機械学習を用いてフローサイトメトリー検査データを解析し、複数の候補疾患を確率付きで提示
日立および国立大学法人九州大学病院(以下、九州大学病院)は、血液悪性腫瘍の診断に用いられるフローサイトメトリー(FCM)*1検査において医師の鑑別診断*2を支援する機械学習型のAI技術を開発しました。
血液悪性腫瘍は病型によって治療法が大きく異なるため、候補疾患を適切に絞り込むことが、患者に適した治療選択につながります。一方、FCM検査は細胞の特徴を示すマーカーを測定して診断に役立てる重要な検査ですが、検査データの解釈に高度な専門性と経験が求められ、また、症例数の増加に伴い解析作業の負担が増大しています。今回開発したAI技術は、細胞集団におけるマーカー陽性率*3を特徴量として活用し、実際の診断の進め方に近い形で分類することを特徴としています。白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫など計16クラス*4を対象に、候補疾患を確率付きで複数提示することで、判断材料の整理や新たな気づきを支援します。九州大学病院の臨床データ500例以上で学習・評価した結果、複数疾患の同時分類においてAUC*5で0.9以上の性能を確認しました。
今後、日立は、医療機関や検査会社との共同検証(PoC)を通じて評価規模を拡大し、医療の質と持続可能性の両立に資する診断支援技術としての実装をめざします。
*1 フローサイトメトリー(FCM): 細胞を1つずつ測定し、細胞表面などの目印(マーカー)の有無や強さを調べる検査手法。
*2 鑑別診断: 似た症状を持つ疾患の中から、病名(病型)を絞り込むプロセス。
*3 マーカー陽性率: 特定のマーカーが「陽性」と判定される細胞が、対象の細胞集団の中で占める割合。
*4 16クラス: 本AIが対象とする候補疾患の区分数で、白血病用モデルとリンパ腫・多発性骨髄腫用モデルの合計。
*5 AUC: 識別性能を0~1で表す評価指標の一つで、値が1に近いほど疾患クラスを正しく識別できていることを示す。
■背景および課題
がんは世界的に患者数の増加が見込まれており、国際がん研究機関(IARC)が公表した最新の統計によると、2022年の世界のがん新規患者数は2,000万人に達しています。こうした中、患者に適した治療選択につながる鑑別診断の重要性が高まるとともに、限られた医療人材でも検査結果の解釈を支える仕組みづくりが重要になっています。血液悪性腫瘍は病型*6によって治療法が大きく異なるため、血液検査で異常を把握した後、採取した細胞・組織を用いた検査で鑑別診断を行います。その中で重要な役割を担うフローサイトメトリー(FCM)検査では、細胞にレーザー光を照射して細胞の種類や特徴を示すマーカーを測定し、検査データを解析します。一方で、FCM検査ではゲーティング*7や、その後のマーカー情報の組み合わせなど、検査データの解釈において高度な専門性と経験が求められます。さらに、検査件数の増加に伴い解析作業の負担が増えていることから、効率的に解析を進めながら、候補疾患を適切に絞り込むため、鑑別の判断材料となる情報をより分かりやすく提示する技術が求められていました。
*6 病型: 血液悪性腫瘍は、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の3つに大きく分類される。
*7 ゲーティング: FCM検査データの中から、解析対象とする細胞集団を選び出す作業。
■課題を解決するために開発した技術・ソリューションの特長
そこで日立および九州大学病院は、FCM検査データから血液悪性腫瘍の候補疾患を分類し、複数の候補を確率付きで提示することで鑑別診断を支援する機械学習型のAI技術を開発しました。技術の特長は以下の通りです。
1. 医師の診断の進め方に近い分類を可能とする「マーカー陽性率」を活用したAIモデル
FCM検査で得られるマーカー陽性率(特定の特徴を持つ細胞の割合)を特徴量として用い、ゲーティング後の解釈プロセスに沿う形でAIモデルを構築しました。これにより、医師が普段用いる指標に基づいて結果を確認でき、判断の標準化に向けた支援につながることが期待されます。
2. 確率付きの複数候補提示による鑑別支援
単一の疾患名を提示するのではなく、複数の候補疾患(現時点で16クラス)を確率付きで提示することで、医師が鑑別を行う際の判断材料を提供します。これにより、候補疾患を絞り込む際に、医師が事前に持つ仮説との整合を確認したり、仮説にない候補に気づいたりするなど、診断思考に沿った支援につながることが期待されます。

図1 FCM検査データを用いた鑑別診断支援AIの活用イメージ (注)本図の一部イラストは、生成AIを用いて作成しています。
■確認した効果
白血病およびリンパ腫・多発性骨髄腫に対応する2種類のモデルを構築し、九州大学病院の臨床データ500例以上を用いて、学習・評価を実施しました。その結果、複数疾患の同時分類において、評価指標の一つであるAUCで0.9以上の性能を確認しました。
■今後の展望
今後、日立は医療機関や検査会社との共同検証(PoC)を通じて評価規模を拡大し、診療フローで円滑に活用できるよう改良を進めます。また、本技術をLumada 3.0を支える技術の一つとして位置付け、医療分野のドメインナレッジとAIの融合により、医療の質と持続可能性の両立に資する診断支援技術としての実装をめざします。
なお、本成果の一部は、6月11日~14日にスウェーデンで開催されるEuropean Hematology Association (EHA) 2026 Congressにおいて、抄録として掲載されました。
■関連情報
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株式会社日立製作所 研究開発グループ
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