経験の保存で終わらせない。国内外の研究・企業事例を踏まえ、ベテランの経験を「判断を学べる材料」と「判断を経験する仕事」へ変える方法を整理
AI時代の経験継承で問われるのは、ベテランの知識をどれだけ保存できたかだけではない。次の人が、その経験を手掛かりに、自分で事実を確かめ、条件に応じて判断できる仕事までつくれたかである。
980社・33.8万人の働く人のデータを基盤に、組織行動科学(R)の研究・教育開発を行うリクエスト株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役:甲畑 智康)は、『ベテランこそAIを使い、次世代の判断を育てる』の図解版全24枚と、研究の詳細・適用限界・参考文献を収録した詳細版の研究レビュー・実務提案を公開しました。
本資料は、経験継承を「知識を保存する」「必要な答えを探せるようにする」という取り組みだけで捉えず、その知見を使う人に、どのような判断の学びが残るのかまで扱うものです。
国内外の研究と企業の公開事例を参照し、ベテランがAIを使って経験を具体化する方法、人が内容を検証する条件、学習材料への構成、実際の仕事での活用と評価を整理しました。
図解版は論点を共有する入口として、詳細版は自社への適用を検討するための資料として構成しています。本リリースでは、その中から5枚を紹介します。

引き継ぎ用のAIが整った後に、何を確かめるか
必要な情報を検索できる。過去の対応例を参照できる。AIから回答案を受け取れる。
それでも、「この案件に、その回答を使ってよいか」という確認が、同じベテランに集まり続けるとしたら、何を見直す必要があるでしょうか。
本資料では、情報の量だけでなく、使う人が、回答を採用する条件や、立ち止まる条件を学ぶ機会があったかを点検します。
これは、AIによる学習の可能性を否定するものではありません。Brynjolfsson, Li & Raymond(2025)「Generative AI at Work」では、AI導入群・未導入群を含む5,172人の顧客対応データを分析し、AI支援へのアクセスによる業務成果の改善に加え、利用者の学習と整合する結果も報告されています。ただし、特定企業の顧客対応業務を対象とした研究であり、その結果を、あらゆる職種や条件の異なる仕事へそのまま一般化することはできません。
だからこそ、AIを導入したことをもって育成の成果とせず、何ができるようになったかを、仕事の中で確かめるという視点が必要になります。

「ノウハウをすべて教えてください」以外にも、経験を明らかにする入口がある
自分では当然のように行っている確認や調整を、最初から漏れなく説明するのは容易ではありません。
そこで本資料では、具体的な一件を振り返ることに加え、AIがつくった業務の流れや確認項目の暫定案を、経験者が検討する使い方を取り上げています。
問いは、「あなたは何を知っていますか」だけではありません。
「この案のままで、実際の仕事は成立するでしょうか。」
その検討から、説明されていなかった前提や、条件によって変わる確認の仕方を明らかにしていきます。富士通の公開事例にも、AIの出力との違いを手掛かりに、明示されていなかった業務知識を言語化・体系化した過程が紹介されています。これは実装上の参考となる事例であり、次世代の判断力向上を直接検証した報告ではありません。
本資料でいうベテランは、年齢ではなく、対象領域で確認・判断・実行・検証を重ねてきた人を指します。経験継承におけるその役割を、答えを提供することだけでなく、次の人が学ぶために必要な条件を明らかにすることへ広げます。

「本人がそう説明した」だけでは、確認が終わらない
AIを使った経験の聞き取りでは、AIが出力した内容を確認するだけでは十分でない場合があります。
例えば、本人がまだ理由を述べていないのに、AIが「品質リスクを感じたから、別の部署へ確認したのですね」と問いかける。この質問には、すでに一つの理由が含まれています。
その後に得られた説明は、本人が当初から覚えていたことなのでしょうか。それとも、対話の中で提示された見方が加わったのでしょうか。
Chan et al.(2024)「Conversational AI Powered by Large Language Models Amplifies False Memories in Witness Interviews」では、200人を対象とした模擬的な目撃証言課題において、誤情報を含む誘導質問を用いた生成AIチャットボットとの対話条件で、誤記憶が増える結果が報告されています。ただし、これは模擬的な目撃証言を対象とした研究であり、企業のベテランへの経験の聞き取りで同じ効果が起きることを直接検証したものではありません。
本資料は、この点をAIの誤回答を見抜く問題だけでなく、聞き取りの進め方を設計する問題として扱います。
よくまとまった経験談を完成させることより、どこから説明が加わり、何が確認でき、何が未確認なのかを追える状態を重視します。詳細版には、過去の一件を確認する作業と、現在の仕事に使う暫定案を検討する作業を分けた、二種類のAIへの依頼文を収録しました。

