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国立大学法人徳島大学

【徳島大学】筋萎縮性側索硬化症(ALS)の早期診断を可能にする新たな針筋電図検査ターゲット「顎二腹筋前腹」の有用性を立証

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令和8年9月25日
国立大学法人徳島大学

■ポイント

1. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の早期診断を可能に
 従来の検査では初診時に診断基準を満たさなかったALS患者さんに対し、顎二腹筋前腹(ABDM)(注1)の針筋電図検査(注2)を組み合わせることで、早期診断につながることを証明した。

2.ALS診断の重要指標「線維束性収縮電位(FP)」を高頻度に検出
 運動神経の早期の障害を示す重要な所見である線維束性収縮電位(FP)(注3)の検出率が、従来の標準的な対象筋である舌筋では0%であったのに対し、ABDMでは52%に達した。

3. 検査に伴う患者さんの負担を低減
 従来の方法と比べ、ABDMは検査時の痛みが小さく、さらに正確な評価のための安静状態を維持しやすいことが示された。

■概要

 徳島大学病院脳神経内科の福本竜也特任助教、和泉唯信教授らは、難病である「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の脳幹領域(のどや口の症状に関与)における診断能を改善し得る新しい針筋電図検査手法を開発しました。下顎の表層を走行する「顎二腹筋前腹(ABDM)」を検査対象とすることで、患者さんの痛みを大幅に和らげ、安定した評価と、高い感度での異常所見の検出に成功しました。本臨床研究成果は、診断が難しく確定診断が遅れがちなALSにおいて、早期の確定診断と迅速な治療介入に貢献する重要な発見です。本成果は、2026年7月21日に神経・筋疾患の国際的な専門誌『Muscle & Nerve』のオンライン版に掲載されました。

■研究の背景

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の運動神経が進行性に障害されることで、筋力低下、構音障害(しゃべりにくさ)、嚥下障害(飲み込みにくさ)、呼吸障害をきたす、いまだ根本的な治療法が確立されていない難治性疾患です。ALSの確実な診断には、脳幹、頸髄、胸髄、腰仙髄の複数の領域において、筋肉の電気的な異常(運動神経の脱神経変化)を「針筋電図検査」によって証明することが、Awaji基準(2008年)やGold Coast基準(2020年)などのALSの国際的な診断基準で求められています。しかし、脳幹領域(のど・口まわり)における針筋電図検査は、技術的に困難であることが知られていました。
 従来、脳幹領域の評価には「オトガイ舌筋(注4)(以下、舌筋)」が標準的に穿刺対象とされてきましたが、検査に伴う強い痛みや、患者さん自身が口や舌の力を意識的に完全に抜くことが困難であり、診断の重要な手がかりである「線維束性収縮電位(FP)」などの異常な電気活動を、ノイズなしで高感度に検出することが妨げられていました。代替ターゲットとして背中の僧帽筋が選択されることもありますが、僧帽筋は副神経(運動神経が上位頸髄に存在)支配であり、厳密には脳幹領域の筋ではないため、診断の不確実さを残していました。こうした背景から、患者さんの負担が少なく、純粋に脳幹領域の筋であり、かつ高感度に異常を捉えられる新しい針筋電図検査のターゲットが強く望まれていました。

■研究結果

 本研究では、顎の下の体表近くに一対で存在する「顎二腹筋前腹(ABDM)」に着目しました(図1)。ABDM は三叉神経という神経に支配される純粋な脳幹領域の筋であり、下顎の皮膚下にあって触診や検査時のアプローチが非常に容易な筋肉です。徳島大学病院を受診したALS の疑いのある患者さんを対象とした非盲検試験(注5)・前向き観察研究(注6) を行い、最終的にALS と確定診断された27 名(平均年齢70.8歳、発症からの期間中央値9ヶ月)の患者さんを対象として、ABDM、舌筋、咬筋、僧帽筋の4つの筋肉の間で、検査時の安静維持の容易さ、異常所見(FP)の検出率及び痛みの度合いを科学的に比較検証しました。(図2)


