生成AIで授業中の学びをリアルタイムに可視化し、そのまま評価へ。教員の負担を減らす「指導と評価のサイクル」を実証し、教育コンテンツのOSS化の第一歩を踏み出す

【図1:授業風景(生徒がタブレットで取り組み、教員が手元の端末を見ながら机間指導する様子)】
Polaris.AI株式会社(本社:東京都港区、代表取締役CEO:徳永優也)は、文部科学省「N-E.X.Tハイスクール構想」(※1)の指定校である公立の高等学校とともに、2026年9月、生成AIの活用を前提とした新しい指導・評価の実証を、物理の授業で実施したことをお知らせします。
本実証では、授業の中だけで完結しない、N-E.X.Tハイスクールが目指す新しい学びのかたちを、実際の授業で検証しています。生徒は生成AIと対話しながら自分のペースで演習に取り組み、教員はクラス全体の理解状況をリアルタイムに把握。授業中の学びの記録はそのまま評価・振り返りに接続され、教員の負担を減らしながら「指導と評価のサイクル」を回すことに取り組んでいます。
背景:生成AI時代の「新しい指導のかたち」は、まだ確立されていない
GIGAスクール構想(※2)で1人1台端末の環境が整い、N-E.X.Tハイスクール構想をはじめ次世代の高校教育のモデルづくりが全国で始まっています。一方、指導の現場には3つの構造的な課題が残っています。
1. 生成AIを前提とした指導・学びの「型」が定まっていない。調べ学習や要約といった補助的な使い方は広がる一方、学びの中心である「考え、学び合う」時間にAIをどう組み込むか、確立した学校はほとんどありません。
2. 授業中に生徒一人ひとりの状況が見えない。教員は机間指導に頼らざるを得ず、誰がどこでつまずいているかを経験と勘で判断しています。
3. 授業中の学びのプロセスを評価に接続できない。観点別評価で多面的な評価が求められる一方、プリントの回収・採点・記録の手間が大きく、解答に至る過程は残せていません。
Polaris.AIは、これらの課題に正面から向き合い、授業から評価までを円滑に行う、生成AIを前提とした新しい指導のかたちを実際の教室でつくる取り組みを進めています。
(※1)文部科学省が2040年を見据えて推進する高校教育改革構想。各都道府県に改革を先導する拠点校を創出し、地域や産業界・大学等と連携しながら教育内容や学習環境を改革。その成果・ノウハウを地域全体の高校へ波及させることを目指す。
(※2)生徒に1人1台の学習用端末と校内の高速通信環境を整備する、文部科学省が進める教育政策。
今回の実証内容
「授業中の個別演習支援」「教員のリアルタイム状況把握」「授業ログの評価への接続」を実装したシステムを、物理の授業で検証しました。
生徒側(タブレット端末)
・ 解答をプリントに記述して写真で提出。AIが即時に採点し、フィードバックを返す
・ つまずいた生徒には、答えではなく解答内容に応じた段階的なヒントを提示
・ 解き終えた生徒には達成度に応じて分岐する次の問題を出題し、各自のペースで学習を進行
終盤はグループワークに接続し、個人で考えたことを教室での議論・学び合いへ展開

【図2:生徒画面──解答を撮影して提出すると、AIが採点し、解き方に合わせたアドバイス・ヒントを返す】
教員側(ダッシュボード)
・ クラス全員の状況(取組中・不正解・正解)と提出状況を一覧でリアルタイムに把握
・ 誰が・どの問題でつまずいているかを確認し、声をかけるべき生徒を判断
・ 全体の正解傾向から、個別対応から全体説明へ切り替えるタイミングを判断
・ グループワークでは各班の提出状況や、生徒ごとの解答をその場で確認
・ 全生徒の解答・ヒント利用・進捗が自動記録され、授業後の評価・振り返りに活用

