ブラジキニンによる「基礎血圧の制御」メカニズムを解明

研究概要図:キニノーゲン欠損によるブラジキニン経路の遮断と血圧上昇の概念図。Kng1・Kng2 の両遺伝子を欠損した KNG-DKO マウスでは、ブラジキニン生成が起こらず、血管拡張作用が低下。その結果、基礎血圧が上昇することが明らかになった。

論文を執筆した鷹野教授(左)と大中助手
神戸学院大学薬学部・細胞分子生物学研究室の鷹野正興教授、大中佑介助手、量子科学技術研究開発機構(QST)生物資源管理課の塚本智史課長らの研究グループは、ペプチドの一種であるブラジキニンの前駆体であるキニノーゲン(Kininogen, KNG)が、生体に炎症のない通常の状態において血圧を低く保つ役割を果たしていることをマウスの実験で明らかにしました。世界で初めての発見として注目され、研究成果は、アメリカ心臓協会(AHA)が発行する心血管医学分野の主要国際誌「Hypertension」 に2025年12月17日付で掲載されました。(論文タイトル:Kininogen Deficiency Elevates Blood Pressure in Mice、DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.125.26043)
■ 研究の概要
ブラジキニンは血管拡張作用をもつ生理活性ペプチドで、炎症時に強く働くことが知られています。しかし、「日常的な血圧」への役割は長年不明のままでした。
本研究では、CRISPR/Cas9 技術を用いてマウスにおける二つのキニノーゲン遺伝子(Kng1とKng2)をいずれも完全に欠損させた世界初のキニノーゲン二重欠損(KNG-DKO)マウスを作製し、ブラジキニンが生成されない状態を作り出しました。その結果、以下の重要な発見が得られました。
■ 主な研究成果
- キニノーゲンが完全に消失したマウスを作製
PCR解析および Western blot により、血中から高分子キニノーゲン(H-KNG)と低分子キニノーゲン(L-KNG)が完全に消失していることを確認しました。
- 血中キニノーゲンはほぼ検出不能
酵素消化後の ELISA 測定で、ブラジキニン生成能がゼロであることを確認しました。
- 二重欠損マウスは正常マウスより明確に高血圧
生後8週の雄マウスで血圧測定(テールカフ法)を行ったところ、
・野生型:105 ± 5 mmHg
・Kng1 または Kng2 単独欠損:115 ± 7 mmHg
・KNG-DKO:130 ± 12 mmHg(約25 mmHgの上昇)
という有意な上昇を示しました。
心拍数には大きな変化はなく、血圧のみが上昇することが確認されました。
■ 意義と今後の展望
本研究により、以下のことが初めて明確になりました。
- ブラジキニンは「炎症時」だけでなく「普段から」血圧を下げる方向に働く
- キニノーゲンは基礎血圧の維持に不可欠な分子である
- 高血圧に関わる新たな分子基盤が示された
今後は、
・高血圧の新規治療標的
・遺伝子多型に基づく個別化医療の応用
・ブラジキニン系を活用した新規降圧薬の開発
などへの発展が期待されます。
■ 鷹野教授のコメント
今回の研究により、キニノーゲンという“ブラジキニンの源”そのものが、日常的な血圧を調節する重要な因子であることを示すことができました。
高血圧の理解に新しい視点を提供するとともに、将来的には心血管疾患治療の革新につながる可能性があります。
■ 掲載論文
・Title: Kininogen Deficiency Elevates Blood Pressure in Mice
・Journal: Hypertension
・Published: December 17, 2025
・Authors: Yusuke Ohnaka(大中佑介助手), Ryusho Kariya(刈谷龍昇講師), Satoshi Tsukamoto(塚本智史QST生物資源管理課課長), Michiko Hamada-Kanazawa(濱田美知子講師), Masaoki Takano(鷹野正興教授)
・DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.125.26043
■ 研究体制と支援
- 神戸学院大学薬学部 細胞分子生物学研究室
- 量子科学技術研究開発機構(QST)との共同研究
- 科学研究費補助金(KAKENHI 24K12592)による支援
<本件に関するお問い合わせ>
神戸学院大学 薬学部
細胞分子生物学研究室(担当:鷹野 正興)
〒650-8586 神戸市中央区港島1-1-3
Email:takano@pharm.kobegakuin.ac.jp
<参考URL>
神戸学院大学 薬学研究科
薬学部オリジナルサイト