新型コロナウイルスの感染拡大により、まだまだ予断を許さない社会情勢のなか、休みの日には自宅で読書を楽しんでいるという人もいるのでは?
浅田次郎氏のエッセイ集第4弾
このたび『鉄道員』などの著書があるベストセラー作家の浅田次郎氏が、小説には書けない波乱の日常をつづったエッセイ集『竜宮城と七夕さま』が発刊。「つばさよつばさ」「アイム・ファイン!」「パリわずらい 江戸わずらい」に続く、エッセイシリーズ第4弾となる。
内容を一部紹介
同書の一部を紹介する。
“このごろ、妙なことに気付いた。十代二十代の若者の半数ぐらいが、入浴に際してタオルを持たぬのである。”
これは、銭湯と浴室での作法を考える「唸る男」の一節だ。
“ある程度のサイズに成長した鯉には、天敵がいないのであろう。ましてや皇居の御濠で釣り人を見かけたためしはなく、水質が汚染されるはずもない。つまり、このうえ望むべくもない環境に恵まれている御濠の鯉は、当たり前に百年の上を生きるのではないかと考えた。”
これは、締切が迫っている中、長命の研究にいそしむ「寿命の考察」の一節。
“浦島太郎は竜宮城で何を食ったのか。この問題は加齢とともに食が細くなるどころか、ほとんど際限なく食い意地の張ってきた私の、ゆるがせにできぬ疑問となっている。顧みて思うに、この浦島太郎の話は私の人生の折々に異なった謎を提供し続けてきた。»
これは、浦島太郎が食べたご馳走と、滅多に会えない織姫と彦星の恋の行方に想いを馳せる表題作「竜宮城と七夕さま」の一節。
軽快な文章と深遠な思想が脳内を気持ちよく刺激してくれそうだ。
日常の気づきや笑いに気づかせてくれる
腹を抱えるような“笑い”から思わぬ“気づき”、目の前がぱっと開ける“昂ぶり”まで、さまざまな感情をくすぐる、全40篇のエッセイ。コロナの禍中に書かれた著者の「あとがき」も興味深い。
文庫本『竜宮城と七夕さま』240頁/580円(税抜)は、6月5日(金)より発売中。
日常を楽しむことを改めて思い出させてくれる一冊を、ぜひ手に取ってみては。