【図3:教員が、クラス全体の提出・正解状況が一覧化されたダッシュボードを確認しているシーン】

【図4:グループワーク画面──各班の課題提出状況と、各生徒のプリントを教員が確認できる】
実証授業の様子と成果
本実証において授業は問題なく進行し、生徒は初めて使うシステムにも抵抗なく順応したとの評価を学校側いただきました。また、実証を通じて、以下の効果が確認されました。
教員の指導行動が、データに基づいて変わった
担当教員からは「生徒がどこでつまずくかがすぐわかる。例えば全体的に間違いが多い問題があれば、その場で全体に教えるなど行動を変えられた」との声が得られました。机間指導では見えなかったクラス全体の傾向が可視化され、授業中の方針や意思決定が変わることが確認できました。
AIのヒントが、個々の生徒に合わせて機能した
担当教員は「想定していたよりもAIがかみ砕いて、その子に合わせたヒントを出していた」と評価。生徒からも「普段のAIはいきなり答えを出すが、なぜそうなるのかを考えられるよう導いてくれた」「ヒントを見て公式を思い出し、自分で解けた」などの声がありました。
採点・記録の時間削減 - 1授業あたり約40分、年間で教員1人あたり約190時間の削減可能性(試算)
従来、演習プリントの評価には、回収・採点(1人約1分×29名)・成績記録・返却で1クラスあたり約40分を要していました。本システムでは解答・採点結果・取り組みの過程が授業中に自動記録されるため、この作業がほぼ不要になり得ます。週8コマ・年間35週を担当する教員なら、年間で約190時間(勤務日換算で約24日分)の削減となる試算です。これは理論値であり、実証で示されたのはその可能性ですが、担当教員からは「浮いた時間で振り返りや評価ができる。教員に余白が生まれる」との評価を得ています。単なる時短にとどまらず、これまで手間の大きさから難しかった生徒における授業中の学びのプロセス評価が、追加負担なく可能になる点が本質的な変化と捉えています。
(試算)1授業40分×週8コマ×年間35週=約187時間として試算した理論値。削減幅は担当コマ数・演習頻度・運用方法により異なります。
担当教員のコメント
初めて使いましたが、画面がわかりやすく、生徒も抵抗なく使っていました。進捗が可視化されることで、早く終わっている生徒に気づいたり、多くの生徒がつまづいている部分をもとに、効果的に解説することができました。授業中に行動を変えるための情報と、授業後に評価へ活かす情報の両方が残る。これは教員にとって非常に価値があると感じています。
Polaris.AIが目指す世界像 ── 生成AIを前提とした新しい学校
今回の実証は、Polaris.AIが構想する「生成AIを前提とした新しい学校像」の第一歩です。私たちは、生徒のあらゆる学びの活動をデータとして蓄積し、データドリブンで個別最適な指導・評価を実現する生成AIデータ基盤の構築を目指しています。

【図5:構想図「生成AIを前提とした新しい学校像」】
取得するデータを、テストの点数から、授業の中へ、そして学校生活全体へ
生徒の力や成長の過程はテストの点数だけに表れるものではありません。学校の授業の中には、解答内容、やり直しの回数、AIとの対話、グループでの発言など多くのデータがあり、今回の実証は、こうした学びのプロセスを教員の負担を増やさず残せることを示しました。さらに、部活動・面談・学校行事など「授業の外」の記録も、同じ基盤で情報を構造化できれば、生徒を多面的に理解し総合的な評価につなげることが可能になります。
今後のステップ
1 授業の中の学びを、さらに深める:AIとの対話・AI活用をブラッシュアップし、グループワークの議論音声などにも活用を広げ、発言の少ない生徒の貢献も含めてクラスの学びを立体的に捉えます。
2 授業の外から、情報を獲得する:部活動・面談・学校行事などの情報や記録を教員の負担なく取得・構造化し、多面的な評価と個別最適な指導につなげます。
3 学校を越えて、繋げる:優れた授業設計・教材・実践知があれば、AIを通して他校が再利用できる形で学びの記録を共有します。学校を越えた連携により、教育の質を底上げするインフラになります。

