株式会社アデランス(本社:東京都新宿区、代表取締役会長兼社長 根本 信男)は、2015年12月5日(土)~6日(日)、総合あんしんセンター(高知県高知市)において開催された第20回日本臨床毛髪学会 学術集会で、「アデランスサイエンスシンポジウム」を共催しました。
日本臨床毛髪学会は国内外の毛髪・皮膚分野の医師や研究者が一堂に会して研究成果を発表する、日本において最高峰の毛髪関連医学会です。第20回を迎える今年は、「見えてきた毛髪医療の明るい未来」をテーマに高知県高知市で開催されました。当社は5年連続で本学会に共催しています。
12月5日(土)に開催した「アデランスサイエンスシンポジウム」では、当社と共同研究を進める東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野 助教の玉井 奈緒先生が抗がん剤治療とWigのかかわりに関する講演をされました。また、当社が寄附講座を開設している大阪大学大学院医学系研究科皮膚・毛髪再生医学 准教授の乾 重樹先生が、旧来より知られていた成分に対する新たなエビデンスとスカルプケアへの可能性について講演されました。座長は、世界的な毛髪皮膚医学の権威であり、当社のメディカルアドバイザーでもある、別府ガーデンヒルクリニック くらた医院 院長の倉田 荘太郎先生が務められました。
また、東京大学のグループからは、一般演題として共同研究テーマである「スカルプケアサイエンス」に関わる講演が、2演題にわたって実施されました。
アデランスはトータルヘアソリューションにおけるリーディング企業の使命として、経営理念の一つである「最高の商品」の開発および毛髪関連業界の発展を目指し、機能性人工毛髪や医療向ウィッグの研究開発、育毛・ヘアスカルプケア関連研究、抗がん剤脱毛抑制研究など、産学連携にて毛髪関連の研究を積極的に取り組んでおります。
その産学共同研究の成果を国内外の学会を通じて発信し、また、世界の研究者に研究成果を発表いただくことは、毛髪界の更なる進展となり、ひいては多くの方の髪の悩みの解消に寄与し、当社のCSR(企業の社会的責任)であると考えております。
■アデランスサイエンスシンポジウム 講演概要
座長
別府ガーデンヒルクリニック くらた医院
院長 倉田 荘太郎先生
演題1:抗がん剤治療を受ける患者のwellbeingを目指したスカルプケアサイエンスの試み
東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野
助教 玉井 奈緒先生
我々の教室では脱毛と毛髪再生のメカニズムを解明して治療することで、脱毛による患者の負担を軽減し、より健やかな日々を支えることを目標に、毛髪の健康を考える「スカルプケアサイエンス」に取り組んできた。その取り組みの中でも核となっているのが、抗がん剤治療に伴う脱毛に関する研究である。我々は女性のがんの中でももっとも罹患者数が多く、脱毛が生じる可能性の高い抗がん剤を標準治療として使用している乳癌に焦点を当て、治療中の頭皮の症状や生理機能、QOLの変化に関する調査を行っている。特に頭皮生理機能の変化を明らかにすることで、治療中から治療後の具体的なスカルプケアを確立し、脱毛中の症状の緩和と健やかな再発毛の促進を目指している。
近年抗がん剤による副作用予防のための治療は進歩してきており、吐き気などの消化器症状や白血球減少については症状コントロールが可能となってきている。しかし乳癌患者にとってもっとも苦痛が大きい副作用である「脱毛」に関しては、エビデンスのある予防方法は確立されていない。そのため使用する薬によっては80~90%の確率で脱毛が生じる。女性において髪の毛は、ボディイメージや女性らしさを形成し、社会で生活する上で非常に重要なものであるため、脱毛により患者のセルフエスティームは著しく低下する。
