ライオン株式会社(代表取締役兼社長執行役員:竹森 征之)は、毛髪に関する研究から、高濃度ポリオール(イソペンチルジオール)と脂質成分(イソステアリン酸)の併用により、ダメージ毛(※1)において高湿度環境下での毛髪の広がりを効果的に抑制できることを見出しました。これは、イソペンチルジオールの浸透補助作用によって、脂質成分が浸透しにくい洗髪後の濡れた状態でもイソステアリン酸を毛髪内部へ効率よく届けるとともに、その作用により毛髪の水分吸着および膨潤が抑制されたためと推察しています。本成果は、第3回 日本化粧品技術者会学術大会(2025年12月8日~10日/於:神奈川県)にて発表しました。
(※1) ダメージ毛:ヘアカラー、ブリーチ、パーマなどの化学処理によってタンパク質や脂質が流出した毛髪
■研究背景
ダメージ毛は化学処理を繰り返すことで、毛髪内部の構造が変化し、“スカスカ”な状態になることが知られています(※2)。この“スカスカ”な状態とは、内部の細胞同士をつなぐ細胞膜複合体(CMC)と呼ばれる部位の脂質が減少し、外部からの水分侵入を抑えているバリア機能が低下した状態をさします。このような状態になった毛髪は、内部に水分を取り込みやすくなり、高湿度環境下では毛髪が膨潤しやすく、広がります。

図1.毛髪断面とダメージ毛内部の状態
ダメージ毛の内部環境を改善するためには、減少した脂質を補うことが重要であり、脂質成分としてイソステアリン酸(IS)の毛髪内部への導入を検討しました。しかし、ISは水になじみにくい性質をもち、また洗髪後の濡れた状態では希釈されやすいため、毛髪内部に効率よく浸透させることは難しいと考えられます。そこで本研究では、「水にも油にもなじみやすい」特性を持つイソペンチルジオール(IPG)に着目し、IPGがISを毛髪内部へ運び込む“媒体”として機能するか確認しました。
さらに、モデルダメージ毛束(※3)を用いて、トリートメント(TR)処理のみした条件と、「IPG/ISモデル処方(※4)」とTRを併用した条件で実験を行い、毛髪内部へのIS浸透量と、湿度変化に伴う毛髪の広がりを評価しました。
(※2) 西田勇一ほか,フレグランスジャーナル,2002,30(8),33-41.
(※3) パーマ1回、ブリーチ2回を施した毛束
(※4) IPGとISを併用したモデル処方
<毛髪内部の拡大図>

図2.「IPG/ISモデル処方」の作用想定メカニズム
■研究結果
1. 「IPG/ISモデル処方」中の IPG配合濃度による毛髪内部へのIS浸透量の変化
IPGの配合濃度を変えて毛髪内部へのIS浸透量を評価した結果、「IPG/ISモデル処方」中のIPG が40%以上の高濃度で、IS 浸透量が増加する傾向が確認されました(図3)。

図3.IPG配合濃度とIS浸透量の関係
試験条件:モデルダメージ毛束を洗髪後、「IPG/ISモデル処方」とトリートメントを使用、
すすぎ・乾燥を7回繰り返し、毛髪内部への IS浸透量を測定し、算出(n=3)
続いて、毛髪内部へISが浸透していることを確認するため、「高濃度IPG/ISモデル処方」に浸した後の毛髪の断面を観察しました。ダメージによりスカスカな状態となった毛髪内部の隙間やCMC周辺にISが浸透している様子が確認できました(図4)。以上の結果から、「高濃度IPG/ISモデル処方」は、毛髪内部へISを浸透させることに有効であり、IPGがISを毛髪内部へ運びこむ媒体として機能している可能性が示唆されました。

図4.毛髪内部におけるIS浸透の様子(赤色領域ほどISの存在比率が高い状態を示す)
試験条件:モデルダメージ毛束を「高濃度IPG/ISモデル処方」に24時間浸し、毛髪を切断して断面を観察。
処方中のISに目印(安定同位体)をつけておき、「nano-SIMS」を用いてISの分布を確認
2. 湿度と毛髪の水分吸着量、および毛髪の広がりの関係
モデルダメージ毛束に対する処理条件を変え、異なる湿度環境下での毛髪の水分吸着量を評価しました。未処理やIS単独処方で処理した毛束と比較して、「高濃度IPG/ISモデル処方」で処理したモデルダメージ毛束では毛髪の水分吸着を抑えられており、特に70%RH以上の高湿度条件下での水分吸着が抑制されていることがわかりました(図5)。

図5.処理条件の違いによる水分吸着量の変化
試験条件:モデルダメージ毛束を各処方に24時間浸した後、すすいで乾燥。
異なる湿度の環境におき、毛束の重量変化から水分吸着量を算出(平衡値を採用) (n=1)
また、高湿度環境下(80%RH)で毛束の見た目を比較したところ、「高濃度IPG/ISモデル処方」で処理した毛束では、TRのみ処理した場合と比べて毛髪の広がりが有意に抑制されることがわかりました(図6)。

図6.高湿度環境下での毛束の広がり抑制
試験条件:モデルダメージ毛束を用いて洗髪後、塗布・すすぎ・乾燥を7回繰り返し、高湿度(25℃80%RH)での広がりを比較。(n=3)
以上の結果から、高濃度のIPG と IS を併用したモデル処方で処理することで、毛髪が水分を吸着しにくくなり、高湿度下でもしっかりと毛髪の広がりを抑えることがわかりました。これは、高濃度のIPGが媒体となってISが効率よく毛髪内部へ浸透しやすくなり、毛髪への水分吸着が抑制されたためと推察しています(図2)。
今回、高濃度IPGを併用することでISが効率よく毛髪内部に浸透し、ダメージ毛内部の“スカスカ”な状態を改善できることがわかりました。脂質成分を補うことで、毛髪内部の光の反射を抑え、髪のツヤ感が改善されることも期待できます。今後は、本知見を活用して、毎日のヘアケアで健やかな髪の美しさを引き出し、QOL(生活の質)向上に貢献する製品開発を進めてまいります。
【第3回 日本化粧品技術者会学術大会】
〇期間 2025年12月8~10日
〇場所 パシフィコ横浜ノース(神奈川県)
〇演題 高濃度ポリオールと油性成分からなる浸透美容液の毛髪補修効果
〇発表者 ライオン株式会社 折原 洋一、畑 敬士、中村 天馬、尾山 泰聖、加藤 佐和子、宇賀 道子
本研究の一部は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号:JPMXP12 25UT0178)の支援を受けました。