高性能な先端半導体製造プロセスの歩留まり向上に寄与します
NEDOは、委託事業である「省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業」(以下、本事業)の一環として、半導体製造装置の高度化に取り組んできました。このたび、株式会社ニコンは、先端半導体製造の精度を向上させるため、ウェハの位置・方向(ひずみやずれ)を正確に測定することが可能なアライメント計測システムの高精度化を実現し、次世代計測システムに必要な要素技術を確立しました。
また、ニコンは本事業で開発した技術の一部を搭載したアライメントステーション「Litho Booster 1000」を製品化し、受注を開始しました。これにより、省エネルギー化の鍵となる先端半導体の製造基盤の強化および製造プロセスの歩留まり向上による製造コストの低減に貢献します。

図1 アライメントステーション「Litho Booster 1000」の外観
1.背景
産業のIoT化や電動化の進展に伴い、電子機器に搭載されている半導体は、高性能化とともに省エネルギー化が求められています。半導体デバイスの高性能化・省電力化のため、デバイスの微細化・高集積化と、複数の半導体ウェハやチップを垂直方向に積み重ねて一体化する三次元積層化が進められており、高度な半導体製造技術が必要となっています。また、ウェハ間やデバイス間を接続する電極数の増加や細線化に伴い微細なパターン同士をより高精度に重ねる必要があるため、加工するウェハの位置・方向を高い精度で効率よく測定することが求められています。
このような背景の下、NEDOは、半導体製造装置の高度化に向けた開発事業の一環として2021年度から本事業※1でウェハの位置・方向を測定する「アライメント計測」の高精度化をニコンと共同で進めてきました。
アライメント計測の精度を向上させる手段として、目印となるアライメントマーク※2をウェハ上に高密度に配置し、高頻度に計測を行うアプローチがあります。しかし、アライメントマークを高密度に配置するためにマークを小型化したりマーク間隔を狭くしたりすると、計測時に得られるコントラストの低下を招き、検出精度が劣化するという根本的な問題を抱えています。また、アライメント計測の高密度化・高頻度化は計測時間の増大やデータ処理量の増加を招くため、生産性を損なわないために高速な計測が必要です。
さらには、製造プロセスによってはアライメントマークが常に表層に存在するとは限らず、光透過性が低いカーボン系ハードマスク※3や多層に積層したシリコンウェハの下層にあるマークを検出しなければならない場合があります。この場合、検出光の散乱や吸収によりアライメントマークからの戻り光が大幅に減衰するため視認性が低下し、従来の計測システムでは十分な検出感度や位置精度の確保が困難であることが課題でした。
2.今回の成果
(1)新光学系の開発
高い空間分解能を確保しつつ、可視域から近赤外域※4までの広帯域光に対しても色収差※5を効果的に抑制できる新しい光学系を開発しました。微細なアライメントマークの検出および厚膜シリコン越しのアライメントマーク視認性を評価したところ、いずれも目標として設定した仕様を満たすことを確認しました。
(2)高出力ワイドバンド光源の開発
従来よりも高出力化したワイドバンド光源を開発しました。本アライメント計測システムの用途として想定される各種材料の光学的特性およびアライメント検出カメラの性能に基づき、光源に必要な仕様を決定しました。実際に作製した光源の単体評価により、設計した仕様に合致することを確認した後、アライメントマークの視認性を評価しました。その結果、微細ピッチマークの視認性および検出精度の向上を確認するとともに、厚膜シリコン越しの下層マーク検出が可能であることも確認しました。
(3)高精度アライメント計測システムの実証
上記(1)および(2)で開発した要素技術を統合し、これらのハードウエアを駆動・最適化する制御系および計測ソフトウエアからなる高精度アライメント計測システムを設計・製作しました。このシステムの全体性能を検証した結果、精度、再現性およびスループットについて目標仕様を満たし、最先端半導体製造工程において実際の運用に使用可能であることを実証しました。
3.今後の予定
ニコンは、本事業で開発した技術の一部を搭載したアライメントステーション※6「Litho Booster 1000」を製品化し、受注を開始しました。本製品は従来機種よりも計測精度が約35%、スループットが約10%向上しており、先端半導体の製造基盤の強化や製造プロセスの歩留まり向上による製造コストの低減に貢献します。なお、「Litho Booster 1000」に搭載しなかった要素技術についても、市場動向と顧客ニーズをモニタリングしながら、後継機種への段階的な実装を念頭に置いて開発を継続します。
【注釈】
※1 本事業
事業名:省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業/半導体製造装置の高度化に向けた開発/高精度アライメント計測システムの研究開発
事業期間:2021年度~2025年度
事業概要:省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100192.html
※2 アライメントマーク
アライメント(位置合わせ)を行うための目印となるパターンのことです。
※3 カーボン系ハードマスク
半導体の微細加工工程で用いられるエッチング用の下地膜のことです。高いエッチング耐性を持つことから、微細化した回路線幅を形成する先端半導体の製造時に、フォトレジストの代用として用いられています。
※4 近赤外域
シリコンは可視光を吸収しますが、近赤外光はほとんど吸収しないため、シリコン膜下の透過観察に近赤外光が用いられます。
※5 色収差
レンズを通して光を集める際、光の波長によって屈折率が異なるため、像に色ズレやにじみが生じる現象のことです。
※6 アライメントステーション
半導体製造において、露光プロセス前にウェハのゆがみを高速かつ高精度に計測し、その補正値を露光装置にフィードフォワードする装置です。これにより、高生産性を維持しながら、高精度な重ね合わせ露光の実現に貢献します。