クリエイティブスタジオROLEは、富山県高岡市と共同して新たな消費循環のあり方を考えるプロジェクトに挑戦した。チラシ、パンフレット、ポスターなど一般的な印刷製造の際に必ず発生し、廃棄されてしまう「ヤレ紙(品質保持のための調整用損紙)」を、廃棄せずにそのまま上書き印字して市役所職員の名刺や封筒に生まれ変わらせた。
ヤレ紙を利活用した取り組み
このプロジェクトでは、印刷品質を安定するためのプロセスとして避けられない、テスト印刷段階で発生するヤレ紙を回収し、上から塗りつぶすことで名刺や封筒として再活用。元々印刷されていた印字もあえて少し残すことで、「わかりやすい・つたわりやすい」アップサイクルをデザインし、環境行動と生活の距離感がより身近になることを目指す。
「自分のまちで出たゴミを、全て資源として利活用できないか」という考えのもと、一般的な古紙再生とは少し違う、伝わりやすい環境行動の一つとして市民へメッセージを届けるため、高岡市では10月から本格的な配布が始まった。
どうしても避けられないヤレ紙
家庭用プリンターや業務用レーザープリンターを使う際、1枚の印刷に必要な紙は1枚の用紙だが、チラシや広告など、大量に印刷する際に使用する「オフセット印刷」という方法では、品質を安定させるために、最初からヤレ紙を準備して製造している。
ヤレ紙は、「CMYKのインク4色それぞれの版の位置を調整する」、
「刷り初めのインク量を安定させる」、
「狙っている色を微調整する」などの工程で発生。チラシが数百枚でも数千枚でも、必要なヤレ紙の量は大差なく、日々大量の紙束が廃棄されている。
「エコ=再生紙」以外にも、資源循環の選択肢を
古紙を再生する際に大量の水を使用することや、用途によっては白色度を高めるために相応の薬品が必要になるなど、リサイクルすること自体が環境負荷につながることから、2000年代以降は大手製紙会社が古紙100%の再生紙製造を廃止したりと、再生紙のあり方を見つめ直す時代にある。
ただし、高岡市でも再生紙を併用しているように、同プロジェクトはリサイクルそのものを否定するのではなく、環境行動に対してこれまでとは違ったアプローチへの関心を高めることができればと考えている。もともと印刷されていたものの気配を残すことで、資源の循環をより意識できるよう工夫した実験的な試みだ。
市の発行物で市が独自にリサイクル
ヤレ紙の活用方法はたくさんあるにもかかわらず、なぜこのような事例が容易に出てこないかというと、権利問題がある。印刷物に掲載されている商品やサービスには著作権や肖像権が関係し、印刷所がクライアントの印刷物から発生したヤレ紙を使用することは難しく、積極的にそれを行っている印刷所は少ない。
高岡市が取り組む同プロジェクトでは、市の発行物で市が独自にリサイクル。「市の公式な発行物であれば権利関係は市で管理できるので、ヤレ紙を利用して再び市の印刷物に転用できるのでは」と、職員の名刺からスタートすることとなった。初期段階では名刺のみの作成予定だったが、「環境イベントや来年の20歳の集いで配布する封筒も作り、若者世代へ訴求するのはどうか」という積極的な意見も出た。
クリエイティブスタジオROLEと高岡市の、ヤレ紙を利活用した取り組みに注目だ。
ROLE HP:https://www.role.ne.jp
(さえきそうすけ)