気候変動に適応したネイチャーフレンドリーな放牧と持続可能なカシミア生産について
株式会社シンク・ネイチャーは、アパレル関連ビジネスに向けて、気候変動と生物多様性損失による統合的リスクへの対応と、サステナブルな原材料調達のための現場アクションに関する論文を公表しました。


背景:草原生態系からの恩恵を、サステナブルに利用するために
人間による自然への介入は累積的な影響となって、地球上の100万種もの野生生物を絶滅の危機に追い込んでいます。その中でも、草原は、多様な野生生物をはぐくむ生態系で、牧畜などによる農産物、炭素貯留、土壌の侵食防止などの「恩恵」をもたらしているにも関わらず、農地転換や都市化などの開発圧、気候変動の脅威にさらされています。このような草原生態系の消失は、草原が有する「複合的な自然資本」を劣化させることになり、草原に依存する経済活動を持続不可能にします。

だからこそ、2030年「自然再興(ネイチャーポジティブ)」、2050年「自然と共生する社会」などの国際目標が掲げられ、それらのビジョンを達成するために、実効性のあるアクションが求められています。具体的には、私たちの暮らしを支える「衣・食・住」が依存している自然の産物(コモデイテイ)の調達において、ネイチャーポジテイブを推進するような事業変革が必要なのです。
アパレル産業の重要コモデイテイである動物繊維は、ヤギやヒツジなどの牧畜(放牧)に依存しており、放牧は生物多様性の豊かな草原生態系に支えられています。気候変動によって草原の生物多様性が劣化すると、放牧がままならなくなり、衣類の原材料の生産が持続不可能になります。つまり、アパレル関連企業にとって、気候・自然関連リスクへの対応は、事業成長に直結するマテリアルな課題なのです。
このような観点から、今回発表した論文では、アパレル業界における高級原料のひとつであるカシミアの生産が、気候変動や草原生態系の劣化によって、どのような影響を受けるのかを定量しました。具体的には、人工衛星データと生物種分布モデルを統合した最先端の自然可視化データテクノロジーにより、草原バイオマスや植物種多様性の動的変化を追跡し、気候変動下の草原生態系における適応的な放牧管理、サステナブルなカシミア調達のあり方を明らかにしました。

主な研究成果
衛星リモートセンシングと生物分布モデルを統合して、草原バイオマスと植物多様性の長期変動を解析しました。これにより、気候変動に伴って草地と砂漠・低木地の境界が大きく変動していることを定量的に解明しました。この分析から、内モンゴルの場合、年間降水量400mm以上の地域において、1haあたり10頭未満の放牧密度が、草原生態系の保全と利用の両立に有効であることを示唆しました。
ビジネスへの示唆
1)気候・自然関連リスクの可視化
原材料供給の不確実性を科学的に定量し、調達リスク管理への応用可能性を明示しました。
2)サプライチェーンの強靭化
経験則に依存しない定量的指標により、調達先選定や生産計画における意思決定を高度化できます。3) ESG・TNFD対応の強化
自然資本への依存と影響を定量的に説明でき、企業のサステナビリティ開示やブランド価値向上に貢献します。
結論
本研究は、カシミアという高付加価値コモディティを対象に、気候変動と生物多様性保全を同時に考慮した生産・調達モデルを科学的に提示しました。今回提案した科学的アプローチは、アパレル産業が将来の不確実性に対応しつつ持続可能性を高めるための重要な基盤となります。

発表論文
【タイトル】A pathway to biodiversity-friendly, sustainable cashmere production under climate change
【著者】Yasuhiro Kubota, Takayuki Shiono, Kenji Watanabe,Buntarou Kusumoto, Shogo Ikari
【雑誌】Global Ecology and Conservation
【DOI】https://doi.org/10.1016/j.gecco.2026.e04069
【URL】https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2351989426000181
株式会社シンク・ネイチャー
マクロ生態学、生物多様性保全科学において卓越した研究実績を有する国内・海外の研究者を有するグローバル企業です(https://think-nature.jp)。世界の陸・海を網羅した自然史の研究論文や標本情報、リモートセンシング(人工衛星・ドローンによる観測)、環境DNA調査、野生生物のバイオロギング、市民科学などで収集された生物関連データ(地理分布、遺伝子、機能特性、生態特性など)をデータ統合し、AI等の最先端技術を用いたネイチャーの可視化や予測や、シナリオ分析技術を有しています (J-BMP*1)。TNFDのデータカタリストイニシアティブに参画し、自然資本ビッグデータを活用した自然の持続的利用に関する分析、評価、ソリューション(GBNAT*2 、TN LEAD*3)で、金融機関・機関投資家・企業の生物多様性対応を支援しています。さらに、「生物多様性ネットゲイン」を可視化し、ネイチャーポジティブ事業を推進するためのサービス(TN GAIN*4)を提供しています。また、生物多様性の記載に尽力している研究者を表彰する「日本生態学会自然史研究振興賞(*5)」を提唱し、賞金を提供して基礎科学の裾野を支える活動を行い、さらには一般向けに、生き物の豊かさを、地図で見える化したスマートフォンアプリ「ジュゴンズアイβ版(*6)」(無料)をリリースし、生物多様性の主流化(教育普及)を推進しています。
*1J-BMP: 日本の生物多様性地図化プロジェクト
https://biodiversity-map.thinknature-japan.com/
*2GBNAT: GBNATは、生物多様性、森林減少、人的影響、水リスクに関するグローバルな定量データを提供し、生物多様性への影響を評価するための優先地域の特定を支援します。GBNATの "ready-to-use" なアウトプットは、TNFDのロケーション評価をサポートし、さらにコモディティ生産、採鉱、自然再生拠点の分析にも役立ちます。
https://lp.gbnat.com/jp/
*3 TN LEAD:全産業セクター&グローバルな事業拠点に対応した TNFD対応支援サービス
https://think-nature.jp/service/
*4 TN GAIN:住宅の庭づくり、都市再開発における不動産物件の緑化計画 、企業緑地や社有林の森づくり、ビオトープの計画など、ネイチャーポジティブ関連事業の効果量をビフォー・アフターの比較を基に算定し、生物多様性ネットゲインを可視化するサービス
https://services.think-nature.jp/gain/
*5 日本生態学会自然史研究振興賞:日本生態学会の新賞、生物多様性に関する記載研究を推進している会員を表彰する新たな賞
https://note.com/thinknature/n/n885ba7f11009
*6 ジュゴンズアイ(DugongsAI)β版:生物種毎の生物の豊かさが地図上で可視化された個人向けスマホアプリ
https://services.think-nature.jp/dugongsai/