大阪府で墓石業を営む石留石材は、地域コミュニティが運営する共同墓地向けに、墓地全体の管理・運営を支援する「墓地管理サポート事業」を開始した。
「墓地全体の管理」の担い手不足
共同墓地とは公営でも民営でもない、地域のボランティアが管理・運営する墓地の形態。共同墓地では、墓地使用者の中で役員を選出し、その人々がボランティアで墓地全体の管理や手入れを行っている。しかし、墓地使用者自体が高齢化や跡継ぎ不足に直面しており、管理の担い手となる人材そのものが少なくなってきた。
それに加えて煩雑な事務処理や、墓じまいで使われなくなった空地(空き墓地)の草むしりなど体力的な負担も増えており、これらが役員のなり手不足に一層の拍車をかけている。このままでは墓地全体の管理が行き届かず、古くから地域の供養を担ってきた共同墓地が荒れ放題となることが危惧されている。
無縁墓以上の社会問題となりうる「墓地全体の管理」の担い手不足。使われなくなった墓地が増えることで、地域ボランティアの人だけでは立ち行かない状況になっている。
その背景として、地方公共団体が経営する墓地が全国の墓地総数のわずか3.4%にとどまる一方で、共同墓地や個人墓地などの「みなし墓地(※1)」は全国の墓地総数の89.81%を占めていることが挙げられる。つまり全国にある約9割近くの墓地において、墓地全体の管理者不足、さらには管理者不在による墓地の荒廃問題が潜在化しているのだ。
無縁墓の整理や、新たな墓地使用者の募集も
共同墓地では地域のごとに独自の方針があるため、ひとつの型にはめるだけでは墓地の管理は成り立たない。そこで同社では、創業から110年にわたり南河内地区の共同墓地で墓づくりに関わり続けてきた強みを生かし、共同墓地を対象とした「墓地管理サポート事業」を開始した。管理組合の立ち上げから日々の業務まで、ワンストップで任せることができるようになっている。
サポート内容には無縁墓の整理はもちろん、整理されて空いた墓地に新たな墓地使用者を募集することも含まれる。これにより使用者の循環が生まれて墓地全体が活性化するとともに、同社の生業である新たな墓石建立をはじめとした石工事の需要も期待される。
また、この事業は管理業務の丸投げを受けるものではなく、地域の人が自分たちで維持管理していくことを「サポート」することに重点を置いている。地域共生を目指したこの取り組みは、すでに5カ所の共同墓地が同社にサポートを依頼している。
専門スタッフが1件ずつ丁寧にサポート
共同墓地の数は同社が所在する藤井寺市だけで10カ所、南河内地区まで広げると100カ所超にのぼる。同社のリソースに限りがあるため一気にすべての墓地をサポートすることは難しいが、加盟する全日本墓園協会と連携し「墓地管理士(※2)」の認定を受けた専門スタッフが1件ずつ丁寧にサポートをおこなっていく。
またその先のステップとして、跡継ぎに不安を抱える人が増えている昨今の事情をふまえた「跡継ぎ不要のお墓づくり」の仕組みを開発し、地域の人が安心して墓に手を合わせることができる環境に取り組むとしている。
近年では「お墓の市民講座」を無料開催
石留石材の代表取締役・田中祥元氏は「昨今では家族構造の変化によりお墓じまいが増加しており、従来の墓石の需要は減少しております。地域の墓地を守るこの活動が『お墓まいり文化』を守り、墓地全体の活性化、ひいては墓石の需要へとつながることを期待しております。“家ごとのお墓づくりのアドバイザー”から“地域と共にお墓まいりを守るパートナー”へ、地域への恩返しの一環として真剣に取り組んでまいります」とコメントしている。
同社は、藤井寺市、羽曳野市、松原市をはじめとする南河内地区の共同墓地を中心に10,000基以上の墓づくりの手伝いをおこなっている「お墓の専門店」だ。近年では、藤井寺市をはじめとした自治体からの後援をうけ「お墓の市民講座」を無料開催している。墓以外にも、国会議事堂や古墳といった文化財の修繕や誉田八幡宮・四天王寺など各寺社仏閣の補修石工事などに積極的に取り組んでいる。
※1 現行の墓地法「墓地、埋葬等に関する法律」(昭和23年5月31日)以前より存在する、現行法施行後に追認された墓地
※2 適切な墓園事業の運営管理を実現するため、墓地経営者が信託するに値する専門職員としての墓地管理者、及びその業務を補佐するに値すると認められた者に与えられる資格
(江崎貴子)