存してきました。もちろん学習は必要ですが、人が発揮すべき価値の源泉が記憶力なのかと言われると疑問もあります。AI前提の教育モデルになると、記録や知識の整理、一次判断の多くはAIに外部化できます。その役割分担のうえで、コンサルタントはより深くお客様に寄り添い、幸せを支える専門家へ深化していけると考えています。
だからこそ人が磨くべき力は、「初回面談で本音を引き出す問い」「対話の深さ」「合意形成」、そして「未来を言語化する力」へとシフトしていく。実際、コンサルティングの現場は数字中心の業務に見えて、実態は人生や家族の物語に深く触れる仕事です。
法制度や専門知識を覚えていることだけでは測れない、人にしかできない価値を最大化する存在こそ、私たちが描く理想のコンサルタント像です。

株式会社青山財産ネットワークス 執行役員 経営企画本部 DX推進室 室長 三浦雅範氏
導入だけでなく「自走可能な状態」をつくる
--「300体のAIエージェント」を社内に浸透させるうえで、想定される壁はありますか。
葛西氏:はい。規模が大きくなるほど、「どのAIエージェントを誰がどう使うか」「部門による活用レベルの差」「具体的な活用シーンの共有不足」といった導入の壁は避けられません。そこで検討しているのが、各部門からAIに関心のあるメンバーを選び、「利用方法の伴走」「活用事例の展開」「現場からの改善点の吸い上げ」といった浸透の起点を担ってもらう「DXアドバイザー構想」です。
細井氏: 導入の壁を取り除くだけでなく、将来的には「社内でAIエージェントを開発できる領域を増やす」ための土台にもなると考えています。高度な構造設計が必要な部分は会社の外部と共創しながら、身近な業務に近いAIエージェントは社内でつくる。そんな自走状態を目指しています。「300体のAIエージェント」は、技術を導入して終わりではなく、社内でも自走するAI活用へつなげていくための挑戦です。

株式会社青山財産ネットワークス 経営企画本部 DX推進室 細井悠貴氏
AICEとの出会い-- 構想が「実装」へ変わった瞬間
--AICEとはどのような出会いだったのでしょうか。
三浦氏: きっかけは企業展示会でした。ちょうど社内で「AIで事業承継・財産承継のコンサルティングのあり方を変えられないか」と議論していた時期で、このテーマに強い関心を持っていました。そこで偶然AICEさんのブースを見つけ、話を聞いたのが最初です。そのときに感じたのは、知識量と熱量でした。技術の説明だけでなく、事業承継・財産承継という特殊な文脈を踏まえて議論でき、現場に寄り添った会話ができたことが印象的でした。
高橋氏: 当時、私たちは「300体のAIエージェント」構想を言語化し始めた段階でしたが、AICEさんが提示した、RAGを活用したAIエージェント開発の構想が、その青写真と重なりました。これは構想を「実装できる形」に一緒に落とし込めるのではないか--そう強く感じた瞬間でした。
--最終的にAICEと組むと決めた理由を、教えてください。
三浦氏: 理由は大きく3つあります。一つめは「運用・実装を前提に提案する姿勢」。二つめは「PoCの目的が明確で、KPI改善といった事業価値に直結する視点で設計する姿勢」。そして三つめが、「やると言ったことをやり切る姿勢」です。
技術的に難しい部分が見えてきてもトーンダウンするのではなく、前提や設計を更新しながら、「現場で価値が生まれるかどうか」を基準に考える。その姿勢に強い信頼感を持ちました。
高橋氏: 技術の変化が激しい中で、どの領域にAIを適用し、どこに人の力を残すのか。その線引きは一度決めて終わりではなく、継続的に見直す必要があります。AICEさんとの共創の価値は、そのバランスをパートナーとして一緒に考え、最適解を更新していける点にあると思っています。技術ができるかどうかではなく、「現場で価値が生まれるかどうか」を基準にする姿勢は、私たちのDX構想と相性が良いと感じました。
AICEとともに描く事業承継・財産承継の未来
──日本の生産性を変える挑戦--今後、AICEに期待することと、一緒に実現していきたい未来を教えてください。
三浦氏: 私たちの仕事は、単なる財産コンサルティングではなく、突き詰めると社会貢献だと思っています。特に事業承継においては、後継者不在問題をはじめ、事業存続の障害となる要因に対処し、黒字廃業を減らして中小企業が未来につながる状態をつくることが重要です。そのために必要なのは、限られた人材で価値提供の質と量を高める働き方の転換です。
事業承継の現場でそのモデルを形にできれば、専門家不足や属人化の課題に対しても、現実的な解を提示できると考えています。人だけで価値を積み上げるのではなく、AIが知識の蓄積や記録といった「記憶する仕事」を支え、人は対話・判断・構想に集中する。こうした役割分担が広がれば、人とAIの総合力で日本の生産性を2倍、3倍へと押し上げる道筋が見えてきます。
そして、AIの世界はこれからも変化を続けます。だからこそ私たちが求めているのは、単なる技術提供ではなく、変化にタイムリーに応えながら、構想から実装、運用まで伴走できる共創パートナーです。AICEさんは、AIを開発するだけの企業ではなく、私たちの描く未来像を理解し、構想から実装まで伴走してくれる存在だと感じています。
私たちがAICEさんと進めているのは、一社の単なる効率化ではありません。「300体のAIエージェント」構想は、AI導入の話であると同時に、「コンサルティングの仕事をどう再設計するか」という問いそのものでもあります。
AIと人が共に働く前提で、価値提供のあり方をアップデートし続ける--その未来において、AICEさんと共に構築してきた仕組みが、日本の事業承継・財産承継を支えるインフラとして機能している。そんな未来を、ぜひ実現していきたいと思っています。

(写真左)株式会社青山財産ネットワークス 執行役員 経営企画本部 DX推進室 室長 三浦雅範氏、(写真右)AICE株式会社 代表取締役COO 高橋将生
--AIが支え、人がより人らしく働く未来へ。
青山財産ネットワークスが描くのは、AI導入を効率化で終わらせず、育成と価値提供の構造そのものを更新していく挑戦だ。「300体のAIエージェント」という大きな構想が、AICEとの共創によって、現場で使われ続ける形へどう育っていくのか。事業承継・財産承継の現場における新しい働き方と育成のモデルをつくる取り組みは、すでに動き始めている。
株式会社青山財産ネットワークス 会社概要
社名:株式会社青山財産ネットワークス
本社:〒107-0052 東京都港区赤坂8丁目4番14号 青山タワープレイス3階
設立:1991年9月17日
資本金:12億6,899万円 (2025年12月31日現在)
従業員数(グループ連結):398名(2025年12月31日現在)
事業内容:財産コンサルティング、事業承継コンサルティング、不動産ソリューションコンサルティング
会社概要
社名:AICE株式会社
所在地:東京都文京区後楽2丁目3-21 住友不動産飯田橋ビル 4F
代表取締役 CEO:佐藤匠
事業内容:業界特化型DXコンサルティング、生成AI環境の構築支援
お問い合わせ
私たちは「匠」の技に「AIの知」をというミッションの元
AIで日本の生産性を10倍にという目標を掲げています。
まずはお気軽にご相談ください。
AICE株式会社 お問い合わせフォーム