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国立大学法人 静岡大学

害虫は捉えて天敵は活かす:葉の微細構造がつくる“選択的防除”のメカニズム

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静岡大学農学部・田上陽介准教授らの研究グループが、天敵を邪魔しない植物の防御戦略の仕組みを解明しました。

 静岡大学農学部 大畑裕太 教育研究支援員と 田上陽介 准教授、澤田裕子氏、国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所の石原由紀氏からなる研究チームは、インゲンマメの葉や茎に生える「トライコーム」と呼ばれるフック状の毛が、害虫のみを選択的に捕らえ、天敵にはほとんど影響を与えないことを明らかにしました。

 本成果は、Pest Management Science(電子版)にて2026年1月15日に公開されました。

【研究のポイント】
- 植物の葉に生える毛が、害虫だけを捕まえ、天敵はほとんど捕まえないという“選択的防御”の仕組みを発見しました。
- 害虫であるハモグリバエは多くが毛に絡まって動けなくなる一方、その天敵寄生蜂はほぼ自由に葉の上を移動できることが確認されました。
- この仕組みは、農薬に頼らずに害虫を減らし、天敵を活かす持続可能な防除技術への応用が期待されます。

【研究の背景】
 害虫防除において大きな課題の一つは、「害虫を抑えつつ、天敵は守ることです。マメハモグリバエなどのハモグリバエ類は、農作物に深刻な被害をもたらす世界的な重要害虫であり、その防除には寄生蜂などの天敵を利用した生物的防除が広く用いられています。
 こうした生物的防除と並んで、作物自身がもつ防御機構もまた、害虫管理の重要な要素です。植物は葉や茎にトゲや毛(トライコーム)などの物理的防御構造を備え、害虫の侵入や定着を防いでいます。一方で、天敵の移動や探索行動も妨げてしまうことが指摘されており、トライコームには「害虫も天敵も同時に阻害してしまう」というトレードオフの問題が潜んでいました。

【研究の成果】
 静岡大学の田上陽介、大畑裕太らの研究グループは、インゲンマメにおけるトライコームの有無が、ハモグリバエおよび寄生蜂の個体数や寄生率に及ぼす影響を調査しました。

1.害虫に対する「死の罠」としての機能
 電子顕微鏡による観察から、インゲンマメの葉には3種類のトライコームが存在し、特に本葉裏面のトライコーム密度が高く、このトライコームがハモグリバエを捕捉していることが予想されました(図1,図2)。そこで、マメハモグリバエのインゲンマメへの付着実験を行ったところ、本葉裏面に着地した成虫のマメハモグリバエの30%~40%がトライコームに足や産卵管を引っかけて身動きが取れなくなり、死亡することが確認されました(図2)。さらに8日間にわたって行った試験では、インゲンマメの葉や茎に付着して死亡した個体は78.3%(300個体中235個体)まで高まりました。これはマメハモグリバエが次々に葉を移動して産卵するのを防ぐ「致死的なシンク(吸収源)」として機能しています 。


図1. インゲンマメの葉の構造


図2. インゲンマメの葉面のトライコーム密度およびマメハモグリバエのインゲンマメへの付着数

2. 天敵の寄生蜂はスルーする「選択性」
 一方で、同じ葉の上で活動する天敵の寄生蜂が捕まる確率はわずか1.6%~3.3%に留まりました(図3)。走査型電子顕微鏡による観察の結果、以下のメカニズムが示唆されました。
- 害虫(ハモグリバエ): 足が太く、表面の微細な構造がインゲンマメのフックに絡まりやすい。
- 天敵(寄生蜂): 足が極めて細いため、フックに引っかからずに隙間を歩くことができる。


図3.複数の昆虫種におけるトライコームへの付着数および脚部構造の観察結果

3. 生物標的防除との高い親和性
 さらに、トライコームを除去した葉とそのままの葉で寄生蜂の寄生効率を比較したところ、トライコームの存在によって寄生率が下がることはありませんでした(80%~87%を維持、図4)。これは、植物の物理的防御が天敵の邪魔をしないことを意味します。


図4.トライコームの有無による寄生率の変化

【今後の展望と課題】
 本研究では、植物自体の防御能力と生物的防除(天敵利用)が相反することなく共存できることを証明しました。この「選択的なトラップ」の特性を活かした品種改良や栽培体系の構築は、化学農薬に過度に依存しない、より持続可能で環境に優しい総合的病害虫管理(IPM)の発展に大きく貢献すると期待されます。

【用語説明】
● トライコーム(Trichome)
植物の葉や茎の表面に生える毛状の突起構造の総称。害虫の移動や定着を妨げたり、乾燥や紫外線から植物を守ったりする役割をもつ。本研究で対象としたのは、フック状の形をした非腺毛で、害虫の脚や産卵管が物理的に引っかかることで捕獲が起こる。

● ハモグリバエ
幼虫が植物の葉の内部を食害して白い筋状の被害(潜葉痕)を残す小型のハエ類。本研究で使用したマメハモグリバエ、トマトハモグリバエ、ナモグリバエなどは世界的な重要害虫で、野菜・花卉など幅広い作物に被害を与える。

● 寄生蜂(天敵)
害虫の体内や体表に卵を産み、その幼虫が害虫を食べて成長する小型のハチ類。農業では害虫防除に利用される有益昆虫で、生物的防除の中心的存在。本研究では、ハモグリバエの幼虫に寄生するハモグリミドリヒメコバチ、カンムリヒメコバチを用いた。

● 生物的防除
天敵や病原微生物など、生物の働きを利用して害虫の個体数を抑える防除手法。農薬に比べて環境負荷が低く、持続可能な農業技術として注目されている。

● IPM(総合的病害虫管理:Integrated Pest Management)
農薬・天敵・作物の抵抗性・栽培管理など複数の手段を組み合わせ、経済性・環境負荷・安全性のバランスを取りながら害虫を管理する考え方。

【論文情報】
タイトル: Selective leaf surface defenses: Trichomes trap herbivorous leafminers but sparing parasitoid wasps
(選択的な葉表面防御:トライコームは植食性ハモグリバエを捕らえるが寄生蜂は逃がす)
著者:Yuta Ohata, Yuhko Sawada, Yuki Ishihara, Yohsuke Tagami
掲載誌:Pest Management Science
DOI:doi:10.1002/ps.70523

【研究プロジェクトについて】
本研究は以下の支援によって行われました。
・日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(22K05648)
・東海国立大学機構融合フロンティア次世代リサーチャー(JPMJSP2125)

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