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国立大学法人千葉大学

高齢者の社会参加を促すアプリの効果を実証~2ヶ月間の社会参加頻度が約3回増加~

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 千葉大学予防医学センター 河口謙二郎特任助教、中込敦士准教授、近藤克則特任教授らの研究グループは、60歳以上の高齢者を対象に、高齢者の社会参加を促進するアプリの効果を検証するランダム化比較試験(注1)を実施しました。参加者は社会参加を促すアプリの利用群(87名)と非利用群(94名)にランダムに割り当てられ、介入群は12週間にわたってアプリを使用しました。
 検証の結果、主要評価項目である過去2ヶ月間の社会参加頻度が、約3回増加しました。
 本研究結果は、国際医学雑誌Journal of Medical Internet Researchに2024年9月30日に掲載されました。

■研究の背景
 高齢者の社会参加は、身体的・精神的健康や認知機能、生活の質の向上に重要な役割を果たすことが知られています。しかし、加齢に伴う社会的なつながりの喪失や健康上の問題により、社会参加の機会は減少する傾向にあります。
 一方で、近年ではスマートフォンアプリを活用した健康増進の取り組みが注目されています。総務省の調査によると、日本では70歳以上の高齢者の60%以上がスマートフォンを所有しており、アプリを活用した介入の可能性が高まっています。しかしながら、高齢者の社会参加を促進するアプリの効果については、これまで十分な科学的検証が行われていませんでした。

■研究の概要
 60歳以上の高齢者(日本語を話す高齢者で、日常的にスマホやLINEを使用している、要介護認定を受けていない方)を対象に、社会参加を促進するアプリの有効性を検証するため、12週間のランダム化比較試験を実施しました。参加者は、社会参加を促進するアプリの利用群と非利用群にランダムに割り当てられ、介入群は12週間にわたってアプリを使用しました。
 アプリ利用群は、歩数データ取得のためにGoogle Fitをインストールし、さらに社会参加促進アプリもインストールしました。一方、アプリ非利用群はGoogle Fitのみをインストールしました。効果を検証するために、研究開始時と研究終了時(研究開始85日後)の2回にわたり、アンケート調査の実施と歩数データの取得を行いました。

研究の主要評価項目は、以下2つです。
(1)過去2か月間の社会参加頻度の変化
(2)週間平均歩数の変化

 (1)については、「過去2ヶ月間に、以下のグループや活動にどのくらいの頻度で参加しましたか?」と質問し、参加者はボランティア、スポーツ、趣味、文化クラブ、サロン、その他の6種類のグループ活動への参加頻度を回答しました。この6種類の活動の頻度を合計し、研究開始時と研究終了時の差を過去2ヶ月間の社会参加頻度の変化と定義しました。
 (2)については、アプリ利用群とアプリ非利用群の両方でGoogle Fitを使用して参加者の歩数を測定しました。Google Fitで記録された歩数データを基に、各参加者の1日あたりの歩数の週平均を計算しました。 

また、副次的評価項目は、以下3つです。
(1) 過去2ヶ月間の各活動(ボランティア、スポーツ、趣味、文化クラブ、サロン、その他の活動)における社会参加頻度の変化
(2)過去1ヶ月間の週当たりの外出頻度の変化
(3)幸福感、生活満足度、生きがい(0-10で評価、高得点ほど良い)

2022年10月から2023年8月にかけて参加者を募集し、合計181名が研究に参加しました。参加者は、研究に参加した時点でアプリ利用群(87名)とアプリ非利用群(94名)にランダムに割り付けされましたが、アプリ利用群の2名が健康上の理由から研究の参加同意を撤回したため、最終的な研究参加者は179名となりました。うち、研究終了時のアンケートに回答した者はアプリ利用群80名、アプリ非利用群85名、総計165名(追跡率92.2%)でした。また、179名の参加者のうち、155名(86.6%)が12週間中に少なくとも1回は1日の歩数を記録しました。過去2ヶ月間の社会参加頻度の変化、週間平均歩数の変化の評価は、それぞれ165名、155名を対象としました。

■研究の成果
 本ランダム化比較試験を実施した結果、アプリ利用群は過去2ヶ月間の社会参加頻度が約3回増加することが明らかになりました。中でも、趣味活動と学習・教養活動で有意な増加が認められました。もう1つの主要評価項目の歩数については、群間で有意な差は見られませんでした。

■今後の発展・展望
 本研究により、社会参加を促進するアプリが高齢者の社会参加、特に趣味や文化的活動への参加を促進する効果があることが示されました。これは、スマートフォンアプリが高齢者の社会参加を促す有効なツールの1つとなる可能性を示唆しています。今後は、アプリの長期的な利用に関する効果の検証が求められます。

■用語解説
注1)ランダム比較試験:参加者をランダムに(意図的ではない)2つの群に分け、新しい介入方法の効果を検証する最も信頼性の高い研究方法の1つ。群分けを無作為にすることで、年齢や性別などの特徴が均等に配分され、純粋な介入効果を測定することができる。

■研究プロジェクトについて
本研究は、JST RISTEX(JPMJRS22B1)の支援を受けたものです。

■論文情報
タイトル:Effects of a Mobile App to Promote Social Participation on Older Adults: Randomized Controlled Trial
著者:Kenjiro Kawaguchi, Atsushi Nakagomi, Kazushige Ide, Katsunori Kondo
雑誌:Journal of Medical Internet Research
DOI:10.2196/64196

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