【図6:構想図「一人の学びを人生分記録し、全国の実践知を循環させる」】
いずれのステップでも、生徒たちが同じ教室で学ぶからこその対話や学び合いを最大限に生かしていくことを、設計思想の中心に置き続けます。
教育領域におけるPolaris.AIのこれまでの取り組み
Polaris.AIは、個別化指導の領域となる特別支援・特異な才能の領域において、教員と生成AIの協働に取り組んできました。
2025年度には、静岡県教育委員会とともに、モデル校6校(教員約500名規模)において、特別支援の「個別の指導計画」作成を生成AIが支援する実証を実施し、教員の負荷軽減と指導力向上につながることを検証しました。本年度からは、特異な才能のある児童生徒の理解と指導を支援するアプリケーションの開発にも取り組んでいます。
これらの取り組みは政策の場でも注目され、2026年4月には自民党デジタル社会推進本部「AI・Web3.0小委員会」にて、「教員と生成AIの協働で教育をアップデートする」をテーマに実証成果と政策提言を発表しています。
Polaris.AIの目指す世界観:AIネイティブな指導と教育コンテンツのOSS化へ

【図7:Polaris.AIが教育業界に置いて目指す世界】
生成AIの台頭により、あらゆる業界で「AIネイティブな組織・業務」への転換が求められており、教育業界も例外ではありません。「教育・指導のあり方」をどうAIネイティブなものへ変えていくのか、具体的な像を描き、実際に動かしていく必要があります。Polaris.AIは、AIネイティブな教育・指導のひとつの形として、今回の実証で示した「指導と評価が一体化した授業」を起点に、教員が作成した授業・プリント・問題といった指導コンテンツと、その教え方そのもののOSS化(※3)を目指しています。
OSS化が実現すれば、生徒の評価のために記録した事実が、そのまま授業自体の評価となり、指導に用いたコンテンツとともに公開されます。教員は、校内や県内、あるいは日本のどこかで行われた授業の内容をダウンロードし、自分の授業に活かせるようになります。研究や開発の領域を発展させてきたOSSの文化を教育現場に持ち込むことができれば、働き方改革にとどまらず、日本全体の指導力向上につながります。Polaris.AIは、N-E.X.T.ハイスクール構想を通じて、教育コンテンツのOSS化を推進していきます。
OSS化においては、著作権の帰属の問題や生徒情報の扱いなど、多くの論点が存在しています。一筋縄では進められないテーマではありますが、生成AIで大きく世の中が変わるこのタイミングで、教育業界に必要な取り組みを進めていければと思っています。
(※3)ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを無償で公開し、誰でも自由に利用・修正・再配布できるようにすること。
Polaris.AI株式会社について
Polaris.AI株式会社は、東京大学松尾研究室発のスタートアップ(※4)です。「AI時代の羅針盤(Polaris)になる」というビジョンのもと、製造業・インフラ・官公庁を中心に、間違いの許されないMission Critical領域におけるAIの社会実装を推進しています。
機械学習・アルゴリズム・ロボティクス・セキュリティ・大規模システム開発・産業ドメインにわたる専門性を持つ研究者・エンジニアが集結し、課題の見極めから技術選定・開発・本番運用まで、多数のAIプロジェクトを一気通貫で手がけてきました。主な事業は以下のとおりです。
・ オーダーメイドAI開発
確立した解き方のない固有課題に対する、設計から現場定着までのAI開発
・ AI導入・活用コンサルティング
経営アジェンダとしてのAI戦略策定から、全社への定着・内製化まで
・ 研究開発支援/共同研究
ロボット基盤モデル(VLA)、エッジAI、AIセキュリティ等の先端領域における研究開発
私たちは、デモの場で動くAIではなく、現場で使われ続けるAIを届けることを信条とし、お客様の競争力と社会の基盤となる成果の実現に取り組んでいます。
(※4)松尾研発スタートアップとは、松尾研出身者が創業または松尾研の支援を受け創業された企業の内、技術・事業力共に成長可能性が認められ、且つ松尾研の理念に共感し共に後進の育成に取り組む、選抜されたスタートアップ企業群です。(登録商標第6667237号、第6710069号)
社名:Polaris.AI株式会社
所在地:東京都港区虎ノ門 2-2-1 住友不動産虎ノ門タワー13階
代表者:徳永 優也
URL:https://polarisai.co.jp/