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国立大学法人熊本大学

腎臓病増悪の新たな原因を発見―「タンパク質を正しく作る仕組み」の異常が腎機能低下を引き起こす―

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(ポイント)
・ 体内で正確にタンパク質を作るための調整を行う酵素「CDKAL1」が、腎臓の働きを維持する新規機能を持つことを発見
・ この酵素の働きが弱まると、腎臓の「フィルター機能」が障害される
・ 腎臓病の新しい原因の理解につながり、将来の治療法開発に期待

(概要説明)
 熊本大学大学院生命科学研究部の富澤一仁教授、永芳友特任講師、永田裕子大学院生(当時)、中條岳志准教授らの研究チームは、tRNAを化学修飾する酵素「CDKAL1」の機能低下が腎臓機能を悪化させる仕組みを明らかにしました。
私たちの体では、遺伝情報をもとにタンパク質が作られます。その際に「tRNA」※1という分子と、tRNAを化学修飾※2することでtRNAの機能を調整する「CDKAL1」という酵素が重要な役割を担います。
本研究では、このCDKAL1の働きがなくなると、腎臓の中にある「ポドサイト」※3と呼ばれる細胞で、タンパク質が正しく作られなくなることが明らかになりました。また、タンパク質が正しく作られなくなることにより、腎臓のフィルター機能が障害され、腎機能が低下することが示されました。この発見は、腎臓病の新しい原因の理解につながる重要な成果です。
本研究成果は、日本時間2026年3月28日(土)に欧州の学術誌「The EMBO Journal」に掲載予定です。本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業などの支援を受けて実施されました。

(説明)
[背景]
 腎臓は、血液の中の不要な物質をろ過して尿として排出する臓器です。この「ろ過装置」の中心となるのが「ポドサイト」という細胞です。
一方、体の中では日々たくさんのタンパク質が作られています。その過程では「tRNA」(図1)という分子がアミノ酸を運び、タンパク質を作る手助けをしています。tRNAは専用の酵素から化学修飾※3を受けることで正常な機能を果たします。さらに、化学修飾の仕組みが乱れると病気につながることが知られていました。特に「CDKAL1」という酵素の設計図(遺伝子)の変異は糖尿病や腎臓病と関係があることが知られていましたが、この腎臓病が糖尿病により引き起こされるのか、それとも糖尿病と独立して発症するのか、さらに具体的にどのようなメカニズムで発症するのかはよく分かっていませんでした。

[研究の内容と成果]
 本研究では、CDKAL1という酵素が働かなくなると、腎臓のフィルター機能を担うポドサイトにおいて、アミノ酸の一種であるリジンを正しくタンパク質に組み込む能力(翻訳)が低下することが明らかになりました。その結果、リジンを多く含む重要なタンパク質(特にCD2AP)が十分に作られなくなり、ポドサイトの移動能力やフィルター機能が低下しました。さらに、CDKAL1を欠損させたマウスでは糖尿病とは独立して腎機能の低下が確認され、CDKAL1を欠損させた細胞にCD2APを補うことで細胞機能がかなり回復することも示されました。これらの結果から、CDKAL1の異常が「特定のタンパク質の合成の低下」を引き起こし、それがポドサイト機能障害を通じて腎機能増悪につながるという新しい仕組みが明確になりました(図2)。

[展開]
本研究により、タンパク質を正しく作る仕組みの異常が腎機能低下につながるという新たな視点が得られたことから、将来的にはCDKAL1の変異を持つ人を早期に特定し、腎臓病の発症や進行を予測・予防する取り組みにつながることが期待されます。また、低下したリジンの翻訳を回復させるような治療法や、ポドサイトの機能を維持・補強する新たな創薬戦略の開発にも道を開く可能性があります。今後は、この仕組みが疾患モデルマウスだけではなくヒトにおいても同様に働くかを検証することで、より実用的な診断法や治療法への応用が進むと期待されます。

[用語解説]
※1.tRNA(トランスファーRNA、運搬RNA): 私たちの体では、DNAに書かれた設計図をもとにタンパク質が作られます。その際、tRNAはタンパク質の材料であるアミノ酸の「運び屋」として働き、設計図に書かれた順番でアミノ酸をつなぎ合わせることを可能とします。この仕組みが正しく働くことで、体に必要なタンパク質が正確に作られます。

※2.化学修飾: tRNAに化学的な変化(修飾)を加えることで、その働きを調整する仕組みです。この修飾によって、タンパク質がより正確かつ効率よく作られるようになります。修飾がうまく行われないと、タンパク質の合成に誤りや効率低下が生じ、さまざまな病気の原因になることがあります。

※3.ポドサイト: 腎臓の中にある「糸球体」というろ過装置を構成する細胞の一つで、血液をろ過するフィルターの最前線で働いています。タコの足のような突起を広げて血管を包み込み、小さな分子だけを尿として排出し、必要なタンパク質は体内に留める重要な役割を担っています。この細胞が傷つくと、タンパク尿が出るなど腎機能の低下につながります。

(論文情報)
論文名:CDKAL1 dysfunction impairs lysine codon translation in podocytes and accelerates chronic kidney disease

著者:永田裕子1、永芳友1、中條岳志1、金子瞳1、西口栞世1、柿添豊1、
井島廣子1、榊田光倫1、増田豪2、大槻純男2、魏范研3、高橋雪枝1、
福田孝一1、陣内秀昭4、足立優樹1、山村遼介1、松下昂樹1、
安達政隆1、横井秀基1、中村公俊1、仲里仁史1、富澤一仁1

(1熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)、2熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)、3東北大学加齢医学研究所、4陣内病院)

掲載誌:The European Molecular Biology Organization (EMBO) Journal
doi : 10.1038/s44318-026-00759-3
URL: https://link.springer.com/article/10.1038/s44318-026-00759-3

【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
熊本大学大学院生命科学研究部
担当:教授 富澤一仁 
電話:096-373-5051
e-mail:tomikt@kumamoto-u.ac.jp

<報道に関すること>
熊本大学総務部総務課広報戦略室
電話:096-342-3269
e-mail:sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp

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