追加料金もオプトインも不要で全ユーザーが対象。データベースが盗まれても、得られるのは暗号文だけ
FlashLabs株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役:細井洋一、以下「FlashLabs」)は、米国のAI研究機関Continuum AIが開発し、当社が日本市場向けに独占提供するAI推論ゲートウェイ「OrcaRouter」において、リクエストログの本文を耐量子暗号(量子コンピュータでも解読が難しいとされる暗号方式)で保護する仕組みを標準搭載したことをお知らせします(2026年9月25日発表※1)。

本件は、Enterpriseプラン(法人向けの上位プラン)に限定したものではありません。オプトイン(利用者による有効化の申告)も追加料金も不要で、すべてのユーザーが対象です。同日、この暗号化を支える実装「scuttle」が、Apache-2.0ライセンスのもとでオープンソースとして公開されました※1※2。
AIのリクエストログには、プロンプト、モデルの応答、外部ツールの呼び出し、個人情報、文脈に誤って含まれてしまった認証情報などが記録されます。こうした内容のコピーは、データベースの複製やスナップショット、バックアップの中に、年単位で残り続けることがあります。本件は、長く残るコピーがいずれ量子コンピュータによって読まれてしまうリスク、すなわち「今のうちに収集し、後で復号する(Harvest now. Decrypt later.)」という脅威に対する備えです※1。
主なポイント
- OrcaRouterの全ユーザーが対象。Enterpriseプラン限定ではなく、オプトインも追加料金もない
- リクエストログの本文(リクエストとレスポンスの内容)は、ストレージに保存される前に暗号化される。データベースの複製、スナップショット、バックアップが流出しても、内容は読めない
- データの暗号化にはAES-256-GCM(業界標準の暗号化方式)を使用し、項目ごとに別々の鍵を生成する。1つの鍵が漏れても、データベース全体を復号する鍵にはならない
- 長期間保管される鍵の保護に、耐量子暗号ML-KEM-768と既存のX25519を組み合わせたハイブリッド構成を採用
- ログを書き込むアプリケーション側が受け取るのは、暗号化にしか使えない公開キャプチャ鍵のみ。新しいログの暗号化はできるが、その鍵で過去のログを復号することはできない
- 想定する脅威は「今のうちに収集し、後で復号する」。今日盗まれたバックアップが、何年も先に読まれることを防ぐ
- 暗号化レイヤー「scuttle」をApache-2.0ライセンスでオープンソース公開。コード、仕様、脅威モデル、攻撃対象領域、ファジングの対象をすべて公開(日本語を含む7言語の説明文を用意)
- ランダムな入力で不具合を探す自動テスト(ファジング)の対象を9種類用意し、公開前に数千万回規模の実行を実施。この過程で見つかった2件の不具合はいずれも公開前に修正済み
- 公開前に2回の内部レビューを実施(うち1回は、暗号設計・実装・対外記述を独立に担当した3つのAIレビュアーによる並行レビュー)。第三者機関による監査は未実施(scuttleはバージョン0)
- セキュリティ上の指摘は、GitHubの非公開窓口とメールで受け付ける。3営業日以内の受領確認、10営業日以内の評価、90日以内の修正・公開を目標とし、指摘者には原則としてクレジットを掲載する
開発の背景
AIのリクエストログは、通常のアプリケーションログとは性質が異なります。1件のリクエストに、プロンプト、モデルの応答、ソースコード、取得した文書、個人情報、外部ツールの呼び出し結果、そして業務上の非公開データが含まれ得ます※1。
一般的なログ基盤では、記録はデータベースに保存され、その複製、スナップショット、バックアップへと広がっていきます。「30日後に削除する」という運用を決めても、昨日のバックアップ、複製に届いていない更新履歴、遅延しているレプリカ、古いスナップショットまで消えるわけではありません※1。
また、保管時の暗号化だけでは、データベースの通常の復号経路を取得した相手が、そのまま本文を読めてしまいます。OrcaRouterが導入した仕組みは、暗号化の位置を保存より前に移しました。データベースの認証情報は、過去のプロンプトを復号するための認証情報であってはならない、という考え方です※1。
仕組み
リクエストログは、次の流れで保護されます※1。
- 保存前の暗号化:リクエストとレスポンスの本文は、保存先に届く前に暗号化されます
- 鍵の作り分け:項目ごとに異なる鍵を生成して暗号化します(鍵は保存せず、その都度作り出します)。1つの項目の鍵が漏れても、ほかの項目の鍵にはなりません
- 鍵の保護に耐量子暗号:データを保護する鍵そのものを、耐量子暗号のML-KEM-768と、現在広く使われている楕円曲線暗号のX25519を組み合わせたハイブリッド構成(X-Wing)で包んで保管します。どちらか一方の前提が崩れても保護が成り立つようにするためです
- 書き込み専用の設計:ログを書き込むアプリケーション群が受け取るのは公開キャプチャ鍵だけです。新しいログの暗号化はできますが、過去のログを復号することはできません。復号できるのは、別の場所で管理される非公開鍵を持つ読取側のみです
- 鍵の世代管理:鍵は世代単位で更新でき、新しい記録には新しい鍵、過去の記録にはその時点の鍵が使われます
- 圧縮してから暗号化:各項目を独立に圧縮してから暗号化します。他の利用者のデータと圧縮の文脈を共有しないためです
なお、この保護はログの記録(キャプチャ)が有効な場合に適用されます。記録自体の設定はワークスペース単位で、既定はオフです※4。また、AIエージェントのセッションを再現するために本文全体を別の保管先に保持する「セッション単位の記録」は、この暗号化の対象外です※4。
