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アスタミューゼ株式会社

プライバシー強化技術の最先端:研究開発と特許から見える未来

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はじめに:プライバシー強化技術とは
デジタル化の進展により、日常生活やビジネスのあらゆる場面で生成されるデータ量が爆発的に増加しています。企業や組織は大量のデータを活用して、より精度の高い意思決定や業務効率の向上を目指めざしています。とくに、人工知能の進化により、膨大なデータを効率的に分析し、有用なインサイトを抽出することが可能になりつつあります。このような背景から、データの利活用が企業の競争力強化や社会全体のイノベーションを促進すると大きな期待をあつめています。

データの利活用が進む一方で、個人情報をあつかう際、プライバシー侵害のリスクが大きな懸念となっています。個人情報がふくまれるデータを大量に収集・蓄積することによって、悪用や不正アクセスのリスクが高まり、消費者や利用者からの信頼をそこなう可能性があります。そのため、データを利活用する側は、データの安全な管理と保護を徹底しつつ、どのように有効に活用していくかのバランスがもとめられます。

とくに、個人情報保護法の規制をうける個人情報の場合、法的な規制やガイドラインの遵守にくわえ、データの匿名化や暗号化といった技術的な対応も重要な課題となっています。これらを適切に実行することで、データの利活用とプライバシー保護の両立がもとめられています
最先端プライバシー強化技術の要素
データの利活用プロセスは、おもに収集、保管、加工、学習、利用の各ステージにわけられますが、近年ではとくに加工、学習、利用の段階に注目があつまっています。この流れをうけ、データの安全なとりあつかいやプライバシー保護を強化しながらも有効活用を実現する技術として、秘密計算、差分プライバシー、連合学習の3つの技術が重要視されるようになっています。

これらの技術は、データのプライバシー保護と利活用の両立をめざし、データの加工や分析、共有の際にプライバシーリスクを低減しながらも精度の高い結果をえることが可能であるため、とくに注目されています。秘密計算、差分プライバシー、連合学習をそれぞれ簡単に説明します。
- 秘密計算:データを暗号化したままの状態で計算や処理をおこなう技術です。通常、データは計算のために暗号化を解除する必要がありますが、秘密計算ではデータを解読せずに直接処理が可能です。
- 差分プライバシー:個人データを保護しながら、集計や分析結果を提供する技術です。具体的には、データにノイズをくわえることで、個々のデータポイントが特定されるリスクを低減しつつ、全体的な分析結果の精度をたもちます。
- 連合学習:複数のデバイスや組織がデータを共有することなく、分散されたデータを使って共同で機械学習モデルを訓練する技術です。各デバイスや組織が自分のデータをローカルで処理し、その結果としてえられるモデルの更新情報のみを中央のサーバーに送信します。サーバーはこれを集約して、全体のモデルを更新しますが、個々のデータ自体は共有されません。

これらの最先端プライバシー強化技術は、一般的に医療データの共有や金融取引など機密性の高いデータの利活用、政府の統計データの公開、企業によるユーザーデータの安全な活用などのユースケースが想定されています。本レポートでは、秘密計算、差分プライバシー、連合学習の現在の取り組みや最新のユースケースについて、弊社のデータベースを活用し、論文や特許、グラントから対象技術の分析を実施し、その結果を紹介します。
最先端プライバシー強化技術の研究開発動向
アスタミューゼ株式会社では、文献に含まれる特徴的なキーワードの年次推移を抽出することで近年伸びている技術を特定する「未来推定」という分析をおこない、萌芽的な分野の予測をしています。キーワードの変遷をたどることで、すでにブームが去った技術や、これから脚光をあびると推測される技術を可視化することができ、この分析により、技術の社会実装の時期や今後発展する技術の予想が可能となります。
秘密計算
秘密計算の全体の動向を把握するために、2012年から2023年までの論文、特許の件数およびグラントの配賦額の年次遷移を図1にしめします。

図1:秘密計算に関連する論文や特許の件数およびグラントの配賦額の年次遷移

グラントの配賦額はプロジェクト期間で均等割りにして、各年に再配分した値で集計しています。たとえば、配賦額が3万ドルで実施期間が3年の場合、各年に1万ドルを計上しています。ただし、中国はグラントの開示状況が年によって大きくことなり、実態を反映しているとはいえないため、集計から除外しています。また、特許に関しては、出願から公開まで1年6ヶ月が経過するため、2012年から2022年までの期間で集計しています。

図1から、論文や特許の件数、グラントの配賦額がゆるやかな増加傾向をしましていることが分かります。ここで、ごく最近のトレンドに注目し、2020年を基準に考えてみます。2020年から2021年の時期を境に、論文や特許の件数は増加傾向から停滞傾向に転じています。一方で、グラントの配賦額は継続的に増加しており、2023年の配賦額は2020年の配賦額の約1.9倍に達していることが注目されます。グラントを通じた資金投資が引き続きおこなわれていることから、論文や特許の停滞傾向は一時的なものであり、秘密計算は今後も持続的に進められると解釈することができます。

