布施駅北側、ブランドーリのアーケードを歩くと、不意に視界の隅に赤い文字が灯る。白地の暖簾に染め抜かれた「花月寿司」の文字。そして横には、年季の入った出前自転車。のれんの向こうから聞こえてくる「へいっ!いらっしゃい!」の声が、通りの空気を少しだけやわらかくする。
観光でもグルメサイトでもない、でも確かに“うまい寿司屋”が、ここにはある。

暮らしの風景に、寿司屋が溶けている
布施駅の北口を出て、ブランドーリ1番街のアーケードを抜ける。パチンコ屋の明かり、焼鳥の煙、道端の立ち話──そんな布施らしいざわめきの中に、ひときわ落ち着いた存在感で佇むのが「花月寿司」だ。

のれんを見つけたときから、すでに空気が変わる。出前箱を積んだ黒い自転車と、それを押す職人の姿。もうそれだけで、ここが“ちゃんと続いてきた場所”だとわかる。
観光客の足ではなく、日々の暮らしに根ざした、まちの寿司屋。
「へいっ!いらっしゃい!」に、空気ごと包まれる

のれんをくぐると、大将の声が店中に響く。
「へいっ!いらっしゃい~~~!」
という威勢のいい一声に、カウンターの空気が揺れる。それだけで、客も店も、ちょっと笑顔になる。

店内は奥に細長く、木のカウンターと小さなテーブル席。壁には木札で書かれた品書きが並び、水槽には今夜のネタたちが静かに泳いでいる。肩肘張らず、だけど手は抜かない。そんな空気が、椅子に座るだけで伝わってくる。
にぎわいごと味わう“正しい寿司屋”
この日は一人で晩酌をする男性、家族で楽しむグループ、隣のテーブルでは夫婦らしきふたりが静かにグラスを傾けていた。みんな違うテンポで、でも同じ空気を分け合っている。
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ここには「しっぽり」は似合わない。にぎやかさも、寿司のうち。
ネタは毎日変わるけれど、注文に迷ったら「上にぎり」(1,580円)が正解。まぐろ、はまち、たい、えび、いくら、うなぎ──すべて一貫ずつ、握りも大きめ。ハケで軽くたれを塗る大将の所作にも、年季が滲む。
茶碗蒸しは出汁の香りがふわりと立ちのぼり、8種の具もごろっとして食べ応えがある。

赤だしを添えて、チューハイを一杯。赤だしは、あさり、魚、卵から選べるのも嬉しいところ。どれを選んでも、寿司の余韻をふわりとやさしく包んでくれる。
寿司は、好きなものから食べればいい
順番なんて、気にしない。好きなものを、好きな順で食べればいい。芽ネギから入っても、うなぎで締めても、誰も気にしない。ここでは“お作法”よりも、“食べたい気持ち”が正解になる。
だからこそ、誰にとっても「いい寿司屋」でいられるのかもしれない。
評価じゃなく、信頼で続いてきた

この店には、誰かに評価されるためじゃなく、まちと一緒に時を重ねてきた確かな「信頼」がある。
特別な日に行く場所じゃなくて、気がつけばまた戻ってきている──そんな店。

のれんをくぐれば、大将の声と、いつものカウンター。そして、食べたかったものが、いつものように目の前に並ぶ。
うまい、だけじゃない。あたたかい、懐かしい、気持ちがほどける。そういう全部が、ここにはちゃんとある。
布施で「寿司が食べたい夜」に

布施の夜は、ちょっと雑多で、ちょっとあったかい。そのなかで「花月寿司」は、ひとつの定点のように存在してる。ふらっと一軒目に。飲んだ帰りの締めに。どこに置いてもしっくりくる。

寿司屋って、もっと構えた場所だと思ってた。けど、ここに来るとちょっと考えが変わる。ああ、寿司って生活の中にあっていいんだ、と。
「寿司、いこか」そんな一言の先に、この店を思い出せる自分でいたい。

SEKAI HOTEL Deep Osaka Experience(SEKAI HOTEL 大阪布施)
東大阪・布施商店街の空きテナントを客室にリノベーションし、近隣の飲食店や銭湯での”日常”を旅の一部として楽しむ「まちごとホテル」。観光地では味わえない、まちの日常の魅力を発信しています。
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