オープンソース「scuttle」について
scuttleは、機微なログの本文を保護するための、小さな耐量子暗号の実装です。OrcaRouterのリクエストログを保護する層として開発され、2026年9月にApache-2.0ライセンスで公開されました※1※2。
「私たちの暗号を信じてほしいから公開したのではなく、壊してほしいから公開した」という立場を取っています。公開されているのは次のものです※1。
- コード(Go言語・暗号処理はGo標準ライブラリを使用)
- 仕様(保存されるデータの形式を、バイト単位で記述。既知のテストベクタ付き)
- 脅威モデルと、破られることを想定して書き出した主張の一覧(ATTACK.md)。「自社が正しいと考える性質」を、間違いを検証できる形で順に並べています
- 攻撃対象領域と、9種類のファジング対象(各対象は「落ちないこと」ではなく、守るべき性質を検証します)
公開前には2回の内部レビューを実施しました。うち1回は、暗号設計、実装、対外記述の3つを、互いのメモを参照しない独立したAIレビュアーが並行して確認する形で行っています。指摘された問題はすべて修正し、修正前には失敗するテストを追加して固定しています。ファジングでは2件の不具合が見つかり、いずれも公開前に修正しました※3。
scuttleはバージョン0であり、第三者機関によるセキュリティ監査は受けていません。保存形式は今後のバージョンで変更される可能性があります※2。
公開されている資料
- リポジトリ(コード):https://github.com/Continuum-AI-Corp/scuttle(Apache-2.0ライセンス)
- 日本語の説明文:README.ja.md
- 仕様(データの保存形式とテストベクタ):SPEC.md
- 破られることを想定した主張の一覧:ATTACK.md
- 指摘の報告方法と対応の目安:SECURITY.md
scuttleが保護しないもの
- 暗号化の効果を正確に伝えるため、scuttleが保護しない範囲も明示されています※1※2。
- 処理中のメモリ上にある平文(アプリケーションは処理のために本文を平文で扱います)
- 時刻・サイズ・モデル名・ステータスコードなどの付帯情報(検索に使うため平文のまま残ります)
- 正規に閲覧権限を持つ利用者の閲覧(権限の管理はアプリケーション側の役割です)
- 書き込み権限を持つ相手による行の削除や差し替え
- 公開キャプチャ鍵と非公開鍵を同じプロセスが保持する構成(この場合、書き込み専用の性質は成立しません)
今後の展望
Continuum AIの研究チームは、scuttleの仕様と実装の改善を継続します。FlashLabsは、AIのリクエストログを長期間保存する必要のある日本の企業や開発者に対して、本件の仕組みと、公開された検証材料を紹介してまいります。あわせて、OrcaRouterのガードレール、外部ツール利用の制御、実行記録の機能と組み合わせて、AI利用の記録を安全に残せる環境づくりを進めてまいります。
OrcaRouterについて
OrcaRouterは、米国のAI研究機関Continuum AIが開発し、FlashLabs株式会社が日本市場向けに独占提供するAI推論ゲートウェイ(AIモデルへのアクセスを1つにまとめる中継サービス)です。OpenAI互換のAPIを備え、Anthropic、OpenAI、Google Gemini、DeepSeek、Grok、Qwenなど200以上のLLM・生成AIモデルを単一のゲートウェイから利用できます。OrcaRouterのAIモデル一覧からすべてのモデルを確認できます。
会社概要
FlashLabs株式会社
- 本社所在地:東京都千代田区一番町10番8号
- 代表取締役:細井洋一
- 設立:2023年7月
- 事業内容:AI応用研究所(Human-AI Hybridで営業・CXの自動化・自律化。OSS音声モデルChromaの開発元)
- URL:https://www.flashlabs.ai/
Continuum AI
- 「次の10年の知能システムを支える基盤インフラを開発する研究機関(米国)」
- OrcaRouterの開発・提供
- URL:https://www.continuum01.ai/
本件に関するお問い合わせ
FlashLabs株式会社 マーケティング部 小林光喜
E-mail:koki.kobayashi@myflashcloud.com
※1 本リリースにおける暗号化の仕組み・設計に関する記述は、OrcaRouter公式Xアカウント(@OrcaRouter)における2026年9月25日の発表、およびオープンソース実装「scuttle」のリポジトリで公開されている資料(README・SPEC.md・ATTACK.md・SECURITY.md・CHANGELOG.md)に基づきます(2026年9月26日時点・当社確認)。
※2 「scuttle」はApache-2.0ライセンスで公開されています。バージョン0として公開されており、第三者機関によるセキュリティ監査は受けていません。保存されるデータの形式は、今後のバージョンで変更される可能性があります。
※3 公開前に実施したレビューの内容、ファジングの実行規模、検出した不具合に関する記述は、同リポジトリのCHANGELOG.mdおよびATTACK.mdの記載に基づきます。実行規模は同資料の記載(tens of millions of executions)に基づく表現です。
※4 ログ記録の既定値および「セッション単位の記録」が暗号化の対象外である点は、OrcaRouterの管理画面(User Console)のログ設定画面の記載に基づきます(2026年9月26日時点・当社確認)。
※5 本リリースに掲載しているURLは、2026年9月26日時点で当社が確認したものです。