つぎに、近年でも明確な増加傾向をしめすグラントに関してキーワードの変遷をたどります。図2は、2012年から2023年までのグラントのタイトルや概要にふくまれるキーワードの年次推移をしめします。成長率(Growth)とは、2012年から2023年までのあいだのキーワードの出現回数と、2019年から2023年までのあいだのキーワードの出現回数の割合をしめし、数値が1に近いほど直近で出現している頻度が高いと解釈します。

図2:秘密計算に関連するグラントのタイトルや概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移

図2から、「proof-of-stake」、「contracts」、「blockchains」、「proof-of-work」、「finance」などの金融や暗号通貨に関連したキーワードや、「shard(-x)」、「ledger」などの同分野にとりくむ具体的なスタートアップ企業名が見受けられます。このことから、秘密計算の応用先としておもに金融や暗号通貨が模索されていることがあきらかとなり、スタートアップ企業名が登場していることをふまえると、秘密計算は実用化に近い段階にあると推測されます。

最後に、秘密計算を金融や暗号通貨に応用している、資金調達額が上位のスタートアップ企業をご紹介します。
- Entropy
- - https://entropy.xyz
- - 所在国:アメリカ
- - 創業年:2021年
- - 事業概要:秘密鍵を安全に保管し、暗号資産をオンデマンドで利用可能にする暗号カストディサービスを提供しています。具体的には、最先端の秘密分散方式にもとづく秘密計算技術を活用した分散型ネットワークの構築にとりくんでいます。

差分プライバシー
秘密計算と同様に、差分プライバシーの全体の動向を把握するために、2012年から2023年までの論文や特許の件数およびグラントの配賦額の年次遷移を図3にしめします。

図3:差分プライバシーに関連する論文や特許の件数およびグラントの配賦額年次遷移

図3から、特許の件数やグラントの配賦額は単調な増加傾向をしめしていることがわかります。一方で、論文の件数は2021年から2022年にかけて一度は減少しますが、2022年から2023年にかけてふたたび増加に転じています。しかし、グラントの配賦額が継続的に増加していることをふまえると、論文の件数の一時的な減少は偶発的なものと解釈できます。実際、近年のグラントの配賦額に注目すると、2023年の配賦額は2020年の約2.5倍に達しています。秘密計算と同様に、差分プライバシーの研究も今後持続的に進められると推測できます。

次に、単調な増加傾向をしめすグラントに関して、キーワードの変遷をたどります。図4は2012年から2023年までのグラントのタイトルや概要にふくまれるキーワードの年次推移をしめします。

図4:差分プライバシーに関連するグラントのタイトルや概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移

図4から、「geo-graph-indistinguishability」、「pii」、「geo-indistinguishability」、「membership-inference」、「anonymize」、「crowdsensing」、「crowdsourced(data annotation)」などの個人情報保護やプライバシー保護に直結したキーワードが見受けられます。また、「dpella」、「gdpr-compliant」など、同分野にとりくむ具体的なスタートアップ企業名や、個人情報の保護に資する規則(GDPRは欧州連合内で個人データの保護を強化し、統合することを意図した規則)に関連するキーワードも確認できます。これにより、差分プライバシーが個人情報保護やプライバシー保護の分野で高い需要があることが示唆されます。

秘密計算と同様に、差分プライバシーを個人情報保護やプライバシー保護に応用している、資金調達額が上位のスタートアップ企業をご紹介します。
- Sarus
- - https://sarus.tech
- - 所在国:フランス
- - 創業年:2019年
- - 事業概要:データ分析や機械学習における個人データへのアクセスおよび共有にともなう課題解決に、差分プライバシーを活用しています。とくに、データ分析プロジェクトにおける個人データの匿名化プロセスを簡易化・自動化することで、プロジェクトの開始を円滑にしています。

連合学習
秘密計算や差分プライバシーと同様に、連合学習の動向を把握するために、2012年から2023年までの論文や特許の件数およびグラントの配賦額の年次遷移を図5にしめします。

図5:連合学習に関連する論文や特許の件数およびグラントの配賦額の年次遷移

図5から、連合学習は非常に新しい技術であり、2012年から2018年にかけては論文や特許の件数がほとんどなく、グラントの配賦額もきわめて小さいことがわかります。しかし、2019年以降、論文や特許の件数およびグラントの配賦額は著しい伸びを見せています。とくにグラントの配賦額は、2023年には2020年の約9倍に達しており、連合学習の需要が非常に高まっていることがうかがえます。今後もしばらくは活発的に研究が続けられることが示唆されます。

つぎに、秘密計算や差分プライバシーと同様に、グラントに関してキーワードの変遷をたどります。図6は、2012年から2023年までのグラントのタイトルや概要にふくまれるキーワードの年次推移をしめします。

