1913年に創業し、美術館の図録なども手がけるナレッジ・クライマー(能登印刷)は、全国のミュージアムが収蔵するコレクションを中心に、アートや文化財を鑑賞できるオンラインミュージアムプラットフォーム「MU(ミュー)」のサービスを、9月1日(木)より開始した。
美術館が持つ社会的な課題
コロナ禍で美術館が休館を余儀なくされ、三密を避け、観客がミュージアムに足を運ばなくなっている。それ以前からも、遠方にある美術館に足を運ぶ人は少なく、この十数年でほとんど増えていないという現状がある。
日本では海外から費用を払ってコレクションを借りて「企画展」で集客するのが主流で、スペースの問題で所蔵作品を常設展示できず、企画展は権利の問題から2次利用できず、集客するにもエリアの限界があり、美術館が資金を集めにくいという現状もある。
また、文化芸術施設の図録や展示会のパンフレットは、企画/監修に携わるキュレーターや学芸員の思い、展示する作品を創作した作家の感動が詰まった象徴的な印刷物の一つだが、同社は図録の印刷や出版を通じ、地域の美術館のコレクション展はその地域の歴史や風土、風俗などが反映され、とても興味深く知的好奇心を十分に満足させてくれるにも関わらず、注目が集まりにくいと感じているという。
そこで、これらの課題を解決するために考えたのが、日本各地のミュージアムに眠る感動や学びを送り届ける、オンラインのミュージアムプラットフォーム「MU」。SDGsのサスティナブルな考え方に根差し、あらゆる環境や条件に左右されることなく、すべての人たちが気軽にアートや文化財と出会い、アクセスできる環境をつくる。そして、アートや文化財に触れたことがきっかけで、新しい将来の可能性に気づいたり、生活にちょっとした喜びが増えたり、そんなプラスの影響を世の中にたくさん生み出すことも目指している。
多彩なコンテンツで魅力を発信
「MU」では、各ミュージアムの所蔵作品の公開のほか、特定のテーマで作品群を集めて紹介する「EXHIBITION(展覧会)」や、学芸員の知識をMU学芸員がわかりやすく解説する「動画」、それぞれのミュージアムの個性を活かした「合同企画展」など、趣向を凝らした多彩なコンテンツでミュージアムに眠っている魅力をオンラインにて発信する。
すべての人の“文化的な体験を通じたQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上”をテーマに、美術・アートに興味のある人はもちろん、普段はミュージアムに足を運ばない人たちとも、楽しみ、学び、感動できるコンテンツを共有し、それらを全国のミュージアムと共創する場として運営していく。
利用者は、普段接点のなかった博物館や美術館に、いつでもどこからでもアクセスでき、作品の鑑賞や学びの機会を得られる。観たことのないミュージアムのコレクション、熱量のあるキュレーターが解説する動画などで、様々なミュージアムのコレクションと接し、地域の風土や歴史に対する理解を深めることもできる。
「MU」のリリース時点では、「大阪市立美術館」「逸翁美術館」「白鹿記念酒造博物館」「金沢21世紀美術館」の4館が参加しているので、チェックしてみては。
(山本えり)