さらに脱毛開始時には多くの患者が頭皮のピリピリ・チクチクとした痛みや痒みなどの不快感を強く訴えるとともに、脱毛後にも頭皮の痒みや乾燥などの症状が継続する場合もある。このように抗がん剤によって頭皮は何らかの影響を受けて変化し、外界からの刺激にも弱くなっている可能性がある。しかしそのような状態でも、患者は仕事や日常生活を営む上でウィッグなどのケア用品を着用しなければならない。患者が治療に専念でき、安心してケア用品が着用でき、早期の再発毛に向けて健やかな日常生活を営めるように、まずは治療中の脱毛頭皮がどのように変化しているのか、その実態を把握する必要がある。実態を明らかにすることで、頭皮症状の予防や治療方法、頭皮に優しいケア用品の具体的な検討が可能となる。中でもウィッグは見た目の変化を最小限にし、患者のセルフエスティームを保持するため、脱毛中の患者にとっては欠くことのできないケアアイテムである。そのため安心・安全な医療用ウィッグの検討は重要である。
今回はこれらの実態調査の結果と今年4月に経済産業省により制定された「医療用ウィッグに関する日本工業規格(JIS規格)」を踏まえて、患者のwellbeingを目指したスカルプケア、医療用ウィッグに求められる条件とは何かについてお話しする。
演題2:毛髪ケアのルネッサンス:ADSセファランチンRのエビデンス
大阪大学大学院医学系研究科 皮膚・毛髪再生医学寄付講座
准教授 乾 重樹先生
セファランチンはツヅラフジ科植物タマサキツヅラフジから抽出したアルカロイドである。タマサキツヅラフジは中国や台湾で自生し、民間薬として使われていた。1914年に早田文蔵がStephania cepharantha Hayataという学名で報告し、さらに1934年に近藤平三郎がその有効成分を精製し、学名にちなんでセファランチンと命名した。当初、結核やハンセン氏病治療薬として使われたが、その後生体膜安定化作用、抗アレルギー作用、免疫調整作用などが明らかとなり、臨床実地においては放射線による白血球減少症、円形脱毛症、粃糠性脱毛症、滲出性中耳炎、マムシ咬傷を適応症とする内服薬として使用されてきた。脱毛症について「円形脱毛症診療ガイドライン2010」で内服薬がC1(行うことを考慮してよい)と推奨されているが、セファランチンの外用については「男性型脱毛症診療ガイドライン(2010年版)」においてまだエビデンスがないということから、C2(根拠がないので勧められない)と評価された。発売されていたセファランチン外用ローション薬用クロウR(化研生薬)は製造中止となり、セファランチン外用療法はされなくなった。しかしながら、臨床諸家よりその有効性がしばしば観察されるとの声もある。我々はセファランチンのリポ化製剤であるADSセファランチンを用いて、その毛成長への効果について基礎的および臨床的検討を加えた。まず培養男性型脱毛症毛乳頭細胞に0.1および1.0μg/mLのセファランチンを添加したところ、IGF-1 mRNA発現量が増加した。セファランチン10mgを内服した場合、成人では血中濃度は1ng/mLと上記添加濃度と比べ著しく低値である。したがって、より高い局所濃度が期待できる外用がIGF-1誘導による毛成長促進効果が期待できる。そこで行った男性型脱毛症の成人男性22名のADSセファランチンローション6ヶ月外用臨床試験では、毛髪数および毛直径を増加させる傾向(p<0.1)があり、毛成長速度を有意に増加させた(p<0.01)。以上より、ADSセファランチンが男性型脱毛症に対する新しい毛髪ケア成分となることが示唆された。
セファランチンという歴史の古い薬の新しいエビデンスが、一度衰退した毛髪ケアの復古(ルネッサンス)を導くものと期待される。
■一般演題 講演概要
「アシルホモセリンラクトン(AHL)とミノキシジルの投与によるマウス背部毛包のNOTCH1経路およびβ-catenin/LEF1経路の活性化」
東京大学大学院医学系研究科 老年看護学/創傷看護学分野
特任講師 峰松 健夫先生
「アシル基長の異なるアシルホモセリンラクトンのob/obマウスに対する発毛効果の比較検討」
東京大学大学院医学系研究科 老年看護学/創傷看護学分野
特任助教 池田 真一先生
シンポジウム概要
学会名称 :第20回日本臨床毛髪学会学術集会
会 期 :2015年12月5日(土)~12月6日(日)
会 場 :総合あんしんセンター(高知市)
※「アデランスサイエンスシンポジウム」は、12月5日(土)に開催しました。