秋葉原の海老原商店で上演された舞台『騒がしい二階』が、大胆な編集とともに生まれ変わり“映像作品”として配信中だ。
歴史的な建造物から発想して創作
歴史的な建造物から発想して創作する「建物×演劇」プロジェクト。時代の化石となりつつあるものたちに、表現の力で新たな命を吹き込み、その場の認知拡大と、芸術文化を発信することを狙いに、建築事務所であるオフィス遊民が立ち上げた。
2023年5月に上演された『騒がしい二階』は、プロジェクト第1作となる長編演劇であり、歴史的建造物「海老原商店」とのコラボレーション。連日大入りとなり、終演を迎えた。
同作の主人公は、母を亡くし悲しみに暮れるエルゼ。ある日、二階から聞こえるラップ音に母の気配を感じ、家族とともに青森のイタコのもとを訪ねることにした。それはずっと母に聞けずにいた答えを探す、彼女の心の旅でもあった。
しかし、イタコが口寄せで語ったのは、思いも寄らない母からのメッセージだった……、というストーリー。
文化的歴史ある「海老原商店」
劇場となった海老原商店は、千代田区の景観重要建造物にも指定されている看板建築。看板建築とは、その多くは関東大震災後の復興期に乱立し、資金力のない中小規模の商店が鉄筋コンクリートのビルに見せかけるために、その正面だけを銅板やモルタル、タイル、スレートなどの耐火材で覆い、装飾した建造物のこと。海老原商店も一見洋風レトロで趣のある歴史的建造物ではあるが、和洋折衷なでたらめさもまた同時に感じさせる不思議な建物だ。
本物と偽物。和風と洋風、現代に残る大正時代の趣……さまざまな二項対立が相即不離なものとして混在している海老原商店を劇場に、より際立った現代表現の可能性を模索するべく今回の創作がスタート。演劇もまた、偽者たちが本物と称して演じるでたらめな表現だと捉えたからだ。
伝統芸能×ゴシックホラー
同作の特色である、日本の伝統芸能と西洋のゴシックホラーの掛け合わせは、看板建築に見られる「和洋折衷」なたたずまいをヒントにしている。
物語の大筋になっているのは、古典落語『二階ぞめき』。1人複数役を演じることを前提とした落語という形式の中、登場人物が噺の中で1人複数役をこなすという入れ子構造の演目だ。筋もまた「店の二階を吉原そっくりに作り替える」というでたらめさだが、看板建築もその多くが二階建てであり、同作の物語を構造的に印象付けている。
人っこ一人いない二階の吉原はまるであの世。そう捉えるならば一階はこの世。二階から聞こえるあの世の物音が、一階の観客にとどろくような、建物を生かした演出により、より立体的に物語の中に没入できる仕掛けだ。
そんな「死」の気配に呼応するように、西洋文化であるゴシックホラーを掛け合わせ、妙な手触りの演劇を目指したのだそう。
映像作品としての演劇
映像配信をするにあたり、建物の構造を生かすよう多数のカメラを入れ撮影。一階と二階にわたる演出やギミックを映像からも感じられるよう工夫している。
『映像版・騒がしい二階』は、10月30日(月)23時59分まで配信中。期間中見放題となる。
出演者は渡部瑞貴、濱野ゆき子、笑福亭べ瓶、小出水賢一郎、及川紗都、染野清美(コントラバス演奏)。敬称略。チケット料金は2,000円(税込)。
生の舞台とはまた違った映画やドラマのような味わいと解釈を持たせて完成させた『騒がしい二階』を、配信で楽しんでみては。
視聴チケット販売中※10月30日(月)まで見放題:https://sawagashii2kai.stores.jp/items/64e7242ef0358e0032677f0f
公式Twitter:https://twitter.com/sawagasii2kai
(山川温)