図1

1.高い安静度による正確な評価
 針筋電図検査における異常所見の評価には、筋肉の力が十分に抜けている(安静が得られている)状態が不可欠あり、特に線維束性収縮電位(FP)は、完全に力が抜けている「完全安静」状態でしか正確に判定できません。従来の検査対象である舌筋では完全安静がわずか7%に留まり、大部分の検査で評価を困難にしていました。一方、ABDM では「85%」という高い頻度での完全安静を達成し、正確な波形の評価が可能であることが立証されました。

2.早期病変指標「線維束性収縮電位(FP)」の検出感度の向上
 病気の初期段階で現れる特徴的な所見である「線維束性収縮電位(FP)」を、ABDMは高頻度に検出しました。 また、安静時異常活動(注7)や慢性脱神経電位(残存神経が失われた神経を補っていることを示す所見)及びその両者の検出頻度もABDM で高い傾向が示されました(図3)。ALS の診断には、安静時異常活動と慢性脱神経電位の両者を認める必要があり、本研究はABDM が高い診断感度を有することを示しました。さらに、従来対象筋の検査のみでは異常が捉えられず、初診時に診断基準を満たさなかった3名(全体の11%)において、ABDMの針筋電図所見を追加することで「診断基準を充足」させることができました。これは、臨床現場において『早期に確定診断し、早期から治療介入を開始できる』という直接的なメリットにつながります。

図3.針筋電図検査の結果のまとめ

3.少ない疼痛による患者負担の軽減
 ABDMは従来筋の課題のひとつであった検査にともなう疼痛が最も少なく、検査時の患者負担の軽減が期待されます。

■まとめ

 今回の研究により、顎二腹筋前腹(ABDM)の針筋電図検査が、少ない負担で、早期病変を鋭敏に捉えることができ、ALSの早期診断に役立つ可能性が示されました。以上の研究成果は、2026年7月21 日に神経・筋疾患の国際的な専門誌『Muscle & Nerve』のオンライン版に掲載されました。

■研究プロジェクトについて

 本研究は、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「MHLW Research on rare and intractable diseases program」(助成番号:JPMH23FC1008)の支援を受けて実施されました。

■用語解説

(注1) 顎二腹筋前腹 (ABDM)
 下顎の皮膚表面に存在し、口を開けたり嚥下(飲み込み)を行ったりする際に作用する筋肉。三叉神経(脳神経)に純粋に支配されており、体表から浅い位置(約10mm以内)にあるため針筋電図時の針の穿刺が容易です。

(注2) 針筋電図検査
 極めて細い針電極を対象筋肉に穿刺し、筋肉内の運動神経の障害に伴う異常な電気信号(波形)を検出・解析する精密電気診断法。変性した運動神経による筋肉の異常な放電を高精度に評価でき、ALSの診断のために必須の検査です。

(注3) 線維束性収縮電位 (FP/ Fasciculation Potentials)
 変性のプロセスにある運動神経(生き残っているが障害を受けつつある運動神経)が不随意に活動し、それに対応する筋線維が微小に動いた際に生じる活動電位。早期ALSの客観的診断においてきわめて重要な筋電図異常所見です。

(注4)オトガイ舌筋
 舌を構成する筋肉のひとつ。針筋電図において標準的に対象となる筋肉であり、口の中あるいは下顎から針を進める方法がありますが、いずれも患者さんの不快感が強く、安定した評価が難しいことが問題です。

(注5) 非盲検試験
 研究を実施する医師(評価者)と被験者(患者さん)の双方が、どの検査や治療を行っているかを把握した状態で行う研究手法。

(注6) 前向き観察研究
 研究開始後、新たに登録した患者さんを追跡・観察し、データを収集する研究手法。あらかじめ定めた厳密なプロトコルに従って一貫したデータを収集できるため、データの信頼性が高く、バイアスが少ないという特徴があります。

(注7) 安静時異常活動
 針筋電図検査において、十分に力を抜いている完全安静状態で検出される、自発的な電気的異常活動。これには線維束性収縮電位(FP)や線維自発電位/陽性鋭波(Fib/PSWs)などが含まれます。ALSなどの病変によって運動神経が侵されると、筋肉は安静時であっても異常な自発電気信号を放出するようになります。

■徳島大学に関する情報

・徳島大学×J-PEAKS
https://www.iphf.tokushima-u.ac.jp/

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