図6:連合学習に関連するグラントのタイトルや概要にふくまれる特徴的なキーワードの年次推移

図6から、「health-technology」、「omop-cdm」、「rarecarenet」などの医療関連の一般的なキーワードや、医療データベースに関連するキーワードが見受けられます。また、「fedml」、「openfl」、「fedn」などの連合学習に関連するサービスやプログラミングフレームワークのキーワードも多数見られます。このことから、連合学習はすでに実用化の段階にあり、主にサイロ化(分割保管)された医療データの分析分野で広く応用されていることが明らかです。

同様に、連合学習をサイロ化(分割保管)されたデータ処理に応用している、資金調達額が上位のスタートアップ企業をご紹介します。
- Owkin
- - https://www.owkin.com
- - 所在国:アメリカ
- - 創業年:2016年
- - 事業概要:医療機関や医薬製造業が保有するデータセットや人工知能を有効活用して、がんなどの治療法を確立することや新薬の候補を発見することをめざしています。その過程で、サイロ化(分割保管)された患者の個人情報などのデータセットを保護することに重点を置き、その達成のために連合学習を活用しています。

最先端プライバシー強化技術の未来像
最先端のプライバシー強化技術である秘密計算、差分プライバシー、連合学習に関する最新のとりくみについて、アスタミューゼのデータベースを活用し、論文や特許、グラントから対象技術の分析を行い、その結果をご紹介しました。

最先端プライバシー強化技術を包括的に把握するため、三つの技術それぞれにおける、2020年を基準(1)とした場合のグラントの配賦額(図7)、論文の件数(図8)、および特許の件数(図9)の年次遷移を示します。

図7:三つの最先端プライバシー強化技術に関連するグラントの配賦額の年次遷移


図8:三つの技術に関連する論文の件数の年次遷移


図9:三つの技術に関連する特許の件数の年次遷移

図7、図8、図9から、秘密計算、差分プライバシー、連合学習の論文や特許の件数およびグラントの配賦額を比較すると、秘密計算と差分プライバシーがゆるやかな増加傾向をしめす一方で、連合学習は2018年以降、著しい増加率をしめしていることがわかります。とくに、2020年を基準にすると、連合学習の2023年の論文件数は約3.1倍、特許件数は約2.3倍、グラントの配賦額は約9倍に達しています。

また、秘密計算と差分プライバシーを比較すると、差分プライバシーのほうが増加率がわずかに大きく見えます。これは、それぞれの技術の歴史の長さで説明でき、秘密計算の歴史は1970年代、差分プライバシーは2000年代、連合学習は2010年代にはじまっています。、古い技術ほど近年の増加率が小さいのは自然な流れです。しかし、いずれの技術も継続的な成長をしめしており、研究開発が活発的におこなわれている分野であることに変わりはありません。

そして、それぞれの技術に最適なユースケースが、今もなお精力的に模索されています。図2、図4、図6から、秘密計算、差分プライバシー、連合学習のそれぞれのユースケースを以下のように整理できます。
- 秘密計算:金融や暗号資産
- 差分プライバシー:個人情報保護やプライバシー保護
- 連合学習:サイロ化(分割保管)された医療データの分析

それぞれの技術の応用先は、もちろん上記にかぎらず、たとえば個人情報保護法の規制をうけない各企業が保有する機密情報に対しても、最先端プライバシー強化技術を活用して、組織をまたいだ共通課題の解決が議論されています。このように、最先端プライバシー強化技術を応用した新たな価値提供や新たなサービスの創出が引き続き期待されています。

著者:アスタミューゼ株式会社 ミシェンコ ピョートル 博士(工学)
さらなる分析は……
アスタミューゼでは「プライバシー強化」に関する技術に限らず、様々な先端技術/先進領域における分析を日々おこない、さまざまな企業や投資家にご提供しております。

本レポートでは分析結果の一部を公表しました。分析にもちいるデータソースとしては、最新の政府動向から先端的な研究動向を掴むための各国の研究開発グラントデータをはじめ、最新のビジネスモデルを把握するためのスタートアップ/ベンチャーデータ、そういった最新トレンドを裏付けるための特許/論文データなどがあります。

それら分析結果にもとづき、さまざまな時間軸とプレイヤーの視点から俯瞰的・複合的に組合せて深掘った分析をすることで、R&D戦略、M&A戦略、事業戦略を構築するために必要な、精度の高い中長期の将来予測や、それが自社にもたらす機会と脅威をバックキャストで把握する事が可能です。

また、各領域/テーマ単位で、技術単位や課題/価値単位の分析だけではなく、企業レベルでのプレイヤー分析、さらに具体的かつ現場で活用しやすいアウトプットとしてイノベータとしてのキーパーソン/Key Opinion Leader(KOL)をグローバルで分析・探索することも可能です。ご興味、関心を持っていただいたかたは、お問い合わせ下さい。
- コーポレートサイト:https://www.astamuse.co.jp/
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