江戸時代の町の庄屋であった建物を改装した、石川県白山市鶴来の「横町うらら館」にて、9月21日(土)~12月8日(日)の期間、「地域とアート」の可能性を日本のアートフェスの源流「鶴来現代美術祭」から紐解く「鶴来現代美術祭アーカイブ展」を開催中だ。
まちなかを舞台にした大規模な展覧会
「鶴来現代美術祭」は、1991~1999年まで開催された、まちなかを舞台にした大規模な展覧会。地元の鶴来商工会青年会の主催、ワタリウム美術館の和多利志津子氏の企画、そして国際的に活躍するキュレーターのヤン・フート氏によるキュレーションで行われた。
「鶴来現代美術祭アーカイブ」は、当時の様子を身近に見てきた鶴来出身のアーティスト・坂野充学氏が、2008年に開始した活動で、「鶴来現代美術祭」の記憶を収集・保存・共有するために、関連資料の収集、調査研究を行っているもの。
2015年に坂野充学氏、鷲田めるろ氏、小松崎拓男氏が中心となり、地域関係者や参加作家へのインタビュー映像記録やさらなる資料収集、2016年に「鶴来現代美術祭アーカイブ展」として金沢21世紀美術館(アートライブラリー)、東京・清澄白河のMITSUME、2017年に名古屋のみなとまちアートテーブルにて展示を行った。
石川県白山市鶴来地区にて初公開
今回開催される「鶴来現代美術祭アーカイブ展」は、地元鶴来にて、坂野充学氏の展示監修のもと、「鶴来現代美術祭」のアーカイブを開催地であった石川県白山市鶴来地区にて初公開する展示だ。
「鶴来現代美術祭アーカイブ展」では、当時の展示リストなどを公開。若かりし頃の、村上隆氏の名前も記されており、
「鶴来現代美術祭」のチラシのアーカイブも、1991年から年代順に展示されている。
さらに、美術祭における方法論はもとより、アートマネジメントやコーデイネート、展示設営にまつわる専門家が不在だった当時、「鶴来現代美術祭」の運営は商工会青年部のメンバーたちが中心となっていたため、保存されたアーカイブの中には、美術祭に関わる細かなやりとりまで多くが残っているという。
貴重なインタビューシリーズ
「鶴来現代美術祭アーカイブ」で、当時の記録と同様に貴重な資料となっているのが、2015年にアーティスト・坂野充学氏が撮影・編集、キュレーターの鷲田めるろ氏がインタービュアーとして行われた、インタビューシリーズ。1991~1999年まで制作に携わった関係者や参加作家の、今まで語られて来なかった「鶴来現代美術祭」にまつわる様々なエピソードが語られる姿が収められている。
「鶴来現代美術祭アーカイブ展」では、アーカイブ映像が収められたDVDを、自由に選んで鑑賞することができる。
公式な作品の現存は、1点もなし
また「鶴来現代美術祭」は、鶴来商工会青年部が純粋に、まちの魅力を発信するために活動継続してきた企画でもあるため、永久設置を想定したパブリックアートや、制作物の収蔵は行っておらず、公式な作品は1点も現存していない。
「鶴来現代美術祭アーカイブ展」で展示されている作品は、アーティストたちが制作を担った商工会青年部に感謝の意として残していったドローイングや作品の模型であり、「鶴来現代美術祭」を通して、個人的なアーティストとつながりを持ち、制作依頼した、非公開・非公式作品の数々だ。
こうして地元民と国内外からのアーティストが、個々としてアートを通して交流が生まれたことも、「鶴来現代美術祭」が残した大きな意義かもしれない。
そのほか、展示会場では、「鶴来現代美術祭」や日本の芸術祭の原型となったともいえる展覧会「シャンブル ・ダミ」展の図録や、「鶴来現代美術祭アーカイブ」のメンバー・キュレーターの鷲田めるろ氏による論文『鶴来現代美術祭における地域と伝統』なども閲覧することができる。
鶴来周遊MAP『観光鶴来』を無料配布
「鶴来現代美術祭アーカイブ展」は、金沢21世紀美術館主催の発酵文化芸術祭の展示プログラムの一環として開催。金沢市内を中心としつつも、発酵文化と美しい街並みが残る白山市鶴来地区が会場となっており、同期間に、他にも4名の作家によるまちなか展示や、イベントが期間中に実施される。
発酵文化芸術祭・鶴来地区の企画・ディレクションを務める上田陽子(金沢アートグミ)氏が制作した、鶴来周遊MAP『観光鶴来』が、鶴来地区の各会場で無料配布されているので、併せてチェックしてみよう。
■鶴来現代美術祭アーカイブ展開催概要
開催期間:9月21日(土)〜12月8日(日)
会場:横町うらら館
住所:石川県白山市鶴来新町タ1-1
開館時間:10:00~16:00(不定休)
(佐藤ゆり)