
国立大学法人東北大学
株式会社メニコン
国立大学法人東北大学(宮城県仙台市 総長 冨永悌二、以下「東北大学」)と株式会社メニコン(愛知県名古屋市 代表執行役社長CEO 川浦康嗣、以下「メニコン」)は、2026年6月、計測計算融合を基盤とするマルチスケールモデリングによるコンタクトレンズ素材の設計システム「SilicoSim(シリコシム)」を開発したことをご案内いたします。
東北大学とメニコンは、高い酸素透過性と親水性を両立できる高分子材料で、ソフトコンタクトレンズ材料として広く用いられるシリコーンハイドロゲルを対象に、材料内部の三次元ナノ構造と物質輸送機能の関係を解明しました。研究グループは透過型電子顕微鏡観察(TEM)や放射光実験によりシリコーンハイドロゲルのナノスケール構造とその構造が実現する機能を可視化し、マルチスケールシミュレーションにより、計測結果を高度に再現しました。また、酸素やイオンの輸送経路の特性が原料分子構造によって変化し、材料機能に影響することを理論的に明らかにしました。
本成果は2026年5月26日、高分子分野の専門誌Soft Matterに掲載されました。また、研究グループは本研究成果から生まれたコンタクトレンズ材料に関する構造機能シミュレーションシステムを「SilicoSim(シリコシム)」と命名しました。東北大学とメニコンはこのシステムを活用して、コンタクトレンズ材料の機能理解と新規材料開発への展開を進めます。
研究の背景
2024年4月にメニコンは、理想のコンタクトレンズの設計と、環境配慮型コンタクトレンズ流通の構築実現を目指すために、東北大学グリーン未来創造機構 (機構長 湯上浩雄)に「メニコン×東北大学 みる未来のための共創研究所」(注1)を開設しました。本共創研究所で、運営総括責任者の伊藤恵利特任教授が進めてきた、東北大学内に稼働する3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(注2)を中心とする量子ビーム施設・電子顕微鏡を横断的に活用した構造解析、運営支援責任者の東北大学岡部朋永教授を中心に研究が行われるデジタルトランスフォーメーションを活用した計算科学の融合により、コンタクトレンズ及びその資材に関するデジタルツインの構築を進めてきました。
ソフトコンタクトレンズ材料には、装用時の快適性に関わる親水性や含水性に加え、角膜へ十分な酸素を供給するための高い酸素透過性が求められます。現在のソフトコンタクトレンズ材料のトレンドであるシリコーンハイドロゲルは、酸素を通しやすい疎水性シリコーン成分と、水やイオンとの親和性を担う親水性成分を組み合わせた材料であり、これらの性能を両立する材料として広く用いられています。一方で、材料内部では両成分がナノメートルスケールで相分離し、複雑な三次元構造を形成するため、その内部構造が酸素やイオンの輸送機能にどのように関与するのかを明らかにすることが重要な課題となっていました。そこで本共創研究所ではシリコーンハイドロゲル素材に関し、計測及び計算の両面からその構造機能相関の解明に取り組んできました。
今回の取り組み
本研究では、コンタクトレンズ材料におけるナノスケールの物質内部構造およびその構造により発現する機能の計測結果を精緻に再現したシミュレーションが可能となりました。
コンタクトレンズ材料として用いられるシリコーンハイドロゲルを対象に、透過型電子顕微鏡観察及び三次元再構成により、親水性領域と疎水性シリコーン領域がナノメートルスケールで連続的に入り組んだ相分離構造(注3)を形成していることを確認しました。また、酸素透過性とナトリウムイオン透過性の評価により、酸素は主にシリコーンに富む領域をイオンは主に親水性領域を経由して輸送されることを示しました。さらに、全原子分子動力学計算(注4)と粗視化シミュレーションを組み合わせたマルチスケールシミュレーションを用い、重合に伴う相分離構造の形成を再現し、物質の通りやすさは各相の分率だけでなく、輸送経路の連続性や分子構造に応じた曲がりくねりの度合いにも大きく左右されることを明らかにしました。
さらに東北大学内の共創研究所においては、NanoTerasuを中心とする更なるコンタクトレンズ素材の使用環境である水中における構造解明、特にレンズ表面に関する水との相互作用を中心とする計算科学の研究をグリーンクロステック研究センター(注5)(センター長 岡部朋永教授)と連携しながら進めています。
メニコンでは、本研究成果から生まれたコンタクトレンズ材料に関する構造機能シミュレーションシステムを「SilicoSim(シリコシム)」と命名し、製品開発に活用するとともに、従来の製品性能の検証にも活用して参ります。また、本共創研究所とNanoTerasuをハブとする産学連携による研究活動を推進し、理想のコンタクトレンズの設計を実現することで、東北大学とともに、メニコンが目指す「新しい“みる”」を創出します。

図1. シリコーンハイドロゲルの3次元共連続構造

図2. 構造機能シミュレーションシステム「SilicoSim(シリコシム)」
今後の展開
SilicoSimの精度向上、適用範囲の拡大を行い、迅速かつ優れた製品設計の活用を目指します。
【用語説明】
(注1)共創研究所
東北大学の運用するシステムであり、大学内に企業との連携拠点を設けるとともに、大学の教員・知見・設備等に対する部局横断的なアクセスを可能とすることで、共同研究の企画・推進、人材育成、および大学発ベンチャーとの連携をはじめとする多様な連携活動を促進する制度。
■東北大学との連携に関する情報
■メニコン×東北大学 みる未来のための共創研究所
(注2)3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu
東北大学青葉山新キャンパスに整備された放射光施設。加速器が作り出す極めて明るい放射光を物質に当て、ナノメートルスケールの超微細な世界を可視化する。軽元素から構成されるポリマーなどのナノ構造の可視化が期待される。
(注3)相分離構造
複数の成分からなる材料中で、成分同士がナノメートルサイズの領域に分かれて存在する構造。各領域のつながり方が、透過性などの機能に影響する。
(注4)全原子分子動力学計算
原子や分子の動きを物理法則に基づいて計算し、分子間の相互作用や材料中での分子の振る舞いを調べるシミュレーション手法。
(注5)グリーンクロステック研究センター
科学・工学とデータサイエンス・ITをはじめとする先進テクノロジーの融合による実学研究により、グリーン分野に関連する社会課題・ビジネス課題の解決をゴールとした産学共創イノベーション拠点。
【論文情報】
タイトル:3D morphology and phase-selective transport in amphiphilic silicone hydrogels: experiments and multiscale simulations
著者:Eri Ito, Yoshiaki Kawagoe, and Tomonaga Okabe
*責任著者:株式会社メニコン×東北大学 みる未来のための共創研究所
特任教授 伊藤恵利
東北大学グリーン未来創造機構
グリーンクロステック研究センター 准教授 川越吉晃
掲載誌:Soft Matter
DOI:10.1039/D6SM00092D
URL:https://doi.org/10.1039/D6SM00092D
【研究に関するお問い合わせ先】
株式会社メニコン×東北大学
みる未来のための共創研究所
特任教授 伊藤恵利
TEL: 022-795-4908
Email: eri.ito.e5@tohoku.ac.jp
東北大学グリーン未来創造機構
グリーンクロステック研究センター
准教授 川越吉晃
TEL: 022-795-5642
Email: yoshiaki.kawagoe.a4@tohoku.ac.jp