千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程の高本龍真氏と同大大学院理学研究院 高橋佑磨教授は、夜間の人工光(街灯や建物の明かりなど)が昆虫の「精子」に影響を与えることを明らかにしました。
近年、都市化が進んだことで世界中のいたるところで人工光が増えています。都市やその周辺に生息する生き物も人工光による「明るい夜」にさらされており、この夜間の人工光が昆虫の減少の一因となると指摘されています。本研究では、夜間の微弱な光によりショウジョウバエのオスが生産する精子が小さくなることと、都市に生息する個体はこうした影響を受けにくいことを発見しました。これらの結果は、都市の夜間光環境が生殖機能に影響を及ぼし得ることに加え、都市集団においてその影響を緩和する方向の進化が生じている可能性を示唆しており、都市化が生物に及ぼす影響の新たな側面を明らかにした重要な成果です。
本研究成果は、2026年4月22日、昆虫学の国際誌 Entomological Science に掲載されました。
(論文はこちら:10.1111/ens.70018)

図:オウトウショウジョウバエをさまざまな夜間光環境で飼育し、精子の頭部のサイズを夜間光がない条件と比較。
■研究の背景
近年世界的に都市化が進み、夜間でも明るい環境が拡がり続けています。このような夜間人工光(ALAN: Artificial Light At Night)は生物が進化の過程で経験してこなかった環境であり、多くの生物の行動や生存に影響を与えていると考えられています。この影響は、近年の昆虫の減少の一因とも指摘されています(参考文献1)。これまでの研究では、夜の人工光が昆虫の行動リズムを乱したり、発生のタイミングを変えたりすることで、個体の成長や行動に影響を与えることが知られてきました(参考文献2)。一方で、生殖機能、なかでも雄による精子の生産への影響はほとんど解明されていませんでした。精子は、遺伝情報を次世代に伝える重要な細胞であり、その形や大きさは受精の成功率や繁殖の効率に深く関わるため、精子の変化は個体群の維持にも影響しうる重要な問題です。このような背景から、夜の光が精子に与える影響の解明が求められていました。
■研究成果のポイント
1. 卵から成虫になるまで夜間光を照射:オウトウショウジョウバエを用い夜間に弱いLED光(白か青、緑、赤)を照射する条件で飼育を行い、得られた雄の成虫について精子の頭部サイズ(注1)を比較した。
2. 夜間の人工光で精子が小さくなる:夜間の人工光は精子の頭部サイズに影響し、とくに青色光で顕著に小型化が起きることを明らかにしした(図)。さらにハエには見えない赤色光でも影響が確認され、光の効果が視覚以外の経路を通じて生じる可能性も示された。
3. 都市の個体(注2)では影響が小さい:都市の個体では夜間の人工光による精子サイズの変化が小さいことが確認された(図)。この結果は都市の個体が人工光への耐性を獲得していることを示唆している。
■今後の展望(研究者コメント)
光の強さだけでなく波長の違いに注目することで、生物に配慮した照明設計や都市環境の改善にもつながる可能性がある本研究は、環境問題と進化の問題をつなぐ新しい視点を提供するものです。今後は、精子の大きさの変化が実際に受精成功や繁殖効率にどの程度影響するのかを明らかにすることで、都市環境が生物に与える影響を深く理解できるようになると期待されます。
■用語解説
注1)精子の頭部サイズ:精子の先端部分の大きさ。遺伝情報を含む重要な構造で、受精の成功にも関わると考えられている重要な形質。
注2)都市の個体(郊外の個体):本研究では、都市(あるいは郊外)環境で捕獲した個体(雌)を創始者として作られた系統を都市(あるいは郊外)系統とし、実験室内の一定環境で維持し続けている。それらの系統の個体を都市の個体(あるいは郊外の個体)としている。都市の系統と郊外の系統の間に見られる差は遺伝的な違いに由来するものであり(一定環境で飼育しているため、生育環境に由来する差は存在しないと考えられるため)、都市環境における進化の証拠となる。
■論文情報
タイトル:The effects of spectrally distinct nighttime dim light on sperm production in Drosophila
著者:Ryushin Takamoto and Yuma Takahashi
雑誌名:Entomological Science
DOI:10.1111/ens.70018
■参考文献1)
2025年8月27日公開プレスリリース「光害は昆虫の体内時計を撹乱し、寿命を短くする~都市の個体は夜間光に対抗する術を進化させる~」
■参考文献2)
2022年12月13日公開プレスリリース「夜間の人工光は昆虫の活動を一変させる 都市のハエは都市環境に適応して進化していた!」
■研究プロジェクトについて
本研究は環境研究総合推進費(4RF-2103)、アサヒグループ財団、国際科学技術財団、大林財団、住友財団の助成を受けて実施されました。