経験を教材にするとは、最終回答を詳しく説明することだけではない
例えば、「納品を一週間早めてほしい」という依頼への対応経験を、「前倒しの理由を聞くことが大切」という心得にまとめたとします。それを読んだ人が、その言葉を覚えることと、次の案件で必要な確認を選べることは、同じでしょうか。
詳細版のレビューでは、この納品前倒し依頼を仮想例として、学ぶ人に、いつ、どの情報を提示し、何を選んでもらうかまで具体化しています。
当初の依頼だけを見て、次の確認を選ぶ。その後、実際に行われた確認の道筋と照らし合わせる。さらに、条件を変えた練習用の案件で、同じ確認だけで十分かを考える。そのように、学ぶ人自身が判断する場面を構成します。
必要な知識が足りない場合には、説明や見本を先に示します。最初から一人で考えさせることを原則にはしません。熟達者の思考を見える形にし、実践を支え、習熟に応じて支援を減らす考え方は、認知的徒弟制でも重視されています。
そのうえで、実際の仕事では、本人が判断できる範囲、使える情報、相談先、結果を確認する機会を整えます。教材をつくる担当者と、仕事を任せる担当者がつながることも、この取り組みの対象です。

過去の経験を、現在の正解として固定しない
次世代へ渡す前に、ベテラン自身が、以前の判断を成り立たせていた条件が現在もあるかを確かめる必要があります。
相手の仕事が変わっている。関係する工程が増えている。従来の完成形では、現在の課題を十分に扱えない。その場合、過去の答えを明確にするだけではなく、見方や問いを捉え直すことも求められます。
本資料では、この働きを、当社が提案するアート思考に接続しています。仮に形にし、素材・他者・状況との応答から、見方・問い・価値仮説をつくり直すという、当社の操作的定義に基づくものです。
また、知見を責任をもって使える仕事と運用の条件を「判断デザイン」として整え、本人が選び、結果から学べる具体的な一仕事へ落とし込む「判断経験設計」につなぎます。これらは当社の実務体系であり、すべての仕事で必ず同じ順番に実施する固定工程ではありません。
詳細版レビューでは、導入前に確認したい論点まで収録
図解は、職場で論点を共有するための入口です。詳細版では、「自社で始めるとしたら、何を決め、何を確認するか」を検討できるよう、次の内容を収録しています。
[表: https://prtimes.jp/data/corp/68315/table/243_1_ab9602533bc4ce0cb775bd8c0e0970cd.jpg?v=202609101545 ]
付録には、「経験を学習材料へ整える記録様式」「二つの作業を分けるAIへの依頼文」「利用開始前と実践後の確認票」を掲載しています。
いずれも、職場に合わせて検討するための様式案です。既存の承認、判断権限、社内手順を置き換えるものではありません。
公開資料
図解版|全24枚
経験継承の考え方から、AIとの対話、学習材料の構成、組織での運用、研究と適用限界までを整理。
d68315-243-f87d89dffd21dd6ccdc2370780930ee6.pdf詳細版|研究レビュー・実務提案
本文11章、結論、調査方法・適用限界、16件の参考文献・資料、3つの実践用付録を収録。参考文献には原資料を確認するためのリンクを付しています。
d68315-243-89d30aa8fe921730aaa1b85719dbca99.pdf
本資料の位置付け
本資料は、2026年9月10日までに確認した日本語・英語の公開資料を基にした、論点別の研究レビューと実務提案です。全世界の文献を網羅した系統的レビューではありません。
方法論、実験研究、業務データの分析、理論提案、企業公式事例を区別し、研究で示されていることと、当社が提案することを分けて記載しています。
「経験者による材料づくり、人による検証、学習課題への構成、一仕事での実践、条件の異なる仕事への応用」という本資料の組み合わせ全体について、効果が実証済みであると主張するものではありません。また、図解の分類、実施手順、確認票、評価観点は、検証済みの統一尺度ではありません。
「ベテランこそAIを使う」という提言も、年齢による優劣を示すものではなく、若手のAI利用を否定するものでもありません。経験継承を目的とした場合に、組織として優先して整えるべき役割と仕事を示すものです。

組織行動科学(R)について
組織行動科学(R)は、組織で働く人の思考と行動が「なぜ起こり、なぜ続くのか」を、事業環境、歴史、経験から明らかにし、より善く再現するための研究・実践体系です。
リクエスト株式会社は、980社・33.8万人の働く人のデータを基盤に、企業で働く成人の研究と教育開発を行っています。


リクエスト株式会社について
リクエスト株式会社は、組織行動科学(R)を基盤に、企業で働く人の行動、判断、経験形成、組織学習に関する研究と実践支援を行っています。
代表取締役の甲畑智康は、2003年に東京藝術大学美術学部を卒業後、企業の人材育成・組織開発に20年以上携わってきました。芸術における創造の過程と、企業における判断形成の双方を背景に、AI時代の「判断デザイン」「判断経験設計」「判断構造設計Pro」の体系化を進めています。
会社名:リクエスト株式会社
代表者:代表取締役 甲畑 智康
所在地:〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目4番8号 京王フレンテ新宿3丁目4F
公式サイト:https://requestgroup.jp
会社概要:https://requestgroup.jp/corporateprofile
お問い合わせ:https://requestgroup.jp/request
